東芝グループでは「気候変動への対応」をマテリアリティの重要項目として掲げ、カーボンニュートラルの実現を経営における重要課題として位置づけています。「環境未来ビジョン2050」のもと、2050年度までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現することをめざし、事業所・工場と製品・サービスの両面における取り組みを進めています。
Scope1・2の削減に向けては、生産工程でのエネルギー使用量削減、エネルギー効率の高いプロセス・設備の導入促進、再生可能エネルギーの導入拡大などに注力しています。
Scope3においては特に排出量の多いカテゴリ1※1とカテゴリ11※2の削減を重視しており、調達取引先に対する取り組み状況の調査・評価実施による働きかけや、カーボンニュートラルに貢献する製品・技術の開発に取り組んでいます。
また、温室効果ガス排出量を削減する「緩和策」だけでなく、気候変動の影響に備える「適応策」の面でも、事業所・工場でのBCP対策や、防災ソリューションなど関連製品・サービスの展開を進めています。
- 調達した製品・サービス由来の温室効果ガス排出量
- 販売した製品・サービスの使用にともなう温室効果ガス排出量
■TCFD提言に基づく情報開示
気候変動に関する情報開示については、金融安定理事会により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同しており、更に日本国内の賛同機関の取り組み推進を目的に設置された「TCFDコンソーシアム」にも参画しています。東芝グループはTCFDの提言に基づき、気候変動が当社の事業に及ぼすリスク・機会についての情報開示を行うとともに、リスク低減・機会最大化に向けた取り組みを推進していきます。
ガバナンス
東芝グループは環境経営推進体制を構築し、「気候変動への対応」に向けた取り組みをグループ全体で推進しています。気候変動に関する環境アクションプランの各項目及び重点施策は、東芝グループ地球環境会議で策定及び進捗確認を行い、その内容をサステナビリティ戦略委員会及び取締役会へ報告しています。
戦略
地球温暖化が進み気温が上昇すると、台風や洪水などの自然災害が増え、人びとの生活や社会に大きな影響を与えます。また、海面上昇や少雨による干ばつなども懸念されます。このような影響に対処するため、世界では温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル実現に向けた動きが加速しています。
東芝グループはバリューチェーン全体におけるカーボンニュートラルの実現をめざし、気候変動に対する取り組みを進めています。自社グループ内での温室効果ガス削減に加え、社会における温室効果ガス削減に貢献する製品・サービスの創出拡大、調達取引先の皆様との協働による上流の排出削減など、バリューチェーンの各段階において積極的に施策を展開しています。
気候変動の影響によって社会にさまざまな変化が起こるなか、レジリエンスの高い企業経営を行うためには、気候変動が自社にもたらすリスク・機会を把握し、適切な対応を進めることが重要です。
東芝グループではサステナビリティ戦略委員会(委員長:社長)のもとで、気候変動関連のリスク・機会の把握とその対応策検討のためのシナリオ分析を、事業領域ごとに実施しています。
シナリオの設定
シナリオ分析においては、以下の2つのシナリオを設定しています。
●1.5℃シナリオ:
主に移行リスク・機会に関し、気温上昇を産業革命前から1.5℃に抑える世界を想定し、IEA(国際エネルギー機関)のNet Zero Emissions by 2050 (NZE) シナリオを使用しています。このシナリオにおいては、炭素税や省エネ関連規制、再生可能エネルギー導入によるコスト増加などが予測される一方、脱炭素エネルギー技術や省エネ製品・サービスの需要拡大などによるビジネス機会の拡大も予想されます。
●4℃シナリオ:
主に物理的リスク・機会に関し、産業革命前からの気温上昇が4℃を上回る世界を想定し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書のRCP8.5シナリオを使用しています。このシナリオにおいては、1.5℃シナリオのような規制面や技術面の影響は想定されませんが、一方で異常気象によって台風や水害といった自然災害のリスクが高まるなど、物理的な被害による影響が拡大する可能性があります。
分析方法
●対象範囲:
主要事業全体における影響を幅広く確認するため、2023年度はシナリオ分析の対象を、従来の5事業領域から以下の7事業領域に拡大しました。また、各領域においてもさまざまな事業を有しており、事業ごとにリスク・機会の内容や影響度が変わってくることから、事業部門ごとに詳細な分析を行い、各事業固有のリスク・機会を特定しています。自社の取り組みにとどまらず、上流(調達取引先)及び下流(顧客・利用者)も含めたバリューチェーン全体を分析の対象範囲としています。
-エネルギーシステムソリューション事業
-インフラシステムソリューション事業
-ビルソリューション事業
-リテール&プリンティングソリューション事業
