研究者紹介

チップQKD量子暗号通信で近未来の
セキュリティを確立する

コンピュータ&ネットワークシステム部門 石垣 雄太朗

2016年度入社 電気電子工学専攻

量子暗号通信システムを小型・効率化する

世の中の情報通信には、あらゆるところで暗号技術が用いられています。例えばネットショッピングなどで入力するクレジットカード番号は、第三者のわからないように暗号化して送られています。しかしそういった暗号は、将来量子コンピュータが本格的に実用化したときには瞬時に解けてしまうと言われています。そのような世界でも絶対に安全な通信を実現するのが量子暗号通信/量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)で、東芝でも事業化を進めています。量子暗号通信では、暗号化に必要な鍵の情報を微弱な光に載せて送ります。その光に情報を載せる光学系を光集積回路としてチップ化して小型化や量産性向上を図るというものが、現在私が取り組んでいるチップQKDという技術です。ただ光をチップで送るだけでは量子暗号通信として成り立たず、そのあと信号処理をすることで正しくかつ安全な鍵を送受信間で共有することができます。信号処理では膨大な計算とデータのやり取りが必要となるので、高速な通信を実現しつつシステム全体の小型化を行うため、専用ハードウエアを開発して信号処理機能の小型化と高効率化にも取り組んでいます。このようにシステムを小型化することで、QKDの適用可能性を高め、量子コンピュータ時代にも安全な情報通信を実現するQKDネットワークの実用化を目指しています。

説明イラスト

英国ケンブリッジ研究所と共同で研究中

量子暗号通信システムは光学系と信号処理で1つのシステムになるのですが、光学系は主に東芝のケンブリッジ研究所で、私は信号処理の部分を受け持って共同研究しながら進めています。週に1回程度、イギリスは朝、日本は夕方から夜の時間帯にミーティングを行い、光学系と信号処理のすり合わせをしています。この分野は国際的にも競争が激しくなってきており、中国や欧州を中心に研究開発や製品化が活発に行われています。論文などからそれらの情報を得てベンチマークしながら研究を進めています。東芝では量子暗号通信システムを実際に製品として事業化していますが、私たちの研究の成果を製品に適用していき、事業の競争力を高めていきたいです。研究内容の特性上、私のやるべきことは範囲が広く、ハードウエアの構成、その上で動くソフトウエア、さらにいかに効率良く計算するのかというアルゴリズム、といったことを総合的に考える必要があります。システムの上位から下位まで幅広く扱うので求められる知識も多いですが、やりがいがあります。

石垣 雄太朗の写真

ある出勤日のスケジュール

9:00
勤務開始
  • ・メールチェック等
9:30
装置を使った実験
  • ・FPGAを使った装置の動作確認
12:00
昼食
  • ・社内の食堂で昼食
13:00
チームのデイリーミーティング (オンライン)
13:15
ハードウエア設計変更
  • ・FPGAデザインの変更
16:00
装置を使った実験
  • ・変更したFPGAデザインを用いた動作確認
18:00
動作確認結果の資料作成
19:00
勤務終了

ある在宅勤務日のスケジュール

9:00
勤務開始
  • ・メールチェック等
9:30
高速化検討
  • ・ハードウエアアーキテクチャ・アルゴリズム検討
12:00
昼食
  • ・自宅で料理
13:00
チームのデイリーミーティング (オンライン)
13:15
ミーティングのための資料作成
14:00
チップベースQKDの定例会議 (オンライン)
15:00
高速化検討
  • ・午前中の作業の続き
17:00
海外研究所とのオンライン会議・日本側でのラップアップ
19:00
勤務終了

社外ではIEEE若手団体のチェアマンも務める

私は2016年入社で、現在のテーマは2021年から取り組んでいます。2019年までは半導体を作る事業部の研究所に所属し、画像認識プロセッサの高速化をテーマに研究開発をしていました。当時は、自分の手がけた製品が世に出ていくことが嬉しかったですね。新しい研究テーマに取り組む際は1から勉強する必要がありますが、それが固まってきて形になってくると、自分のフィールドが広がった感じがして成長を実感できます。将来は現在のテーマを推進していくことに加えて、さらに自身の専門の適用分野を広げることにも挑戦してみたいです。元々の専門はコンピュータ・アーキテクチャであり、高速計算のための回路設計などをしていたのですが、LiDARやミリ波など自分のスキルが活かせる研究テーマや技術を探してみたいと思っています。社外での活動としては、IEEE若手団体のチェアマンとして学生や若手技術者向けのワークショップやイベントなどを開催しています。IEEEでは国内だけでなく海外の人々と交流する機会があるのが活動のインセンティブになっています。また、東芝未来科学館で小学・中学生向けの発明クラブの講師もやっています。講座はマイコンボードを使ったプログラミング体験で、最後にロボットを動かしてもらいます。子供が純粋に科学技術を楽しんでいるのを見るのは楽しいですね。

石垣 雄太朗の写真

学生の皆さんに一言

『幅広い視野、好奇心を持ってください』

石垣 雄太朗の写真

社会的な変化や会社の事情などによって、自分のやっている専門を退職するまで生涯続けられる人は数少ないと思います。自分のやるべきことが変わっていくとき、その変化に柔軟に対応できる人の方が、その先も活躍できると思います。もちろん専門性は必要です。最初に来るのは好奇心で、これは面白そうだなという気持ちがモチベーションになると思います。「自分にはこれしかない!」と決めつけるのではなく、数多くの視点を持つと仕事を楽しめるのではないかと思います。自分の培ってきたものは大切にしながら、そこに固執することなく、社外を含めていろんな分野の人とコラボレーションする、共創していく姿勢が求められています。世の中にはさまざまな技術や研究がありますが、それに触れることのできる機会があるのは楽しい。そういうマインドを持っていると物事がうまく進むと思います。