五井火力発電所
どんな事業︖
AIの普及による電力需要の急増、天候に左右されやすい再生可能エネルギーの拡大、発電設備の老朽化による電力供給の不安定化が進む中、火力発電は依然として重要な電源と位置づけられています。五井火力発電所は、脱炭素化の流れの中で、環境負荷低減と電力安定供給を両立するため、LNG(液化天然ガス)を用いた世界最高水準の発電効率を実現する大規模更新事業です。設備更新により、CO₂排出量削減と電力の安定供給を同時に達成します。
開発のきっかけは︖
地球温暖化の進行に伴い再生可能エネルギーの導入は進んでいますが、天候依存による電力の供給不安定が課題です。さらに、AI活用やデータセンター増加により電力需要は一層高まる見込みです。
政府のエネルギー政策では、安定供給を重視し、特定の電源に偏らないバランスの取れた構成を目指し、その中でLNG火力の重要性が再認識され、五井火力発電所の大幅リニューアルでは、CO₂排出量削減と安定供給の両立が求められました。
プロジェクトリーダーから「次の50年、100年先の未来へとつなぐ発電所」としてブランド価値を高めたいという相談を受け、デザイン部門が参画しました。
“未来に誇れる発電所をデザインする”
Designer:鈴木毅
鈴木:このプロジェクトは、単なる設備更新ではなく、「未来に誇れる発電所をつくる」という強い思いから始まりました。関係者が集まるワークショップでは、「50年、100年先も地域のランドマークであり続ける発電所」というビジョンを共有しました。当初、発電所の更新という大規模な事業に対して、関係者ごとに「安全性重視」「コスト最優先」「地域との調和」など、異なる価値観や優先順位がありました。そこで全員の意見を丁寧にヒアリングし、「安心・安全」「誇り」「地域の顔」といったキーワードを軸としてコンセプトを策定し、事業者を含めた合意形成を進めました。これをベースに、「世界に誇る最高効率の発電設備」「京葉地区にふさわしい新たな顔」「従業員が誇れる安心・安全な空間と新たな付加価値を促す環境」というデザインのゴールを決めた瞬間、従来の発電所の概念を超える手応えを感じました。デザインの役割は、単なる見た目づくりだけではなく、関係者の想いを一つにまとめることにもあると改めて実感をしました。
このデザインゴールの考えは発電所に付帯するサービスビルにも取り入れています。従来の発電所では中央操作室で指示・コントロールを行うのが当たり前でしたが、デジタル化により操作室以外でも操作が可能になり、中央操作室に集約する必要がなくなりました。
こうした新しい働き方を踏まえ、オフィスと操作室の垣根をなくし、シームレスな空間を実現することで、より最先端な発電所であることを体感できるようにしています。
“関係者の想いを一つにするよりどころをデザインする”
Designer:山内敏行
山内:私は、鈴木さんの想いを具体的に可視化する役割で、主にデザイン全体のとりまとめやタービン建屋内のデザインを担当しました。関係者と合意形成した「世界に誇る最高効率の発電設備」「京葉地区にふさわしい新たな顔」「従業員が誇れる安心・安全な空間と新たな付加価値を促す環境」というコンセプトをベースにデザインを検討しました。長期間にわたるプロジェクトでは、担当者の入れ替わりもあり、コンセプトがぶれないように都度コミュニケーションを重ね、関係者の想いが一つになるように気を配りました。その過程では、関係者でデザインコンセプトを共有するための70ページに渡る資料を作ったのは、今ではいい思い出です。
また、3棟あるタービン建屋は全く同じ形なので、「自分がどこにいるのか分からなくなる」という課題があり、本田さんがベース案を出してくれた柱や梁を活用したサイン計画を、具体的に現場に落とし込みました。私は建築という面では素人なので、ゼネコンさんの建築設計部門の方々とも連携し、専門的な知見を取り入れながらデザインを形にしていきました。
こういった、大きな施設のデザインにおいては、デザイナーだけでも関係者が多く、分担や連携しながら進めていくのはとても大変ですが、チームでおこなうデザインの醍醐味でもあります。
Designer:本田達也
本田:私は、全体のデザインディレクションと、発電設備(パワートレイン)やタービン建屋内のデザインを担当しました。
「柱や梁を座標として活用する」というアイデアを実現するために、設計・施工チームと何度も議論を重ねました。机上のデザイン案と、実際の現場ではスケールが違うので、印象が大きく変わります。そこで、なるべく実装に近い形で確認できるよう、VRシステムを活用しました。担当者以外にも多くの人に確認いただくことができ、納得いただいて進めることができました。
もう一つこだわったのは、世界に誇れる最高効率の発電設備として、パワートレインの機能美を表現することです。コンバインドサイクル発電*が持つ一本の軸が複数のタービンを貫く特徴的な構造を際立たせるためにカラーリングと形状を検討し、パワートレインとしての一体感を持たせました。ここでも具体的なイメージを事前に共有するためにCGを作成して、担当者と調整を重ねました。
このように、試行錯誤の末に完成したデザインは、関わった全員の想いを形にしたものになったと思っています。
*コンバインドサイクル発電:ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた効率的な発電方式。
座標系が構造を兼ねるアイデアのダイアグラム
パワートレインデザインの初期スケッチ
Designer:菱木大河
菱木:私は主に施設外観のデザインを担当しました。
全く同じ建屋が3棟並んでいることになるので、地上に立ったときや建屋や煙突に登った時など、どこにいても自分がどの建屋の近くにいるのかわかるようにすることを重視しました。建屋ごとにグリーン・オレンジ・インディゴの3色を設定していて、これは建屋内のサイン計画やパワートレインの一部にも使用しており、全ての建屋内外で統一しています。配色は、視認性なども考慮しつつ、頭文字を取って「GOI」となるようなこだわりも入っています。
また、発電所などの設備を建てる場合は安全規格に則る必要があり、手すりやクレーン等の危険箇所は黄色にする決まりがあります。規格を守りながらも、建屋ごとの色使いをバランスよく配置するように工夫しました。
さらに、煙突のライティングも提案しました。完全燃焼する青いガス火をイメージしたライトアップで、夜景に映えるランドマークを目指しました。残念ながら現時点では導入されていませんが、地域の観光資源としての発電所の新しい可能性を模索できたことは大きな学びでした。
今後の目指す姿
インフラは長期間にわたり運用されるため、今回の更新事業のように、今後も国内外で老朽化した施設の更新が進んでいきます。デザイン部門としては、そこで働く人々や地域の方々、そして未来に関わる人たちのことまで想いを馳せ、寄り添うデザイン活動を続けていきたいと考えています。
地球環境や社会課題が複雑化する中、デザイナーへの期待はますます高まっています。五井火力発電所の事例を通じて、デザインの力で社会の安心・安全な日常を支え、未来へとつなぐ役割を果たしていきたいと考えています。
2025年度グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しています。
鈴木毅
2003年入社
プロデューサー
山内敏行
1991年入社
プロダクトデザイナー
本田達也
1995年入社
デザインフェロー
菱木大河
2004年入社
プロダクトデザイナー
WORKS LIST
株式会社東芝
DX・デザイン&コミュニケーション部
〒212-8585 神奈川県川崎市幸区堀川町72番地34





