台湾鉄路電気機関車 E500

どんな製品︖

電気機関車E500 は、東芝のオリジナルで設計・製造された車両です。機器ユニットモジュールを組み合わせて構築するセミオーダー型を採用することで、さまざまな用途に対応します。人間工学に基づき、実際に運用する運転員へのインタビューとプロトタイピングを行いながら顧客と共に作り上げた運転台や、モジュール設計によるメンテナンス性の向上、車両正面のエクステリアデザインを選択可能にしたことなど、量産機関車ながら地域の求める文脈に応えられる、カスタム性の高い機関車です。

開発のきっかけは?

台湾の鉄道は、世界で最も普及している1435mm の標準軌ではなく、1067mm の狭軌と呼ばれる規格を採用しています。このことから、標準軌の一般的な量産機関車が使えず、フルオーダー型の機関車を採用しています。台湾鉄路管理局では、現在運用中の機関車の老朽化から、新しい機関車を導入することになりました。東芝では、長期運用にも耐えられるメンテナンス性とカスタマイズ性に優れた、モジュール設計による機関車プラットフォームを開発しました。

Designer:宮路太平

宮路:東芝が国産の電気機関車第1号を製造したのは1923 年で、2023年に100 周年を迎えました。これだけの歴史を持つ製品ですが、実は鉄道車両の外観や運転台などにデザイン部門が介入したのは今回が初めてです。それまでは、技術者と運用者が機能の集合体を最適な形として導き出していました。
そこには、これまでのノウハウや技術が蓄積されており、まさに歴史を感じるものでした。それらの要素を踏襲しつつ、長期運用に耐えるメンテナンス性と地域に合わせたカスタマイズ性を両立するデザインを検討しました。

この機関車の大きな特徴はモジュール設計です。機能が分割され、標準的な部品を多く活用することでメンテナンスが容易になることに加え、用途や運行地域の地理的条件に準じたカスタマイズが容易に行えます。そのモジュール型の機関車の構造を生かして、先端部分のスタイリングを4種類から選べるような提案をしました。都市・郊外間交通では親しみやすさ、貨物も客車も運ぶマルチパーパスでは普遍的なさりげなさ、都市間交通の特急用ではスピード感、貨物専用では力強さを表現して、どのような用途で運行していく車両なのかを想起させるデザインです。クラッシャブルゾーンの役割を持つ先端部分にデザイン的な選択肢を用意するということは一般的ではありませんが、4種用意したことがユニークなセールスポイントになっています。

各部品のモジュール化とともに、保守性シミュレーションを繰り返すことで、
地域ごとのカスタマイズと高いメンテナンス性を実現。

“目的に沿った、普遍的なかたちをデザインする”

Designer:吉田卓史

吉田:私は主に運転台のデザインを担当しました。運転中の動きや視線を実寸のペーパーモックで検証したり、台湾で実際に運転している方々にも模擬体験していただき、使い勝手に関して意見を聞いたものを反映してデザインを決めていきました。人間中心設計の考え方でコントロールパネルが運転者から全てアクセスしやすい位置に配置され、ボタン類や計器類が見やすいようにしています。ある程度カチッとしつつも人に寄り添う形であり、製造性も意識してデザインを進めました。コ当初、コントロールパネルの形は扇形ので窓側にも台が迫っているようなデザインでしたが、その形では後方確認をする際に窓から乗り出そうとすると動きが阻害されてしまうことが分かり、最終的には前面はフラットで側面に囲い込むようなデザインにしています。基本は国際規格に準拠した寸法で運転台の高さなどを決めていますが、実際の運用はアジア系の方になるので、その身体特性に合わせてカスタマイズしています。細かいことですが、運転台の上に飲み物やお弁当を置いても滑ってこぼれないような工夫もしています。

宮路:台湾では建築家、プロダクトデザイナー、鉄道歴史家などで構成される美学専門家の方々がいるのが特徴的で、その方々とディスカッションしながらデザイン提案をするというのは、面白い経験でした。既存車両を含め多岐にわたる車両と接続することを考慮しながら、台湾のアイデンティティに通じるシンプリシティーを表現したフォルムやカラー、伝統的な型番エンブレムの採用など、長期の運用のなかで台湾の風景に溶け込んでいくようなデザインを共に作り上げていきました。

30 年後も安全にこの車両が運行されていて欲しいですね。この電気機関車プラットフォームは、日本では貨物の機関車として運用できるように設計してあります。これから日本だけでなく、アジアやアフリカを含めたさまざまな地域で展開されることを期待しています。

デザインの特徴

  1. 使用目的や運用状況に合わせたカスタマイズと高いメンテナンス性を実現するモジュールデザイン
  2. 人間工学に基づいた基本構造と、現地での運用にフィットするよう合わせ込んで設計された運転台
  3. 機能としての合理性の中にシンプリシティを表現したエクステリア

上記3つのコンセプトにより、地域の特性にあわせたカスタマイズを行うことで、30 年を超える保守・運用を快適で確実なものにして、地域に寄り添いながら鉄道事業者・旅客と交通産業に貢献することを目指しています。

2023 年度グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会)の「グッドデザイン・ベスト100」および「グッドフォーカス賞[新ビジネスデザイン](経済産業省 商務・サービス審議官賞)」に選ばれています。

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宮路太平

1999 年入社
プロダクトデザイナー

吉田卓史

2010年入社
プロダクトデザイナー

WORKS LIST

株式会社東芝 CPSxデザイン部

〒105-8001 東京都港区芝浦 1-1-1