研究者紹介

量子暗号通信技術新世代の暗号技術で
社会の安全性を確保する

コンピュータ&ネットワークシステム部門 高橋 莉里香

2012年入社 情報工学専攻

量子暗号のシステムアップに取り組む

現在、電子商取引などで使われている一般的な暗号は、計算が複雑だから安全であるという計算量的安全性がベースになっています。例えば、ある数字とある数字を掛け算するとこの値になります。というのは簡単ですよね。では21は何と何の掛け算でしょう?21を素因数分解すれば3×7=21と簡単に答えが出ますが、もっと大きな数字になると解くのが難しくなります。その難しさを安全性の根拠にしているのが今まで使われてきている暗号方式です。それに対して、量子暗号では情報理論的安全性と呼ばれる別の考え方をベースにしています。暗号に働きかけようとすると情報が欠けるので解けません、といったイメージです。現在使われている計算量的安全性をベースにした暗号は、量子コンピュータなど極めて計算能力の優れたコンピュータが完成すると複雑な素因数分解でも簡単に答えを出すことが可能になり、解読されてしまう可能性があります。量子暗号の場合は安全性の考え方自体が根本的に異なるので、たとえ量子コンピュータが完成しても暗号が解かれることはありません。このような量子暗号を今後世の中に出すためにはどのようなシステムが必要か、という観点で、研究に取り組んでいます。

量子暗号通信技術の図

実証実験をケンブリッジ研究所と共同で実施

量子暗号のシステムは、1:1でつながっているノード間だけが安全であるという制約があります。社会に実装していく上で、より長い距離で、また、ネットワークを構築して様々な人に利用してもらえるように、汎用性の高いシステムの実現を目指して研究をしています。プロトタイプのアイデアをプログラムとして組むことに加えて、現在は実証実験も行なっています。自分が概念を作ったモデルをまずは実験室で試して、間違いなく動くことを確認したら、実証実験を行うという流れです。量子暗号システムのハードウエア構成に関する研究を担当している東芝欧州研究所傘下のケンブリッジ研究所と連携して、ネットワーク構築に必要なソフトウエアを1から設計開発するという経験もしました。イギリスに行ってソフトウエアをシステムに実装し、学会で多くの聴衆の前で無事に動かせたときには大きな達成感がありました。自身の強みを発揮できる機会をいただいたとてもありがたい経験でしたし、他の部門と連携して何かを作り上げるというやりがいにもつながりました。

高橋 莉里香の写真

ある日のスケジュール

10:00
出社
  • ・1日のスケジュール確認
  • ・メールチェック/事務作業
10:30
量子暗号についての動向調査
  • ・論文や報告書、標準化会議の近況、ニュースなどの確認
資料作成
  • ・実証実験のネットワーク設計/海外研・協力会社へ提供する設計情報
12:00
昼食
13:00
プログラム情報共有ミーティング
  • ・プロジェクトの進捗確認/メンバーとの情報共有
開発ミーティング
  • ・モジュール開発の進捗確認/新規研究開発項目の検討
15:00
ソフトウェア開発
  • ・量子暗号ネットワーク化向けソフトウェア開発/量子暗号コアモジュールの修正
実験、検証
  • ・検証環境構築/ネットワーク実証実験向けソフトウェアの動作検証
19:00
退社
  • ・裁量労働制のため、出社時間・退社時間は状況により前後

最新の技術が社会に実装されるまで全力で取り組む

学生時代の研究テーマは、世の中の課題を解決するための最適化やシステムモデリングでした。得られた結果をできることなら社会に実装したいと考え、就職先はメーカーを選択しました。学生時代はシステムをモデル化して得られた結果が画面上に出て、その数値を見て評価をしていました。会社に入ったら、課題を解決するための改良を実際のものに適用して、結果が目に見えるようになりました。直近の目標は、東芝の量子暗号システムを実際に社会で動かすことです。量子暗号技術の実装が軌道に乗ったら次の研究テーマに行きたいという思いはありますが、今の自分は引き出しのどこを開けても量子暗号です。日本でも海外でも量子暗号技術はとてもホットなトピックなので、100%全力で取り組んでいきたいと思います。

高橋 莉里香の写真

学生の皆さんに一言

『会社に入るにあたり、自分で楽しいと思えることを選びましょう』

高橋 莉里香の写真

社会人として活動するということは、もちろん大変な部分もあります。だからこそ、自分にとって興味深く、楽しそうだと思えることをみつけて会社を選び、その道を進むのが良いと思います。そうすれば、大変なことでも全力でぶつかっていくことができます。職場の雰囲気も大事です。そして、その芯にあるところはもっと大切です。私は研究テーマを突き詰める、その過程が楽しいので、会社での生活は毎日が充実しています。研究者として集中できる環境であるという意味では、学生時代と似ているかもしれません。