研究者紹介

機械学習技術電気自動車の
“電欠”を防ぐ

システム技術部門 福島 亜梨花

2014年入社 生命医科学専攻

機械学習でバッテリー残量を予測

これから普及が見込まれる電気自動車が一回の充電で走れる距離は、ガソリン車が一回の給油で走れる距離と比較すると、短いのが現状です。途中でバッテリーが空になるのではないかと不安なので、給電所の間隔が長い高速道路には乗らない、という電気自動車ユーザもいます。そこで「あなたの車はこのあたりまで行けます」「ここの給電所で充電することをおすすめします」といった情報を提供するシステムを開発しています。ドライバーが走行前にスマートフォンで自車の基本情報を入力すると、走行開始後はGPSで車の位置と移動状況を計測し、機械学習の技術を利用して道路の勾配や気象状況も加味したバッテリー残量を予測します。「Bパーキングエリアでは残量が40%あります」「Cパーキングエリアでは残量が20%になります。充電が必要ですが、Cパーキングエリアの給電所は混雑しているので、あらかじめBパーキングエリアで充電を済ませてください」といった情報提供が可能です。

消費電力量予測の図

転移学習を用いた予測モデル

電気自動車の消費電力量は、車の過去の走行履歴データから消費電力量の予測モデルを構築して予測します。車種Aのデータは豊富にあり、予測モデルを作るのは比較的簡単だけれど、車種Bのデータは少なすぎて予測モデルが作れないという場合があります。この場合は車種Aと車種Bの違いをモデル化し、共通する部分は車種Aのデータを車種Bに転用して効率的に予測モデルを作る転移学習という技術を用います。転移学習も含め機械学習を扱う先輩や同僚研究者とは日々ディスカッションをしていますが、電気自動車の電力消費量予測技術をテーマにしているのは私一人です。2018年9月、研究成果をまとめた論文をコペンハーゲンで開催されたITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)世界会議で発表してBest Scientific Paper Awardをいただいた時は、達成感がありました。他の研究者のテーマについては、コーヒー豆を挽いて皆で飲みながら隔週でフリートークを行う茶話会の場が、ちょうど良い情報共有と意見交換の機会になっています。

福島 亜梨花の写真

遺伝子から電気自動車へ転進

私の所属している部門では、機械学習やデータマイニングのアルゴリズムを利用して、機械に分析/解析/予測させる研究に取り組んでいます。その対象は様々です。私の大学時代の専攻は生命情報系で、脳のネットワーク解析がテーマでした。入社してから2年間はヘルスケアの分野で遺伝子の型判定技術を担当し、主に遺伝性の病気を解析する研究をしていました。その後、研究対象が遺伝子から電気自動車に変わって3年あまりになります。研究対象が電気自動車に変わるとは予想もしていませんでしたが、技術の核は変わっていません。これから実証実験を始める段階なので、技術が社会に実装されるまで、しっかり取り組むつもりです。

福島 亜梨花の写真

学生の皆さんに一言

『研究職だけでなく、いろんな業種を見て就職先を選んでください』

福島 亜梨花の写真

自分が今やりたいと思う仕事、その仕事に対する情熱を、ずっと持続できますか。そのような選択をするのが、就職活動です。ですから、できる限りたくさんの業種や職種の人の話を聞くのがいいと思います。様々な可能性の中から、それでもやっぱり研究が好きなんだと思うならば、研究職に向いていると思います。研究職の魅力は、自分が疑問に思うことを突き詰められるところです。SEであれば制限された時間の中で実装方法を決めざるを得ない場合もありますが、研究職は課題に対する選択肢を数多く持つことができるし、それを突き詰めていくことが許されている職種だと思います。