研究者紹介

次世代SCiB™材料技術高性能な電池で
脱炭素化の動きに貢献する

機能材料部門 草間 知枝

2016年入社 金属工学専攻

※撮影のために保護メガネをはずしています。

新しい負極材料で高出力を達成する

EUをはじめ世界中で脱炭素化の動きが加速しています。東芝には脱炭素化に貢献できる製品の一つとして、SCiB™という名前のリチウムイオン二次電池があります。SCiB™は高い安全性や急速充電性能をもつ電池ですが、私たちはその負極材料をチタン酸リチウムからニオブチタン酸化物に替えて、SCiB™の優れた性能を維持しつつ、より高い容量や出力を出せる新しい電池を開発しています。私の担当は、大きな電流を流して大きなパワーを出すことに重点を置いた高出力タイプの電池の開発です。電池の中の抵抗成分を小さくする必要があり、たとえば電池部材同士の界面の抵抗を減らすなどの取り組みをしています。この電池の想定用途は、たとえば重量物を積載して坂道を登り下りする大型トラックや建機車両が挙げられます。高出力タイプの次世代SCiB™を大型車両に搭載すれば、特殊車両などを含めた商用車の電動化も進み脱炭素化の動きに大きく貢献することができます。

説明イラスト

実験・評価をチームワークで進める

電池の特性を決める重要な要素のひとつが電極です。電極の中は、さまざまな材料で構成されています。日頃は実験室で、電極材料を合成したり、電極の内部を電子顕微鏡で観察したり、また、それらの電極をつかって作った電池の特性を実験で評価しています。電池の分野では、教科書を見ても最先端の話は載っていなかったり、重要な部分が書かれていないことがあります。同じチームのメンバーと話をして、自分で手を動かしてみて初めてわかることもたくさんあり、学びながら開発を進めています。電池の研究開発チームには学生時代からずっと電池を研究していた人もいますし、電池を構成する有機材料や無機材料それぞれの分野に詳しい人も揃っています。すごくありがたい研究環境です。メンバーそれぞれの担当部分の実験や評価の結果を時折持ち寄ってミーティングを開き、研究の方向性を話し合っています。最近はオンラインですることも多いのですが、顔を合わせて議論した方がアイデアも出やすい気がしています。

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ある日のスケジュール

8:30
出社
  • ・メール対応、スケジュールの確認
9:00
実験(電池の特性評価)
10:00
研究進捗ミーティング
12:00
昼食
13:00
データ整理、実験
14:00
他部門と打ち合わせ
  • ・実験スケジュール確認、進捗状況の共有
15:00
実験(電極試作)
20:00
退社

専門性の異なる分野で研究者として再始動

学生時代の専攻は金属材料でした。修士卒で材料系のメーカーに2年間勤め、その後大学に戻り、博士号を取ってからもう一度就職したのが東芝です。磁性材料を研究するつもりで入社したのですが、それまで経験のない電池を担当することになり、当初は戸惑い、なかなか自信が持てませんでした。そのためミーティングで自分の考えを発言できないこともありましたが、今考えれば的外れではなかったと思うものもあります。その後、電池関連の大きな国際学会で発表する機会があり、たくさんの質問を受け、発表翌日にも声をかけられるなど結構注目されて、大きな自信になりました。皆が興味のある大事なことを研究している実感が得られ、とても良い経験でした。経験がないからと尻込みするより、自分が積み重ねてきたことに自信を持つことが大切なのでしょう。
企業では、自分の関わった研究の成果が製品になることが魅力の一つだと思います。高出力タイプの次世代SCiB™は、研究が順調に進めば、次のステップとして開発部門に技術を移管して製品化の準備に入ります。技術を移管する際、技術と一緒に研究者が異動し製品化に直接携わることもあり、企業研究者の醍醐味でもありますが、研究部門に残り、次の技術の種を作る方にも興味があります。電池にこだわらず、他の用途で金属材料やセラミックスなど無機材料を扱う研究もしてみたいと思っています。

草間 知枝の写真

※撮影のためマスクを外しています。

学生の皆さんに一言

『学生の時に、自分のできることを増やしておきましょう』

草間 知枝の写真

今振り返ると、学生時代は勉強などのインプットに集中できる環境でしたが、社会人になるとインプットしているだけでは不充分で、学んだことを活かして新しい物を生み出す、つまりアウトプットすることの比重が大きくなります。たとえば実験系であれば装置の測定原理などの知識や実験の技術はできるだけ多く深く身に付けておくと良いと思います。これらは会社に入って研究の対象が変わっても活用できることが多いからです。また、研究以外の面でも、その時必要な情報を素早く入手することや、自分の考えを端的に相手に伝えることなど、できることを一つでも増やしておくと、会社に入ってからきっと役に立つと思います。