プロトタイプ思考の実践

スケールフリーネットワークブローチ

どんな取り組み?

東芝は、独自のデザイン思考プロセス「カスタマーバリューデザイン®」により、様々な専門家がお客様と新しい価値を見出すための共創活動を推進しています。プロトタイプ思考は、その共創活動を支える思考方法の一つです。不確実性の⾼い世の中で新しい価値を⽣み出すには、従来のような分析的な課題解決だけでなく、新しい課題領域を直感的に捉え、着想したアイデアを素早く試し、観察とフィードバックによって探索と適応を繰り返すプロトタイプ思考が有効です。具現化しながらアイデアを考えることで創造⼒が刺激され、考えているだけでは発想できないアイデアが創出できるようになります。デザイン部門は共創活動の場として、東芝グループの共創センター「Creative Circuit®を企画、運営しており、その中にプロトタイプ思考を実践する場「メイカースペース」も併設しています。今回は、スケールフリーネットワークブローチを事例に、メイカースペースを活用したプロトタイプ思考についてご紹介します。

開発のきっかけは?

スケールフリーネットワークブローチとは、ネットワーク上にのみ存在するSNSを、リアル世界でもつながれるようにすることで、新たなサービスの創出出来ないか?と着想した、ブローチ型のデバイスのアイデアです。「ブローチをつけている人同士が近くにいると、仲間だと分かるようなものがあれば面白いのではないか」というアイデアに対し、プロトタイプ思考の実践として試しに作ってみたことがきっかけでした。

※スケールフリーネットワーク:ネットワークを構成する要素(ノード)のうち、ごく一部のノードに膨大な数のつながり(リンク)が集中する一方で、大部分のノードは少数のリンクしか持たないネットワークのこと(参考書籍「スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX」島田太郎・尾原和啓著)

Designer:衣斐秀聽

4時間で作成したプロトタイピング

衣斐:最初は既存のプロトタイピングツールを用いて、簡易的な体験を実証できるデモンストレーションモデルを制作しました。ブローチ同士を近づけると、LEDが光るというものです。モデリングデータを制作して、筐体の出力からソフトウエアのプログラミングまで4時間という短時間で実装しました。このプロトタイプを体験してもらうことで、 「あ、何か嬉しい。何か面白い。何か行けるかも。」と、アイデアの面白さや将来性を共感してもらい、仲間を増やすことができました。そこから、さらに事業部門にも参画してもらい、もう一段階試せることのレベルをあげたプロトタイプを作ることになりました。
デザイナーはもちろん、研究開発センターや、新規事業部、ソフトウェア開発センターなど、部門を越えた方々に有志でご協力いただきながら進めています。

Designer:本田達也

本田:初期のプロトタイプの段階では、様々なデザイン案がありましたが、それをもう一歩進めて、東芝として世の中に出していくためのプロダクトアイデンティティの視点と、より高精度な体験(テスト)実現のために参画しました。
メイカースペースと東芝の幅広い人材のおかげで「こんなのがあったらいいよね」というアイデアを自分たちの手で量産品に近い仕様でスピーディーかつ安価にスクラッチからできるのが面白いところです。メイカースペースの機材の仕様、調達可能な材料、組み立て工数など制限はありますが、工夫しながらデザインすることで製品に近いプロトタイプを実現できます。手にしたときのワクワク感も演出したくてパッケージまで作ってしまいました。

Designer:安達浩祐

安達:プロトタイプの第2段階では身に着けてのテストも見据えていたので、 試験中に壊れて検証できない状況にならないよう、3Dプリンター製の筐体ではなく、最終製品と同等な品質、強度の筐体を作りたいという思いがありました。メイカースペースには3Dプリンタを活用して射出成形を行えるデジタルモールドの設備があります。設計制限はありますが、通常の金型製作よりはるかに短い時間と低いコストで最終製品に近い筐体を作ることが出来ます。私は金型を設計した経験があったので、この新しい技術に挑戦したい気持ちもあり、本田さんがデザインした筐体の機構設計からサポートしています。