-デバイス&ストレージソリューション事業
-デジタルソリューション事業
-その他(電池事業)
●時間軸:
短期・中期・長期の3つの時間軸を設定しています。「短期」としては、中期事業計画の設定期間をふまえた0~3年前後、「中期」としては、東芝グループ経営方針の設定期間及び温室効果ガス削減目標(中期)の設定期間をふまえた「2030年度」まで、そして「長期」としては、「環境未来ビジョン2050」及び温室効果ガス削減目標(長期)の設定期間をふまえた「2050年度」までを想定しました。
●分析のステップ:
TCFD提言に基づき、「リスク重要度の評価」、「シナリオ群の定義」、「事業インパクト評価」、「対応策の定義」のステップに沿ってシナリオ分析を実施しています。
最新のシナリオ分析では、上記の「対象範囲」に記載した事業領域において、共通のフォーマットを用いた分析を実施しました。まず各事業部門はそれぞれの事業状況をふまえて、TCFD提言が提示するリスク・機会の分類に基づき、「1.5℃」と「4℃」の2つのシナリオに沿って、気候変動が事業に与える移行・物理的リスクと機会を特定します。その後、全社共通の評価基準に沿ってそれぞれのリスク・機会の重要度を評価します。評価基準としては、(1)3段階の「影響度」(売上高や支出への金額影響によって評価)、(2)3段階の「可能性」(発生確率や頻度によって評価)を設定しています。この2つの評価結果を掛け合わせることで、最終的な「重要度」を「大・中・小」の3段階で評価しています。なお、今回はこの評価結果を基に、重要度が「中」以上のものを中心に開示しています。
また、これらの分析結果に対して関係コーポレートスタフ部門(経営企画部門、IR部門、サステナビリティ部門、環境部門)によるレビューを行い、各専門分野の視点も反映しています。更に、特定・評価されたリスク・機会のうち特に重要度の高いものや各事業特有のものについては、パラメータを設定して財務影響額や対策費の算出を行い、優先的に対応策の検討を進めていきます。
分析結果
2023年度に実施した最新のシナリオ分析による主な結果は以下のとおりです。
●東芝グループにおける共通のリスク・機会
分類 | 主なリスク | 重要度 | 主な対応策 | |
---|---|---|---|---|
移行リスク | 政策・ 法規制 |
|
中 |
|
技術 |
|
中 |
|
|
市場 |
|
中 |
|
|
評判 |
|
小 |
|
|
物理的リスク |
|
中 |
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分類 | 主なリスク | 重要度 | 主な対応策 | |
---|---|---|---|---|
移行リスク | 政策・ 法規制 |
|
中 |
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技術 |
|
中 |
|
|
市場 |
|
中 |
|
|
評判 |
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小 |
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物理的リスク |
|
中 |
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分類 | 主な機会 | 重要度 | 主な対応策 |
---|---|---|---|
機会 |
|
大 |
|
分類 | 主な機会 | 重要度 | 主な対応策 |
---|---|---|---|
機会 |
|
大 |
|
- 共通のリスク・機会における「移行リスク」および「機会」は、主に1.5℃シナリオ下を想定しています。また、物理的リスクは4℃シナリオ下を想定しています。
- 共通のリスク・機会の「重要度」は、上記「分析のステップ」に記載した「影響度」と「可能性」の評価をベースとし、リスク・機会への対応状況なども考慮して総合的に判断しています。
●東芝グループにおける事業別のリスク・機会
- リテール&プリンティングソリューション事業のシナリオ分析結果の詳細については、「東芝テックグループ統合報告書2024」をご参照ください。
統合報告書(アニュアルレポート)(東芝テック(株))
1.5℃シナリオと4℃シナリオそれぞれを想定し、事業別のシナリオ分析を実施した結果、リスクについてはエネルギーシステムソリューション事業における再生可能エネルギー関連製品に関する技術・市場リスク、デバイス&ストレージソリューション事業における製造工程での温室効果ガス排出に関する法規制リスク、デジタルソリューション事業における人材に関するリスクなど、各事業の特性により異なるリスク要因を特定しました。また、機会についても、再生可能エネルギー関連技術、鉄道システム、防災ソリューション、高効率LED照明、省エネ性能の高いエレベーター、POSシステム・MFP、パワー半導体、温室効果ガス削減に貢献するICTソリューション、車載用電池など、事業ごとにさまざまな機会を特定しました。
対応策
