研究者紹介

グラフェンバイオセンサデバイス技術検査対象物から
匂い分子を補集する

集積化デバイス技術部門 永井 弥夕

2015年度入社 物理電子システム創造専攻

※匂いセンサの研究は、2023年現在終息しています。

探知犬と同様の機能を持つ匂いセンサの開発

私は、空港や税関での水際検査で柑橘類や麻薬などの輸入禁止物の検出に用いるための匂いセンサを開発しています。現在行われている水際検査は、X線による貨物内部の可視化や、探知犬による貨物から揮発する匂いの検査が主流です。他方、世界的な人流や貨物量の増加により水際検査の負荷が過大になることが想定され、私たちは既存の検査を補間する手段として、人間よりも数十倍の嗅神経細胞を持つ犬と同等な感度を持つ匂いセンサの開発を進めています。私たちが開発している匂いセンサは、生体材料であるタンパク質を用いたバイオセンサです。匂いセンサは、高機能材料であるグラフェンという薄いシート状の膜を用いて作製した半導体デバイス(GFET:グラフェン電界効果トランジスタ)上に、生物の嗅覚受容体をモデルとして人工的に合成したタンパク質のプローブを固定しています。これに匂い分子を含んだ溶液を流すと、プローブが匂い分子を選択的に捕捉し、GFETの抵抗変化を電気信号に変換することでセンシングします。匂いセンサの実用化に向けて、現在、様々な検査のデモンストレーションも進めているところです。

説明イラスト

仲間と議論しアイデアを得る

私は主にプローブの観点から匂いセンサの感度を上げる研究をしています。文献や過去の実験を基にプローブを設計・作成し、プローブ自身の性能評価、匂いセンサとしての感度評価などを行っています。例えば、プローブの先に電荷応答しやすくなるマーカをつけるなど、様々な分野の現象やアイデアを活用してセンシングの可能性を探索しています。評価や結果の考察の過程で、一人で考えているとどうしても煮詰まってしまうことがあります。そんなときは仲間と議論をして新しいアイデアの種を共に創り、再度さまざまな条件を試す。その繰り返しをしています。コロナ禍の当初はリモートワークが中心だったのですが、研究のアイデアに関して電話で相談することは難しく、今は積極的に出社するようにしています。他に意識していることとして、計画をしっかり立てて研究を進めるということがあります。学生研究と企業研究で大きく違うと思ったことは、企業研究は特に〆切がシビアであるため先にゴールを設定し、そこから逆算して実験計画を作ることです。どんなに良い研究でも時間がかかりすぎるのは良くないので、自分の現在地を確認しながら進めていくことはとても大事だと思います。

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ある出勤日のスケジュール

7:40
出社
  • ・メールチェック
  • ・スケジュール確認
  • ・実験室の立ち上げと準備
8:45
実験(又はデータ解析)
  • ・におい検出に関わるものは1回の実験に丸1日要することが多いのでスタートの速さが重要
12:00
昼食
  • ・コロナ対策で最近はお弁当が多いが事業所の周りには美味しい飲食店もあります。
13:00
実験再開
  • ・実験の進み具合に合わせてお昼の時間を調整している事が多い
17:00
実験終了
  • ・翌日の実験の準備や片付け
  • ・データ整理/翌日出社の場合はデータをもとに実験内容の見直しも行う
  • ・資料作成
  • ・メールチェック
18:45
退社

ある在宅勤務日のスケジュール

6:30
勤務開始
  • ・メールチェック
  • ・スケジュール確認
  • ・ミーティング向けの資料など作成
9:00
テーマミーティング参加
  • ・オンライン会議の多い日に在宅するようにしている
12:00
昼食
  • ・出社日のごはんを作り置くことが多い。兼業主婦にとっては非常に貴重な時間。
13:00
個別ミーティング
  • ・業務内容の相談など
14:00
実験データ整理・資料作成・文献調査
  • ・出社時に取得したデータの解析や整理。またそれに関わる論文などの文献調査。
17:30
勤務終了
  • ・保育園へ子供のお迎えに

異分野を掛け合わせ新しい価値を生み出す

学生時代の専門は電気電子系で、近接場光という光の波長よりも十分小さな構造にレーザー光を当てた際に発生する非伝播光を使ったセンシング技術の研究をしていました。現在取り組んでいる研究と分野は異なりますが、センシングするという意味では基本的な考え方は共通している部分があると思います。学生時代に学んだ半導体の基礎知識を活かして現在は半導体デバイスの設計もしていますが、DNAやタンパク質といった生化学の知識はかなり不足していたので、高校の生物の教科書まで遡って勉強しました。自分の習得してきた知識と異なる分野の知識をうまく融合して新しいアイデアを生み出し、それを研究に活かすことができたときは、今までやってきたことは無駄ではなかったと感じられる瞬間でした。私は一つの分野を掘り進めるよりも、様々な分野の知識を掛け合わせて新しいものを生み出す方が向いていると思い、東芝に入社しました。幅広い分野を研究し個人の自発性を尊重する東芝の研究所であれば自分の性格に合っているのではないかと考えたからです。実際に今半導体とバイオの掛け合わせで新しい分野を開拓していくことは、すごく楽しいです。

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学生の皆さんに一言

『自分に自信を持つことは、とても大事です。』

永井 弥夕の写真

どちらかといえば私は自分に自信がない人でした。会社ではプレゼンテーションをする機会が多いですが、自信がなさそうに話す人よりも自信満々に話す人の方が相手によりメッセージが伝わります。自信があるという振る舞いをするのではなく、潜在的に自信を持つことは難しいことだと思っています。では、どうすれば潜在的に自信を持ち続けられるか。それは日々の研究や勉強を積み重ねた結果として自然に湧いてくるものだと思います。そして、自分のやってきたことを肯定することで、より強固な自信がつくはずです。その習慣が身につけば、その後の研究活動において大きな支えになり、武器にもなるのではないかと思います。 私の経験では、やってきたことは無駄になっていません。きっと皆さんも同じだと思います。面接ではご自身がしてきたことに自信を持って、堂々と話をしてくださいね。