新しい技術をデザインの力で伝える

 水素センサーのデザイン

どんな取り組み︖

東芝の研究開発センターでは、日々、様々な技術の研究を行っています。そこで開発された新たな技術を多くの方や企業に知ってもらい、興味を持っていただくには、この技術の価値を理解しやすく見せる必要があります。この技術を使った具体的な姿がイメージしやすいような製品例やそのユースケースなどを描くことが効果的です。デザイン部門では、このような技術を可視化して伝える取り組みも行っています。

この度、研究開発センターでは超小型水素センサーが開発されました。これは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)※技術を活用することで、従来のセンサーと比べ超小型・高感度・低消費電力・高速応答が可能となったことが特徴です。そこで、これからのカーボンニュートラル社会における水素インフラの普及とその安心・安全を確保するための、水素センサーを用いたソリューションを検討しました。このことに加え、水素インフラ以外への展開も模索し、ヘルスケア領域での可能性も具体化しました。

※MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)︓電気回路とセンサー・アクチェーターなどの微小な機械部品を微細加工によって1つの基板上に集積する技術。

Designer:千頭龍馬

千頭:この案件は、技術の可能性を分かりやすく伝えることが目的なので、そのソリューションについての実現性はある程度確保しつつも、技術を活用した理想像を描くことが主軸となります。普段行っている、実際に商品化されるものをデザインする活動とは違う面白さがありました。
技術について研究者に確認し、最初にいろいろな方向性のデザインを提案し、研究者とこの技術をどう発信したいか、するべきかというディスカッションを重ねていきました。

水素は、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして期待されています。
しかし、無色無臭で可燃性ガスであるため、漏れたら速やかに検知することが求められます。水素インフラの各所に設置された漏洩センサーだけではなく、携帯型を用意することで保守員の方々の安全性や安心感をさらに高めることができます。

そこで、スマートフォンなどの通信機器にアドオンして使用する水素漏洩チェッカーを考えました。今までになかった超小型化を実現しながら高性能なセンサーを搭載し、作業者の安心・安全を見守るというプロダクトの特性から、信頼感が表出するデザインを目指しました。

実際に使われるシーンを想定し、3D プリンターを活用したプロトタイプを何度か試作し、使い勝手にもこだわりました。素材についても、屋外などでのハードな環境を想定した上で、堅牢性を感じさせる金属を選定しています。

Designer:山内敏行

山内:私は、千頭さんとは違う切り口で、水素センサーの価値のさらなる広がりを伝えられないかと考えました。研究者へのヒアリングで、人間の体の中では腸内細菌の働きで水素が発生していると知り、自分の体から水素が出ているということに興味を持ちました。この技術の用途の広さを理解してもらうため、そして身近に感じてもらうためにも、世の中の関心が高い健康に関するプロダクトが提案できれば面白いと思いました。

呼気中の水素を測るには機器に呼気を吐き出してセンシングをする必要があります。デザインを考えるにあたり、その行為を日常的に行うためにはどのようなデザインであれば抵抗なく、簡単に行えるか、また、どのようなところに置かれて、どんなシーンで使われるか、お手入れは簡単でなければなど、人の生活に入り込んだプロダクトを想定して妄想を膨らませました。

研究者に提案したときは、想定外の提案だったようで、かなり驚かれ、そしてぜひモックを作ってほしいと言われるほど気に入ってくれました。研究者も想定していなかったものを提案できたのは、とても嬉しかったですね。

“まだ見ぬ日常をデザインする”

千頭:今回、一つの技術について別々の切り口で山内さんと私で担当し、それぞれでソリューションを検討していくことは、先輩のデザインの過程を横から垣間見ることができ、とても勉強になりました。自分が検討したアイデアを山内さんにも共感してもらえたので、自信を持って提案することもできました。

山内︓デザイン検討は、一人で悶々と悩むよりも信頼の置ける人に相談した方が良いと思っています。今回も、自分とは異なる視点で意見をくれるのでとても助かりました。これは、出された意見を取り入れるかどうかはそれぞれが決められるという前提があるからこそ、お互いに好きに意見を言い合えるし、気軽に相談もできるのだと思います。この案件に限らず、そんな信頼関係を築くのがとても大切だと思っています。

千頭:水素エネルギーの活用によるカーボンニュートラル社会の実現など、社会課題の解決には社内外の多くのステークホルダーと協力して取り組む必要があります。沢山の方々を巻き込むためにも、デザイナーは研究者とともに技術の可能性を咀嚼し、目指すべき未来を描く必要性を実感したプロジェクトでした。水素漏洩チェッカーは現在、様々な環境で実証実験を行っているところです。実際に世の中に出て、水素インフラの発展に寄与できると嬉しいです。

山内:医療費や社会保険など高齢化とともに増大する社会負担の軽減には、健康寿命の延伸が必要であり、それと同時に個々人の生活の質の向上も大きなテーマです。現在は、呼気水素モニターのアイデアを含め、いろいろなメーカーや企業にアプローチしているそうです。新しい技術の開発は、理想像を描くことで多くの人の目に触れて共感を呼び、事業へと結びつくきっかけになるかもしれません。デザインによってその可能性を拡げていきたいと考えています。

デザインの特徴

水素漏洩チェッカー

従来の据え置き型ではサイズが大きく持ち運びは困難で、分析に時間がかかっていました。また、消費電力が大きくバッテリーによる長時間動作は困難でした。東芝のMEMS 技術により新開発されたデバイスを用いることで持ち運びやリアルタイムでの計測ができ、長時間動作も可能な水素漏洩チェッカーを作ることが可能になりました。円筒とボックスを組み合わせることで、シリンダーとブロック形状の両方が基板サイズを吸収するのでより小さく見え、携帯電話にアドオンしても違和感が無いデザインとしています。また、着脱の際には円筒部分が指がかりになるように細部にもこだわりました。
iF DESIGN AWARD 2023(iF International Forum Design GmbH)に選ばれています。

呼気水素モニター

今まで腸内環境を計測するには大きな病院に行って検査してもらうか、検便をするといった心理的な負担のかかる方法が主流でした。実際に腸の環境を測る機器は大きく消費電力も多く時間もかかります。それに対してコンパクトかつ省エネで日常的に使える機器が登場したなら、私たちの生活が変わり社会貢献していける。そのような思いを込めて日常生活のどのような場面で使われるかを想定しながら、呼気を吹き込むことへの抵抗感をなくす形や、機器が置かれる場所まで想定してデザインしました。
iF GOLD AWARD 2023(iF International Forum Design GmbH)に選ばれています。

facebook X LINE Linkedin


千頭龍馬

2018 年入社
プロダクトデザイナー

山内敏行

1991年入社
プロダクトデザイナー

WORKS LIST

株式会社東芝 CPSxデザイン部

〒105-8001 東京都港区芝浦 1-1-1