上記のシナリオ分析で特定・評価されたリスク・機会への対応策の一部については、既に各事業領域における中期事業計画に組み込み、施策を推進しています。今後も重要度の高いリスク・機会については中期事業計画に反映し、定期的に進捗を管理していく予定です。
なお、東芝グループはカーボンニュートラルに向かう社会的気運を機会ととらえ、事業においてインフラの構築やデータ社会の構築を進めることで、カーボンニュートラル実現に向けて貢献していくことを宣言しています。この方針の実効性を高めるため、まず2022年度に東芝グループ全社横断プロジェクトを立ち上げ、自社グループの事業所・工場のカーボンニュートラル化に向けて具体的施策を織り込んだ削減ロードマップを策定し、活動を推進しています。また、社会全体のカーボンニュートラル化への貢献に向けても、2022年度にエネルギーアグリゲーション事業強化に向けた組織改正を行うなど、事業を迅速かつ効果的に推進するための体制構築を行っています。
今後もシナリオ分析の結果を東芝グループの事業戦略につなげ、リスク・機会に適切に対応しながらレジリエントな企業経営を行っていきます。
- 東芝の理念と戦略
- 事業所・工場における気候変動への対応
- 製品・サービスにおける気候変動への対応
- カーボンニュートラルに向けた取り組み(東芝エネルギーシステムズ(株))
リスク管理
東芝グループの気候変動に関するリスク管理は、全社的なリスク管理プロセスのなかに組み込まれています。気候変動関連のリスクも含め、経営に大きな影響を及ぼすビジネスリスクについては、事業遂行上の経営判断において、東芝グループの持続的成長と企業価値向上を目的とした経営判断基準、許容できるリスク範囲、事業撤退の考え方を明確化し、「ビジネスリスク検討会」において案件ごとにリスクチェックの実施、最大リスクの確認、モニタリング項目の設定を行っており、特に重要度の高い案件は経営会議で審議する仕組みとしています。ビジネスリスク検討会は月に複数回、案件が発生するごとに開催されます。TCFD提言に基づく気候変動関連リスク(政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク、評判リスク、物理的リスク)もビジネスリスクの基準に含まれており、今後も気候変動にかかわる評価プロセスの強化に取り組んでいきます。
また、気候変動に特化したリスク管理については、サステナビリティ戦略委員会のもとで実施する主要事業領域におけるシナリオ分析のなかでリスクの特定や重要度の評価を行っています。ここで特定・評価されたリスクについてはサステナビリティ担当役員及び環境担当役員から取締役会に報告された後、当社グループの経営戦略に反映されます。
指標と目標
「環境未来ビジョン2050」では、2050年度までに東芝グループのバリューチェーン全体でカーボンニュートラル実現をめざすとともに、その通過点として、2030年度までに温室効果ガス排出量を70%削減(2019年度比)することを目標としています。
東芝グループの温室効果ガス削減目標は、パリ協定※1の目標に整合する「科学的な根拠に基づく削減目標(SBT)」として、SBT(Science Based Targets)イニシアティブから「ネットゼロ目標」の認定※2を取得しています。
(すべて2019年度基準)
【長期目標】
- バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を2050年度までにネットゼロ※3とする
【短期目標】
- Scope1※4、Scope2※5の温室効果ガス排出量の合計を2030年度までに70%削減
- Scope3※6の温室効果ガス排出量の合計を2030年度までに70%削減
- 国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、温室効果ガス排出削減に向けた国際枠組み
- 世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求するために、企業が中長期的に設定する科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標としてSBTイニシアティブが認定する
- 1.5℃水準の削減経路に整合する割合で2050年までにグロスの排出量を90%削減し、残余排出量は大気中から炭素を除去し永久に貯蔵する
- 自社での燃料使用・工業プロセスによる直接排出量
- 自社が購入した電力や熱の使用による間接排出量
- Scope1・2以外に自社のバリューチェーン(原材料調達・物流・販売・廃棄など)で発生する間接排出量
また、上記の目標の毎年の進捗を把握するため、「東芝グループ環境アクションプラン」において2026年度までの目標値を設定・管理しています。2023年度時点ではScope1・2、Scope3とも目標達成に向けて順調に削減が進んでおり、引き続きバリューチェーンの各段階における温室効果ガス削減施策を推進していきます。
なお、Scope1・2、及びScope3カテゴリ11(販売した製品・サービスの使用にともなう排出)の実績については外部機関による第三者検証を受けており、データの信頼性を確保しています。