衣斐:アプリケーションも含め、どの方向に進んでいけばいいのかをまず実験して試せるように、今回はセンサーや通信機能も備えたワーキングプロトタイプを60個作り、実際に使って試してみました。その結果、期待していたサイズとの違いや、LEDのドット数の表現ではユーザーの満足な反応が得られないことが分かりました。今後、これらの結果を検討に活かしていく予定です。

“可能性をデザインする”

本田:機能試作を身につけてテストする場合、見栄えによって観察対象となる人の気持ちや行動が変わる部分があります。例えば、同じ料理でも紙皿で食べるのか、レストランで食器に盛り付けられたものを食べるのかで体験の質が変わるのと同じです。デザインの世界でよく使われてきたモックアップは、色や形、手触りの確認しかできませんが、それに対して今回のプロトタイプは実際に動作します。機能と見た目を合わせた体験がテストできる点が今までのモックアップとの違いです。このプロトタイプのためのデザインによって、アイデアの持っている可能性をより高精度に試すことができるようになります。

プロトタイプの4分類

“新規事業の種をデザインする”

衣斐:現在進行中のプロトタイプには、世界最小のBluetoothモジュールSASPや、IoTプラットフォームifLinkなど、東芝の技術が実装されています。このプロジェクトは人と人のつながりを強くすることでイノベーションを生み出す「スケールフリーネットワークの実現」をテーマにしています。そのため、SNSなどと連動して自分と相手との共通点をブローチの点灯で可視化するアプリケーションも開発しています。具体的な事例としては異業種交流会、アイドルのコンサートなど様々な状況での使用を想定し、機器のサイズやディスプレイのLEDで表現できることの検証などを通じて、新規事業につながる切り口を模索中です。

“あったら面白そうをデザインする”

安達:私は物を作るのが好きで東芝に入社しました。入社当初から在籍していた生産技術センターでは樹脂部品の生産に関わる様々なプロセスに関わっており、これらの経験を活かしてメイカースペースの活動の序盤からタッチしています。メイカースペースには、デジタルデータをもとに創造物を制作するための工作機械が揃っています。現在は毎週水曜17:30から社内向けの制作会を開催しており、社内の様々な部署の方々が、自由にものづくりをするために集まり、コラボレーションが生まれています。今後は社外の方とのコラボレーションや地域の方向けのイベントなど、一緒に共創・協働の体験ができる場としていきたいと思っています。スケールフリーネットワークブローチに続き、まだ世の中にない面白いものがここから生まれてくればいいですね。

今後に向けて

生活環境の変化や情報技術の発展などが目まぐるしく起きている今、新しい事業をつくるためには、多様な人々がビジネス創出の場に参加し、それぞれの視点を持ち寄ることで、従来の常識に縛られずイノベーション活動を起こそうという共創・協働と、仮設と検証を繰り返しながら探索的に目標に向かっていくアジャイルの考え方が有効です。今回ご紹介した事例のように、今後もメイカースペースの活用を通して、プロトタイプ思考を実践する人を増やし、社内外での共創・協働による新たなアイデア創出に貢献していきます。

プロトタイプ思考とメイカースペースの詳細はこちらをご覧ください。

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衣斐秀聽

2004年度入社
デザインエンジニア/メイカー
DESIGNERS >

本田 達也

1995年度入社
デザインフェロー

安達浩祐

2009年入社
デザインエンジニア/メイカー

WORKS LIST

まだ見ぬ日常をデザインする

目的に沿った、普遍的なかたちを
デザインする

水の未来をデザインする

世界観をデザインする

フルスクラッチで
まだ世の中にないものをデザインする

地域との共生をデザインする

インフラでの新しい体験をデザインする

地域の想いをデザインする

カタチのないものをデザインする

着眼点をデザインする

人の命を救うコミュニケーションを
デザインする

おもてなしを実現する仕組みをデザインする

検針員の心地よさをデザインする

設備と人との関係性をデザインする

医者が確実に治療できる空間をデザインする

業務の本質をデザインする

株式会社東芝 CPSxデザイン部

〒105-8001 東京都港区芝浦 1-1-1