研究者紹介

気象ビッグデータ解析・再エネ発電量予測高度な未来予測で
電力インフラを支える

システムAI部門 志賀 慶明

2016年度入社 物理学専攻

気象予測で社会インフラを正しく運用する

私の研究テーマは、気象予測です。東芝では特に社会インフラ系の事業を多く抱えていますが、気象予測データを用いて再生可能エネルギー電源などの発電量を予測することで、発電の運用の手助けをしています。気象庁や民間の気象会社のデータを用いることもありますし、自分たちで独自にパラメーターを立てることもありますが、いずれにせよ精密な予測が正しい運用の始まりとなります。日本の各地でスポット的にどこかの地域だけに絞り込んだ予測もできますし、海外でもできるように検討を進めています。よくやられている予測は、太陽光だけ、あるいは風力だけなど特定の発電だけですが、私の部門では、太陽光、風力に加え水力発電に関する予測も研究対象にしています。水力はダムに溜めた水を流して位置エネルギーを電気に換えるのですが、溜まっている水の量で発電量も変わってくるので、降雨量を予測してどのくらいのタイムラグで貯水量に影響するかを予測します。また、ゲリラ豪雨に対するレジリエンス対策としてのダム運用高度化にも研究の領域を拡張しています。

説明イラスト

東芝の得意とする電力インフラを高度化する

発電事業では、計画した発電量を守れなかった場合、事業者にペナルティが発生するのが原則です。しかし、発電事業者が気象条件などから再生可能エネルギーの発電量を正確に予測するのは困難です。そこで、火力や原子力といった従来のリソースも含めて電力の需給バランスコントロールに取り組むアグリゲーターという新しい事業が生まれており、東芝はその分野にも乗り出しています。東芝では電力会社にさまざまな機器を納めてきた経緯があり、電力の流通にも貢献できるはずです。気象予測とAIを組み合わせた再エネ発電量予測だけでなく、高精度な電力需要予測や電力市場の動向に対応した価格予測など、幅広くチーム一丸となって取り組んでいます。研究チームでここまで手広くやっているのは他の企業では見られないと思います。私は新規事業を立ち上げるメンバーのひとりとして、2021年から2022年まで東芝グループのエネルギー事業部門へ出向していました。研究では精度を高めてチャンピオンデータを出すことに注力しますが、アグリゲーターとして機能するのに必要なシステム開発の現場では、しっかり作り込んで運用を止めないことが最も重要であり、アジャイル開発の手法で進めていきました。2023年に元の部署に戻り、引き続き研究部門で事業を支えています。この気象データを東芝として一元管理し、電力以外のさまざまな事業に活用していく活動も並行して進めています。

志賀 慶明の写真

ある出勤日のスケジュール

9:00
メール・スケジュールの確認
10:00
事業部との打ち合わせ
12:00
職場の人と昼食
13:00
オンラインでのコミュニケーション
13:30
開発の会議
14:30
一休み
15:00
研究 or 報告資料の作成
19:00
退社

ある在宅勤務日のスケジュール

9:00
メール・スケジュールの確認
10:00
報告資料作成
12:00
食事の用意&食事
13:00
オンラインでのコミュニケーション
13:30
研究
19:00
勤務終了

基礎研究の世界から社会に役立つ技術の開発に転身

学生時代は物理学専攻で原子核物理学を研究していたので、電気とは関わっていませんでした。大学での研究は基礎研究に近く、家族や周囲の人に何をやっているのかをわかりやすく説明したつもりでも誰にも理解してもらえなかったので、世の中に役立つような研究がしたいという意識が強まっていきました。再生可能エネルギーには学生時代から魅力を感じていて、専門外ですがそのような研究に関われそうだったので、東芝を選びました。偶然にも今の研究テーマのメンバーは物理学科出身者で構成されており、部門全体では他にも数学系や情報系など様々な分野の人が在籍しています。入社してからは大学の電気工学系の人が読むような教科書を使い、電力の基礎的なところから勉強しました。ただし自分で必要なことを調べたり、それらを検証するのに必要な実験方法を確立したりするなど、研究者としての基礎的な部分は備わっていたと思うので、最初から何もできないということはなく、それなりにスムーズにこの研究テーマの世界に入れました。入社して1年ほどで、社外の発電量予測コンテストで優勝したので、研究成果がPRできるようになりました。今後は、この技術を電力事業に限らず、様々なインフラ系の事業に活用していくつもりです。休日には、妻と一緒に高尾山や丹沢などに登っています。研究のアイデアを登山中に思いつくのは、上りで少し苦しいときです。下山中に消えてしまうアイデアもありますが、結果的にいいアイデアだけが選別されていると思います。

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学生の皆さんに一言

『自分のやりたいことを見極めておきましょう』

志賀 慶明の写真

私には社会人になっても自分のやりたいことができているという実感があります。それは自分のやりたいことを見極めたうえで会社に入ったからだと思います。その志を持ったうえで入社したので、会社にいろいろなことが起きても自分はそれほど揺らぎませんでした。学生時代の研究か企業での研究かに関わらず、研究を始めるための背景や目的はとても重要だと思います。自分の研究は何のために、あるいは自分がどこに興味があるのかを、人に与えられたものではなく自分のものとしてしっかり考えるとより良いアイデアも出てくるし、必要なものも思い浮かぶと思います。そこを私自身も大切にして研究したいと思っています。それは会社選びも同じで、整理しておけば多少のことでは揺るがない強さを身につけられると思います。