研究者紹介

高性能IMUの研究開発GPSに依存せずに
自己位置を同定する

集積化デバイス技術部門 村瀬 秀明

2022年度入社 物理工学専攻

高精度・超小型の慣性センサーを作る

私は慣性力を感知する慣性センサー(IMU:Inertial Measurement Unit)の小型化に取り組んでいます。たとえばエレベーターに乗って上昇すると体が重くなったように感じ、下降すると軽くなったように感じますが、あれが慣性力です。ものが動くと生じる慣性力を感知できれば、たとえ外部からの情報が得られなくても、物が動いたことを知ることができます。慣性センサーをドローンに載せれば、GPS通信ができない場所でも安定して飛行できます。私たちが目指しているのは、外部からの情報が一切得られない場合でも、東京からニューヨークまで到達できるほど高精度な慣性センサーです。慣性センサーそのものは世の中にありますが、この研究のポイントは、高精度、かつ超小型であることです。昔から航空機に搭載されている光ファイバーを利用した高精度の慣性センサーはとても大きなものですが、それに迫る性能で、ペットボトルのキャップに収まるくらいのサイズのものを作ろうとしています。近い将来、輸送の自動化が進んだ社会の実現に向けて、超小型の慣性センサーが求められています。サイズだけでなく、精度も高いまま、コストを抑えたものを社会に提供できればうれしいです。

説明イラスト

新設計のジャイロセンサーを共創する

すべての動きは、回転と移動で表現できます。動きを読み取る慣性センサーには、回転を知るためのジャイロセンサーと、移動を知るための加速度センサーが入っています。私の担当はジャイロセンサーです。センサーの主要な部品のひとつが振り子ですが、MEMS技術で振り子を作成しても左右対称にはならず、どうしてもバランスが崩れてしまいます。それをどのように補正して理想的な振り子として機能するように調整していくか、その方法を研究しています。デバイスを設計し、プロセス担当に製作してもらい、その性能を検証する、というサイクルを回します。できあがったデバイスの性能が思い通りではないときは原因を調べ、一つひとつ改善策を考えていきます。私が初めて設計したデバイスが数ヶ月後にできあがるので、楽しみに待っているところです。プロジェクト自体は私の入社の1年前に始まり、数年後の製品化を目標に計画が立てられています。このプロジェクトの果実を大きなものにすべく、アイデアを出し設計する人も、それを実行するチップを作るプロセスの人も、それを動かす回路の人も、それを実際に使ってデバイス全体として性能を出していく人も、メンバー全員がお互いに密にやりとりしながら日々奮闘しています。

村瀬 秀明の写真

ある出勤日のスケジュール

10:00
勤務開始
  • ・メール確認
  • ・一日の予定を立てる
10:30
論文などの文献の確認
11:00
測定と解析
  • ・夜間に走らせていたセンサー性能の測定結果を解析し、条件を変えて新たな測定を開始
12:00
昼食
13:00
ミーティング
  • ・共同開発しているメンバーとともに進捗を確認
15:00
ラボのメンバーとのディスカッション
  • ・測定結果やミーティングでの疑問点などについて議論
17:00
新しい評価手法のため、MATLABによるコーディング
19:00
退社

将来はノーベル賞も狙える研究者に

学生時代は物理工学を専攻し、物質の中にある電子の状態を調べて、電子がガラスになるという不思議な状態が実現する物質について研究していました。基礎研究は、いわばロマンを追っているので大変おもしろいのですが「これは世の中の役に立つのか?」と常日頃から思っていました。同じ研究室の先輩から聞いた話では、東芝の研究室はアメリカの大学とも共同研究していて、それが「これはノーベル賞を獲れるのではないか?」と思えるような熱い研究だったこともあり、東芝を志望しました。入社する前は物理を専攻していたことが役立つのか不安でしたが、ジャイロが動く原理も全部が物理です。物理って非常に大事だなと実感できました。現在の職場の雰囲気としては、いよいよ製品化するぞという機運が高まってきているのを感じます。一定の水準の性能が出て、時期が来たら、ノウハウも含めてすべての技術を事業部門に渡すことになります。そうしたら、次はまた、新しい研究テーマを手がけたいですね。たとえば量子系の室温超伝導のように、ある程度応用先も見えるし、基礎物理的にも非常に興味深いテーマでしたら、ノーベル賞も狙えるかもしれません。

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学生の皆さんに一言

『学校で学ぶべきは基礎。しっかり押さえておきましょう。』

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学生の頃にやる勉強は、いったい何を目的にしているのかと釈然としないケースもあると思いますが、きっと役に立ちます。研究室でも、企業の仕事でもバリバリに役に立ちますから、ちゃんとやったほうがいいです。それに、基礎であればあるほど、重要です。学生時代にやることは基礎知識中の基礎なので、そこはちゃんと押さえたほうがいい。そこに全力で取り組んだかどうかは、たとえば面接でも、絶対に相手に伝わります。面接では、自分の研究の意義をどの程度理解して進めているか、という観点で評価されることが多いと思います。基礎がしっかりしていれば、何を聞かれても自分の言葉で、確信をもって、説明できますよ。