研究者紹介

HDDデバイス設計技術記録密度の限界を新技術で突き破る

ストレージデバイス技術部門 成田 直幸

2011年入社 電気電子工学専攻

スピントロニクスを応用し記録密度を上げる

私はハードディスクの高密度化に関する研究をしています。現状の記録密度は1平方インチあたり1テラビット。これを2倍、3倍にしようとしています。主に取り組んでいるのはマイクロ波アシスト磁気記録と呼ばれている方式です。ハードディスクは磁石の板に電磁石を使って記録していますが、電磁石に加えてマイクロ波磁界を印加し、記録密度を上げる技術です。マイクロ波磁界を発生させるデバイスの設計や、そのデバイスを従来の磁気ヘッドと組み合わせた時の相互作用、磁気記録する媒体のデザインも含めて、ハードディスクの記録に関わる部分の技術を幅広く研究しています。ハードディスクの記録密度の向上は今まさに限界を迎えていて、従来の磁気工学にスピントロニクスの技術を取り入れて、その限界を乗り越えようとしています。研究自体の歴史は長く、世間に公開されてからは20年ほど、私が入社した時点ですでに東芝は取り組んでいましたが、実は私の学生時代の研究テーマでもありました。

説明イラスト

ナノメートルのスケールでデバイスを考案する

ハードディスクの媒体とヘッドの間の距離は数ナノメートル、ヘッドが飛行機だとすれば媒体にあたる地面からの高さはピンポン球くらいだとよく言われますが、マイクロ波を出す部分は飛行機の一番下についていることになるわけで、デバイスの設計は高い精度が要求される技術です。事業部門である東芝デバイス&ストレージ社とも密に相談しながら、シミュレーションを重ねて設計を進めています。ヘッドのサイズは数十ミクロン、ハードディスクに1ビットが書き込まれるサイズは50×20ナノメートル、原子何十個というスケールで成り立っています。ヘッドの先端も100ナノメートルを切る3次元の構造が細かく入り組んだ構造で、その最適化もミッションの一つです。シミュレーションではかなり複雑なパラメータを振ることになるので、最近流行の機械学習を取り入れて最適化の枠組みを自分で作り、自動化する方法の検討も進めています。

成田 直幸の写真

ある日のスケジュール

9:30
出社
  • ・スケジュール確認
  • ・メールの確認・返信
9:45
井戸端技術会議(適宜)
  • ・相互に、進捗すり合わせ・ポイント整理・疑問点解消
10:00
シミュレーションの進捗確認
  • ・データ整理・解析
12:00
昼食
13:00
共同研究先との会議
13:30
課内会議
15:30
シミュレーションの進捗確認
  • ・データ整理・解析
16:30
メール確認・返信
  • ・送付されてきた実測データの把握・解析
18:00
退社

大学時代の研究から現在まで続く探究の道

入社してすぐに担当したテーマが高周波アシスト磁気記録でした。学生時代に取り組んでいた時に世界初の成果を出し、今の上司に誘われて入社しました。それ以来、高周波アシストをベースに様々な仕事をしてきました。シミュレーションを走らせるマシンは会社にありますが、家からもアクセスできるので、在宅勤務自体は大きな問題にはなりません。とはいえ、関係部門や同僚に技術の説明はできても、自分の熱量はなかなか伝わらないといった苦労はしています。シミュレーションに携わっているのは自分が入社したての頃に私のメンターをしてくれた師匠と、自分と、いま私がメンターをしている弟子の3人です。50代後半と30代半ばと20代という布陣、しかもどちらかと言えば武闘派とあって、お互いの顔を見ながら意見を戦わせてバチバチ研究を進めるほうがモチベーションが上がります。2020年のコロナ禍以降は感染防止に努め、必要なときに限って会社に出社して研究をしています。
機械学習やAIがもてはやされる世の中ですが、技術の最先端でデータを生み出しているのはデバイスだという考えの元で働いています。デバイスとして今の物理をどう取り扱えるのか、どのようなデバイスができるのか、これからも探求していきます。

成田 直幸の写真

※撮影のためマスクを外しています。

学生の皆さんに一言

『何が正しく、何が間違っているかを明確に判断して、それを発信できる力が一番重要だと思います』

成田 直幸の写真

会社の中では、先輩がたくさんいる中でも発言をしていかないと、自分の研究の価値は見出せません。自分の研究に真摯に取り組み、自信を持って発言できる力が、研究者としては一番大切だと思います。学生の就職活動のお手伝いをしていると、気付くことがあります。年配の社員が出てくるとひどく緊張してしまう人が多い。でも、たまに全然緊張しているように見えない人がいます。研究にきちんと取り組んでいて、自分に何が足りないのかを理解した上で、自信があるところは自信を持って発言しているのです。そういう人は、望み通りの結果を手にしていますね。