研究者紹介

HDDデバイス設計技術HDDの更なる
高密度化を追求する

ストレージデバイス技術部門 中川 裕治

2020年度入社 物理工学専攻

マイクロ波を用いて小さな磁界でも記録可能に

私はHDD(ハードディスクドライブ)の記憶容量を上げるための技術開発を行っています。HDDは、我々が普段使うPCに入っていることはもう少ないと思いますが、大規模な機械学習の普及やビデオ会議の記録などで大量のデータを保管・処理するニーズがあることから、クラウドシステムを支えるデータセンターでの需要が伸び続けています。HDDには記憶容量の増加が常に求められ、特に密度を上げることが課題になっています。HDDは小さな磁石を用いて記録しています。ディスク一面に粒上の磁石がちりばめられているのですが、50×20 nm2という極小の領域を1区画として、その中の磁石が上を向いているか下を向いているかで0と1を表します。磁石の上に書き込み用のヘッド、すなわち電磁石があり、電流によって上と下を切り替えることで回転するディスクに情報を記録していきます。このとき密度を上げるには、1区画を小さくするためにヘッドの先端にある磁極をどんどん小さくするのですが、そうすると磁界が弱くなってしまいます。そこで私は、マイクロ波を磁界に重ね合わせることで、弱い磁界でも書き込みを可能にする技術を研究しています。マイクロ波は振動する磁界ですが、電磁石からの磁界に対しマイクロ波を加えることで、一気に上向きもしくは下向きの方向性をもたせることができます。この技術はHDDや磁気記録デバイスの開発にとってとても重要であり、基礎科学としても興味を持たれ論文も数多く出されています。

説明イラスト

立場の違いを活かして、良いものを創る

私の研究領域は、マイクロ波を出すためのデバイスの設計です。細くなった電磁石の先端のすぐ横に数10 nmのスピントルク発振素子というデバイスを作りそこからマイクロ波を出すのですが、十分な強度の波を出すということが結構難しく、そこに取り組んでいます。設計の様々なパラメータを機械学習で最適化するなどしながら設計しています。こうして考案した構造をヘッドメーカーに提案して作ってもらい、磁石の動きが想定通りになっているかを評価しています。ただしその動きを直接見ることはできないので、どうやって見るかということも工夫のしどころになります。例えば、磁界が回ることで変わる小さな抵抗値を増幅させて挙動を観察する方法がありますが、それが本当に自分の見たいものなのか確証を得るまでメンバーとも議論をします。私の部署は出社率が高く、進捗確認や困りごとの相談などは対面で行っています。メンバーがすぐ近くに居るので、ちょっと振り向けば話しかけられる環境です。またデバイスを作ってもらうヘッドメーカーはアメリカの会社で、今は開発を早める段階のため週1回朝からミーティングをしています。相手は製造のプロで、こちらがこういうものを作って欲しいと言っても出来ないと言われることもありますが、製造の立場から新しい提案をしてくれることもあり、立場の違う者同士の議論はとても面白く感じています。

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ある出勤日のスケジュール

8:15
出社
  • ・スケジュール・メール確認
8:30
特許・論文原稿の作成
  • ・出社してくるメンバーとざっくばらんに議論
9:00
共同開発先との会議(週1回)
  • ・アメリカの技術者と英語で議論。日本時間の午前がアメリカ時間の午後。
10:00
実験開始:次世代HDDヘッドの試作品を評価
11:30
実験データ整理
12:00
昼食
  • ・それっぽいタイミングで誰かが席を立つのが合図
13:00
課内会議(週1回)または事業部との会議(週1回)
14:00
実験再開:次世代HDDヘッドの試作品を評価
16:00
シミュレーション作業:次世代HDDヘッドの設計について検討
  • ・シミュレーションデータ整理
18:00
退社

ある在宅勤務日のスケジュール

8:15
勤務開始
  • ・スケジュール・メール確認
8:30
特許・論文原稿の作成
  • ・会議用スライドの作成
10:00
課内のブレインストーミング参加
10:30
特許事務所との打ち合わせ
12:00
昼食
13:00
シミュレーションのプログラムを改造
16:00
シミュレーション作業:次世代HDDヘッドの設計について検討
  • ・実験/シミュレーションデータ整理
18:00
勤務終了

最先端の物理現象を、実際の製品に応用する

大学では物理学を専攻し、超伝導のデバイスを作るところから測定まで全部を自分でやっていました。東芝に入社したのは、自分が関わった実際の製品を社会に実装したい思いがあったからでした。入社したときから関わっているHDDは、さまざまな技術の積み重ねででき上がっており、最先端の技術が集まっていると思います。たとえばノーベル賞を取った巨大磁気抵抗効果をすぐさま採用したのがHDDで、物理的に面白い最先端の現象を実装するプレイグラウンドのような位置付けにあることを入社してから知りました。学会発表は学生のときも行っていましたが、企業の立場で参加すると、他社の目が気になったり、他社がどんなことを考えているかを聞き出す質問力も必要になったりして、視野が広がったと思います。いつかこの研究テーマも手離れして、事業部に任せることになると思います。次のテーマは、ある程度完成されつつある収穫期からではなく、最初から原野を開墾して深く耕し収穫まで持っていく一連のプロセスに携わってみたいと思っています。

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学生の皆さんに一言

『「面白いものを面白く」がモットーです。』

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これは自分の中で2つの意味を持っている言葉です。ひとつは、物事の中の面白さを感じ取り、それにしっかり向き合って欲しいということ。勉強、研究、仕事は楽しいことだけではありませんし、正直なところつまらないと思うこともあります。でも、一所懸命にやっていると絶対に「これ、面白いんじゃない?」という瞬間があるものです。それをちゃんと感じ取る力をつけて熱中していけば、自分がどのようなところに惹かれていて、何が本当にやりたいのかが見つかると思っています。もう一つは、その面白さを損ねないようにして人に伝える能力を磨いて欲しいと思っています。会社で強く感じたのは、一人でできることはないということ。だから、面白さを共有するような力をつけて、周りと一緒にやっていくことが自分の道を切り開くことにもつながっていくと思います。