特集・トピックス:サイバーフィジカルシステム(CPS)による原子力プラントの価値向上
東芝グループではCPSにより付加価値を創出し、提供する方針を掲げています。
CPSとはこれまでお客様と培ってきた事業ドメイン資産から得られるデータを、当社ならではのAI技術で分析しフィジカルへとフィードバックすることで、さらなる付加価値を創出する姿を意味します。
原子力プラントで目指す姿
原子力事業では、これまで納めた計測装置、制御装置などを通して得られるプラントデータをもとに、サイバー空間上で分析することで、プラント価値を向上する業務支援(効率的な保全、設備利用率向上など)を提案していきます。事例として当社独自のAI技術の開発及び適用成果について説明します。
異常予兆検知システムの概要
原子力プラントでは一つの機器における異常が停止期間を長期化させるリスクがあります。機器の異常を早期に検知することで稼働率向上に貢献できます。顕在化していない機器の異常は、異常初期において相関を持つセンサの信号変化を正常時と比較することで検知します。異常予兆検知システムは図1に示す通り、異常データを含む実測値が異常予兆検知エンジンに入力されると、事前に学習した正常データから算出したプロセス量の予測値と実測値が乖離したときに異常として検知します。
異常予兆検知エンジンに適用したAI技術(オートエンコーダ)
異常予兆検知エンジンにニューラルネットワークの一種であるオートエンコーダを適用することで、高精度な検知性能を持つ異常予兆検知システムを開発しました。図2にオートエンコーダによる予測値算出の概略図を示します。まず、各プロセス量の時系列データを一定の期間(時間窓)で切り取り、入力データとして使用します。オートエンコーダは入力データの圧縮と復元を繰り返して、入力と出力が一致するように学習した結果からプロセス量の関係性を学習し、正常な状態でのプロセス量の予測値を算出します。オートエンコーダは時系列変化の相関を学習できるため、従来困難とされていた過渡事象時の異常予兆も検知することが可能です。
開発した異常予兆検知技術
実際のプラントにおけるセンサ信号にオートエンコーダを用いる際には課題があります。それは、図3のようにセンサ信号にはプラント動特性に基づく変動と、特性に無関係な微小変動が含まれるということです。そこでオートエンコーダを2段階化し、プラント動特性と微小変動を別々に学習させることにより、微小変動による影響を低減することを試みました。シミュレータによる模擬異常信号を対象に検証した例を図4及び図5に示します。単純オートエンコーダ(図4)では異常発生に対して検知が遅れていますが、2段階オートエンコーダ(図5)ではほぼ同時に検知できることを確認しました。
異常予兆検知システム
原子力プラントでは、運転員が系統単位に多くの重要プロセスを監視しており、検出された異常予兆/関連するプロセス量/プラント状態を適切に紐づけて伝達できることが求められます。当社では、プラントメーカの知識・経験をもとに、ユーザとの共創により、異常予兆検知システムの活用場面を想定したユーザインターフェースを立案しました。図6が開発した異常予兆検知技術を組み込んだユーザインターフェースです。プラント概略系統図をべーズに異常検知箇所を直感的に把握できるデザインとしています。また、異常検知時はプラント全体→系統→個別プロセス詳細へと展開できる階層表示としています。
実プラントでの検証
当社にて開発した異常予兆検知システムは稼働している発電所で実証実験中です。
運転データをオフラインで解析する運用の他に、稼働中のプラント信号をオンラインで監視し、より早期に異常予兆検知が可能であることを確認しています。