量子機械学習の社会実装に向けた応用技術開発
量子機械学習の社会実装に向けた応用技術開発

量子コンピュータによるAI活用のあり方を探る

AI応用技術開発部門 高橋 渓太
2020年度入社 電気工学専攻

AI応用技術開発部門 高橋 渓太
2020年度入社 電気工学専攻

量子機械学習の社会実装に向けた応用技術開発
量子機械学習の社会実装に向けた応用技術開発

量子コンピュータによるAI活用のあり方を探る

量子コンピュータを適用できそうな領域の探索

私は、ゲート型量子コンピュータ(以下、量子コンピュータ)という新しい方式のコンピュータでAIを実現する場合に、どのような使い方があり、現在AIが抱えている課題を解決できるのか、といったことを研究しています。量子コンピュータは開発途上の技術ですので、普段私たちが使っているコンピュータ(以下、古典コンピュータ)のように一連の処理過程すべてを完結させることは難しく、現時点では一部分を量子コンピュータに処理させる量子・古典ハイブリッド方式が検討されています。そういった中、AIをどのように量子コンピュータへ適用すれば古典コンピュータ以上の性能が得られるかを模索しながら研究を進めています。量子コンピュータについては、量子ビットの“重ね合わせの状態”※1によって計算速度が向上する点が注目されており、論文も多く発表されています。特に、迷路の最適ルート計算のように、計算が並列的に進められるような問題に対して、大きな効果を発揮すると考えられています。

  • 古典コンピュータのビットは0か1のどちらか一方の状態しか取れないのに対して、量子ビットは0と1の両方の状態を同時に取ることができる

海外の量子スタートアップ企業と連携しながら研究を進める

論文では、理論的に計算ステップが減るので速くなるなどと記されていますが、いざ動かしてみると理論通りにいかない部分も多く、現状では古典コンピュータよりも量子コンピュータの方が1ステップにかかる時間がはるかに遅かったり、通信ボトルネックなどがあったりして、現実的なゴールはまだまだ遠いと感じています。また、量子コンピュータはどのような方式でどうやって作ればいいのかまだ定まっておらず、まだ模索中の段階です。どの方式であっても応用可能な事例を探り当てられればいいのですが、動作させるハードウェアの構成によって微妙な違いがあります。そこで、ハードウェアの違いを意識せずに量子コンピュータ用のソフトウェアを開発・動作させることができる、量子コンピューティングソフトウェアプラットフォームを提供している海外のスタートアップ企業と連携しながら研究開発を進めています。このプラットフォームを活用することで、お客様の課題を量子コンピュータでどのように解決するかのユースケース探索やソフトウェア開発にフォーカスできます。最初は大変だった英語での会議にも慣れ、最先端の量子コンピューティング技術を持つエキスパートと気軽に議論しながら活動しています。


ある日のスケジュール


08:45   ●出社
           ・スケジュール/メール確認

09:00   ●プロジェクト会議
           ・実験進捗共有・実験方針検討など

10:00   ●技術開発業務
           ・コーディング、シミュレーションなど

12:00   ●昼食

13:00   ●課内定例
           ・社内情報共有、メンバーの進捗共有など

14:00   ●勉強会
           ・過去に利用した技術ノウハウ共有、
            論文調査など

15:00   ●技術開発業務
           ・シミュレーション結果解析、
            進捗資料作成など

18:00   ●海外量子スタートアップとのリモート会議

19:00   ●退社

量子コンピュータの進歩も含めて未来を俯瞰する

私たちのプロジェクトは、実験の方針を決定し進捗を管理するプロジェクトリーダー、スタートアップ企業とのミーティング調整やコミュニケーションの手助けをしてくれるコーディネータ、私も含めた実際の研究に関するアルゴリズム構築で手を動かすメンバー、という構成で活動しています。最初に時間をかけて量子コンピュータ向けに作られたAIアルゴリズムの事例を調べ、その中からピックアップしたものを分析問題に適用し、結果をプロジェクトメンバやスタートアップ企業と議論しながら、どのようなユースケースに使えるか理解を深めている状態です。また、進化途上の量子コンピュータをどのように取り扱えば性能を高められるかについては、研究開発センターの他部門と連携して研究を進めています。量子コンピュータでの効果的なAIの実現に向けて、仮説を立てる材料のような成果は見え始めていて、中には私たちしか取り組んでいないアイデアもあると思うと面白さを感じます。基礎研究に寄っているわけでもなく、まだ実用化できる段階でもないからこそ、研究と開発をあわせた研究開発という取り組みをしている実感があります。技術の流れだけで考えればこのテーマは10~20年続き、その頃には現在のAIのように地に足をつけた研究ができるようになっているのではないか、そして30~40年ほど経てば皆が普通に使っているような世界になるかな、と思っています。


学生の皆さんに一言


『社会人になると時間の制約が出てきます!』

よく言われるメッセージですが、これは本当のことです。だから膨大な時間がある学生のうちにできることをやっておきましょう。わけもわからず自転車で街を1周するとか、何でもいいのです。そんな時間の使い方を体験しておけば、学生の時楽しんだなと思った上で、社会人としての人生を歩んでいけると思います。ただ、社会人は私が想像していたよりむしろ楽しいと思うところも色々あります。学生ならではの楽しみがあるように、社会人ならではの楽しみもありますので、人生それぞれの時期でしかできないことをしっかりと満喫した上で、臆せずに、社会人としての人生に踏み込んでください。