研究者紹介

ペロブスカイト太陽電池次世代の太陽電池を開発する

トランスデューサ技術部門 志茂 俊輔

2019年入社 化学系化学コース

ペロブスカイト太陽電池の製品化に向けた研究開発

私はペロブスカイト太陽電池の研究をしています。再生可能エネルギーの利用促進に向けた社会への意識は年々高まっており、太陽光発電を増やしていく必要があります。ただ、現在主に用いられている結晶シリコン型太陽電池は重くて剛直なもので、設置できる場所も限られるので、そう簡単には増やせません。そこで、あらゆる場所へ設置ができる、軽量・フレキシブルなフィルム型の太陽電池が求められています。ペロブスカイト太陽電池は、150℃以下の比較的低温なプロセスでインクを使った印刷技術による製造ができるため、フィルム型の太陽電池を作製することができます。ペロブスカイト太陽電池は小さい面積のセルでは結晶シリコン型並みの高い変換効率が報告されており、これまでのフィルム型にはない高い発電能力が期待されています。そのため、従来の結晶シリコン型が置けなかった場所にフィルム型のペロブスカイト太陽電池を設置することで、都市部で大規模な太陽光発電を行い、再生可能エネルギーを地産地消するような社会が実現可能です。私はペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率や耐久性を向上させる研究で、製品化一歩手前の段階を担っています。

生産性と変換効率を同時に向上させる

私は、ペロブスカイト層と呼ばれる膜を高品質に成膜する塗布法や材料の開発を行っています。ペロブスカイト層は、光を吸収し電気に変換する役割を担う、太陽電池の性能を左右する重要な層で、ペロブスカイト材料の結晶が隙間なく並んでいます。従来の方法ではペロブスカイト層を構成する2つの材料を2回の工程にわけて塗布していました。しかし、この方法では、2回の塗布に起因した残留物が残るといった問題やプロセス完了まで時間がかかるという問題がありました。そこで、材料を混ぜて反応させたものを1回だけ塗布する塗布法を開発しました。インク開発や塗布プロセス、装置開発を経て確立したこの塗布法は「1ステップメニスカス塗布法」と呼んでいます。この塗布法の開発によって、塗布の工程を最大50倍短縮することができ、また、大面積のフィルム型のエネルギー変換効率が従来の14.1%から、世界最高値*1である15.1%*2となり、生産性と変換効率を同時に向上させることができました。

*1:2021年9月10日時点、当社調べ
*2:現在の公表値は16.6%

説明イラスト

本開発のペロブスカイト太陽電池の技術およびそれを用いたモジュールはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「太陽光発電主力電源化推進技術開発」事業の成果です。

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ある日のスケジュール

8:30
出社
  • ・メールチェック
  • ・スケジュール確認
9:00
実験開始
  • ・ペロブスカイト太陽電池試作
10:00
テーマミーティング(週1回)
12:00
昼食
13:00
実験再開
  • ・ペロブスカイト太陽電池の評価など
17:00
実験片付け、メールチェック、データ整理
18:00
退社

研究成果が社会実装されることを意識する

学生時代は、理学系の博士課程で、誰も作ったことのない分子を有機合成で作っていました。新しい化合物を作り、その特性を調べるのです。アカデミアで化学の道を進んでいくと、その延長線上にあるのは材料です。その材料を利用した製品開発にまで自分が関わることは稀です。一方、メーカーに就職すれば、材料を使った製品の研究開発にも関わることができます。電気製品の中にある材料に興味があったので、私は東芝を志望しました。そして今、ペロブスカイト太陽電池の研究開発に携わっています。ペロブスカイト太陽電池の応用については、あらゆる可能性を検討しています。柔軟で軽く、今までにない新たな設置場所を開拓できるので、従来のシリコン太陽電池とは別のマーケットを意識しています。ペロブスカイト太陽電池に対する社会の関心は高く、研究を行いながら、外部とのやり取りに時間を割かなければいけない時もあります。東芝の研究者として、期待と責任を背負う苦しさがありますが、報道や学会発表を行えば、たくさんの引き合いがあり、やりがいを感じます。周囲の期待値の高さに戸惑うこともありますが、研究開発の現状と期待とのギャップにはしっかり向き合わなければいけないと思っています。

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学生の皆さんに一言

『その時その時で、楽しいと思うことを選択する。それが一番だと思います』

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私は綿密に計画を立てて行動するタイプではなく、ある程度考えてダメなら、楽しいと思える方向に行動するといった行き当たりばったりな人間です。後悔することも多いですが、反省しながらより良くなる行動を考えることが多く、周囲からはよくポジティブだと言われます。学生の皆さんも取り組んでいる課題や研究、進路で悩むことが多いと思いますが、自分自身の経験や勘を信じて、その時その時で楽しいと思えること、自分が大切だと思うことを優先してやってみてください。