特集・トピックス:福島第一原子力発電所 3号機の内部を探る
ー水中遊泳ロボットの奮闘

福島第一原子力発電所 3号機の内部を探るー水中遊泳ロボットの奮闘

(原子炉格納容器内部の調査を目的とした水中遊泳ロボット)
(原子炉格納容器内部の調査を目的とした水中遊泳ロボット)

3号機の格納容器内部調査に特化した水中遊泳ロボット

(原子炉概略図)
(原子炉概略図)

2017年6月15日、東芝は技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(IRID)の組合員として、国の「廃炉・汚染水対策事業費補助金」を活用して開発した、福島第一原子力発電所3号機の原子炉格納容器内部を調査する水中遊泳ロボットを公開しました。直径約13cm、長さ約30cm、重さ約2kgの小型ロボットで、水中を泳ぎまわるその姿から「ミニマンボウ」と呼ばれています。

3号機は、原子格納容器の底部に核燃料デブリが溜まっていると見られています。格納容器内部には床面から約6mの高さまで水が溜まっていることが確認されたため、その中を遊泳して内部状況を調査する目的で水中遊泳ロボットを開発しました。
水中遊泳ロボットは有線ケーブルによって約500m離れた免震棟から遠隔操作が可能で、カメラとLEDライトが前方と後方に搭載されているため、暗闇の格納容器底部まで調査ができます。 3号機は格納容器内部への貫通口が直径約14cmと狭いため、耐放射線性を高めた上で、従来型のロボットを小型化・軽量化しました。

(カメラとLEDが装備されている正面。写真はLED点灯時。)
(カメラとLEDが装備されている正面。写真はLED点灯時。)

2号機の教訓を活かした訓練プログラムを実施

2号機の教訓を活かした訓練プログラムを実施

3号機の調査を統括していた浅野真毅さんは、2号機の内部調査を振り返り「ものすごく悔しかった」と語っています。2月に実施した2号機の調査では、格納容器内の状況が分からない中でも調査できるように様々な想定をして訓練したのですが、調査の途中でロボットが動かなくなってしまいました。
一方、3号機は2号機と違って格納容器内に水が溜まっているため、遊泳することで3次元に空間を移動できるメリットがあります。ルートがふさがれるなどして地下階に行けなくなる可能性もありましたが、ロボットの小型化と徹底した事前の操作訓練により、燃料デブリと見られる物体を映像で捉えることに成功しました。

3号機でデブリらしきものが見えたときは「正直ホッとした。一番心配していたのは、ガイドパイプを入れてミニマンボウを着水させるところ。2ヶ月も訓練したので操作者の腕は信じていた」と浅野さん。

続けて、操作を指揮した松崎謙司さんは「2ヶ月間の訓練期間は非常に過酷なスケジュールで大変だった。できるだけ現場と同じ状態を模擬したかったが、破損した構造物の状況は全く分からなかったので模擬できない。障害物を置いたり、ミニマンボウがギリギリ通れる格子状の物を作っての訓練を繰り返し行い、どのような状況においても大丈夫なように習熟度を上げてきた」と振り返ります。

モックアップを使った厳しい訓練が成功の要因とし、今回の調査の目的は「200%達成できた」とするも、水中遊泳ロボットが途中で動かなくなることを想像して「去年末からよく悪夢にうなされた」と明かした松崎さん。

ロボットの小型化と推進力向上を同時に

開発で一番大変だったのは、ロボットの小型化と同時に推進力を高める必要があったこと。ケーブルを構造物に擦りながらも進めていくため、小型高出力モータを搭載するために制御回路が複雑になり、これを小さな水中遊泳ロボットに組み込むことが大変だったと言います。
さらに有線で移動するため、ケーブルは摩擦の小さいものを開発。ケーブルがゆるんで構造物に引っかからないよう、直線的に前進・後退を繰り返すなどケーブルを擦らない運用を訓練しました。
この水中遊泳ロボットの技術は「運転プラントの炉内構造物の定期検査にも使える」と浅野さん。無線ではないので用途は限られるが三次元を移動できるため、何か一般的なところでも使えるのではないかと考えていると言います。

燃料デブリ取り出しに向けて

これからの調査の方向性について浅野さんは「今回の原子炉格納容器内調査で得られた結果を使って、原子炉圧力容器内部調査やデブリ取り出しなどの次のステップに行くのでは」としています。
今後の廃炉への係わりかたについても「1F(福島第一原子力発電所)に係ったからには何かをしたいと思っている。また、ロボットが大好きなエンジニアにとっては、まさにロボットしか活躍できない環境であり、開発したものをすぐに投入できるのでモチベーションは高い」と語りました。その一方、放射線量が高いというリスクもあるため、勉強会を実施しているとのこと。
今回の調査を総括し、「成功体験は自信につながる。習熟訓練をしっかりやり、想定リスクを考え、それを対処する。この地道な努力が報われた。」と力を込めました。
今後は取り出し装置の研究や設計に軸足を移し、福島第一原子力発電所の廃炉に取り組んでいきます。