研究開発・技術

【巻頭言】CPSによるエネルギー事業の新たな価値創造

電力業界では,低炭素・脱炭素化や,再生可能エネルギーへのシフトと電源の分散化,ESG(Environment,Social, Governance)に対する意識の高まり,電力システム改革による発送電分離と市場経済の導入など,大きな変化が起きています。これらの変化に対して,デジタル技術の導入により新しい製品・サービス・ビジネスを展開することで,電力産業自体の価値を高めていくことが求められています。
東芝エネルギーシステムズ(株)は,このような要求に応えるために,フィジカル領域で収集したデータをサイバー領域で分析し,その結果をフィジカル領域に戻すCPS(サイバーフィジカルシステム)を構築しています。CPSの構築にあたっては,フィジカル領域とサイバー領域の間で効率良くループを回し,新しい価値を生み出して,二つの領域で革新的な顧客体験を創出することが重要です。また,業界の変化に,柔軟かつスピーディーに対応することが肝要です。


当社は,エネルギーを"つくる","おくる","ためる","つかう"という各領域で,長年,モノづくりを行ってきました。その豊富な経験を通して得た技術や知識は,当社ならではのフィジカル領域の強みになります。この強みをベースに現状のビジネスとの連続性を生かして,顧客ニーズに沿ったサービスを提供するシステムを構築する必要があります。また,新たな価値創造と既存システムの最適化を両立させる上では,顧客も当社も単独では解決できない課題に取り組む場面も予想されます。
これらを解決するため,当社は,東芝のコーポレート部門であるデジタルイノベーションテクノロジーセンターと共同で,エネルギーシステム向けIoT(Internet of Things)プラットフォームを開発しました。マイクロサービスアーキテクチャーによる機能単位のサービス提供や,AIなどの最先端技術を駆使したシステムのアジャイルな開発ができるので,従来の受託型のシステム開発から脱皮し,顧客ニーズに柔軟かつスピーディーに応えるシステムを実現できます。また,情報・サービスが次々につながるコネクティビティーやオープン性を重視しているので,新旧のシステム間や共創パートナー同士の情報連携が容易になり,顧客やパートナーと課題を共有し,一緒に解決策を考えることも可能になります。
この特集では,エネルギーシステム向けIoTプラットフォームの特長と代表的なサービスについて紹介します。東芝グループが目指す「世界有数のCPSテクノロジー企業」への転換に向けた取り組みの一端をご理解いただければ幸いです。当社は,この特集以外に,水力,風力の発電所及び変電所にもエネルギーシステム向けIoTプラットフォームの適用を進めています。今後も様々なサービスを展開していくことで,顧客・共創パートナーとともに,エネルギー事業の新たな価値創造に向けた活動を加速していきます。

中井昭祐写真