気象レーダのデータを活用した気象予測
私は気象レーダとそのデータ活用の研究開発をしています。気象レーダは、自らが電波を出し、雨雲から跳ね返ってきた電波を受信することで、どこにどれくらいの雨が降っているか、どんな気象現象が起きているのかを探知します。東芝は気象レーダのシステムを販売していますが、2022年から国土交通省が所有する気象レーダの情報を民間企業が加工して営利目的に使うことが許されるようになったことを受け、気象レーダのデータを活用して気象に関する情報を提供するサービスも展開しています。例えばその中に雹(ひょう)を予測するサービスがありますが、そのような気象現象の予測の元となるデータを品質の高いものにすることが主な研究内容です。気象データサービスで扱っているのは既存のパラボラ型の気象レーダですが、東芝ではマルチパラメータ・フェイズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)という、1回のスキャンで3次元的にかつ仰角方向に広い範囲のデータが取れる新型の気象レーダも開発・製造しています。従来のパラボラ型では、高さを変えながら何回もスキャンするため一連の測定に5分程度かかり、その間に雲の形が変わってしまうことがあります。この気象レーダなら30秒で一括測定できるので、ゲリラ豪雨の雨雲に早く気付けるというメリットがあります。この新しい気象レーダを普及させていくとともに、この気象レーダから得られるデータの活用技術も検討している状況です。
ハードウェア製造の知見を気象サービスに活かす
気象に関する情報を提供するサービスには、雹などの気象現象の発生やそれがどこに移動するかを予測するアルゴリズムが使われますが、私はその前処理として、高品質なデータを用意するためのデータ整備に取り組んでいます。周辺のビルから反射してくる電波や隣のレーダからの干渉の除去、気象レーダごとの癖の調整など、きめ細やかに対応しています。特に都市部に多く設置されているX帯と呼ばれる周波数帯域を用いるレーダでは、強い雨が降るとその奥に電波が届きにくくなるという現象や、電波が弱まって精度が悪化するという問題があり、そこも考慮すべきポイントです。私の現在の担当領域はサイバー寄りの研究ですが、東芝としてはハードウェアのシステムを製造し続けてきた知見があるからこそ、何か問題が起きた場合にすぐ解決できることが強みのひとつです。またMP-PAWRに関しては、これから普及が進んでいくような早い段階で実機のデータに触れるのが面白いです。現在レーダの研究者だけではなく、気象現象を研究されている方々にも活用されて、知見が溜まってきているところです。気象レーダのデータを活用し、最終的にどのように防災に貢献できるかが一番大きなテーマであると考えています。昨今の異常気象に即応できるような仕組みづくりを、ハードウェアを活かしながら進められるというところが東芝の面白いところです。強いハードウェアがあるからこそできる解析があり、良い解析ができたらそれをハードウェアに入れていくような循環を自分たちで担いたいという思いが、我々のチームにあります。
ある出勤日のスケジュール
08:00 ●出社
・メールチェック
・データ分析、プログラミング(集中タイム)
12:00 ●昼食
・近くに座っている同僚を誘って
社食や近くの飲食店へ
13:00 ●技術交流会
14:00 ●チームの打ち合わせ(週1回の定例)
・連絡事項の共有、仕事に関する相談
15:00 ●プログラミング
・計算に時間がかかる処理を帰宅前に実行
18:00 ●退社
ある在宅勤務日のスケジュール
09:00 ●子供を保育園に送ってから勤務開始
・メールチェック
・データ分析、プログラミング(集中タイム)
11:00 ●スライド資料作成
12:00 ●昼食
・皿洗いや洗濯物の取り込みなど
13:00 ●事業部とのオンラインミーティング
・進捗確認と情報共有
15:00 ●文献調査、精読
・ミーティングで挙がった
課題に関連する文献を調査
18:00 ●勤務終了
フラットな人間関係で新しい利便を生み出す
学生時代は航空宇宙学科に所属し、スペースデブリと呼ばれる宇宙のゴミ問題について研究するラボで、スペースデブリを計測するためのレーダの研究開発をしていました。デブリの情報を収集できるレーダをいかに安く日本独自で作るかという課題に取り組んでおり、東芝に入社できたのもレーダというつながりがあったからだと考えています。東芝に入ってよかったと思うのは、職場の上司や先輩には研究者として尊敬できる人しかいなかったことと、人間関係がとても良い環境だったことであり、これは想像していなかった部分でした。東芝のような古くからある会社はもっと厳しいというイメージがあったのですが、研究開発センターは本当にフラットで、上司がまるで近しい先輩のような優しい対応をしてくれます。それが2階層、3階層上のかなり広い範囲を統括しているマネージャーでも、かなり謙虚な質問の仕方をする人が多いのが衝撃的でした。頭ごなしに否定されたことはなく、現場の研究者を信頼してくれる姿勢が、逆に自分の言った間違いが通ってしまうかもしれないという責任感にもつながっています。また一番近くで指導してくれた先輩は、私が素人の勘違いに近いような意見を言ったときでも、よく『何でそう思ったんだろうね?』と質問してくれました。それに答えていくうちに自分の勘違いや理解不足に気づくことができ、その気づきをもとに成長することができました。裁量を持ちながらも誤りは指摘してもらえるという、本当にラッキーな環境だと思います。学生時代の研究と違うのは、自分の研究テーマが本当にニーズがあるのかを考えなければいけないことです。技術的に面白いからやっていればいい、というのは最初の段階で、次の段階では事業のことを考えなければならず、それは制約でもありますが、社会実装に対する取り組みができているという実感を得られる部分でもあり、それが面白いと感じています。
学生の皆さんに一言
『自分の感じる“好き”を大切にしてください。』
私は今の仕事や一緒に働いている人たちが好きなので、平日も楽しく過ごせています。それは幸せなことであり大事なことです。就職活動には様々な選択肢があり、悩まれることが多いと思いますが、迷った時にはその職場や職場の人を自分は好きになれそうかという問いかけがヒントになると思います。自分の好きはどっちだろう?というのを一つの指標にしてもらいたいと思います。仕事は人と職場で構成されているものです。そのふたつがどちらも好きだったら幸せなのではないかと思います。