• 東芝レビュー 76巻5号(2021年9月)

特集:CPSカンパニーへの変革を加速するマネージドサービスへの取り組み

CPS(サイバーフィジカルシステム)カンパニーを目指す東芝グループにとって,マネージドサービスは成長を加速するために不可欠なものです。事業を取り巻く環境が大きく変化し将来予測が困難な時代においては,様々な要求や変化に柔軟に対応するため,AIやIoT(Internet of Things)などの先進技術を駆使して,新たな価値を創出していく必要があります。この特集では,これを実現する東芝グループのマネージドサービスへの取り組みを紹介します。

特集:CPSカンパニーへの変革を加速するマネージドサービスへの取り組み

大道 茂夫

マネージドサービスは,IT(情報技術)を効率良く運用するためのアウトソーシングサービスの一つとして始まった。マネージドサービスを利用する企業は,アセットライトや運用管理の低減を実現でき,急速に変化する市場ニーズに応えるための業務に集中して取り組むことが可能になる。

東芝グループは,CPS(サイバーフィジカルシステム)を構築し,効率的なインフラサービスを提供することを目指している。これまで開発してきたシステム・コンポーネント技術,更には培ったノウハウといった有形・無形の資産を活用し,マネージドサービスを拡充させていくことで,顧客と社会に新たな価値を提供する。

池谷 直紀・鹿野 市郎

CPS(サイバーフィジカルシステム)をマネージドサービスで提供する基盤としては,クラウドサービスが適している。企業は,これまでビジネスの目的に合わせてシステムごとにクラウドサービスを選定した結果,複数のクラウドサービスとそれぞれ個別に定義した運用をすることになり,これらを一元的に管理することが課題になっている。

東芝デジタルソリューションズ(株)は,セキュリティー技術,ネットワーク技術,監視技術,及び運用技術を共通化してこの課題に取り組み,素早い基盤準備と運用コスト低減を実現した。更に,これらの技術を組み合わせた仮想プライベートデータセンター(VPD)というフレームワークを構築し,基幹システム(プライベートクラウドシステム)にもその適用範囲を拡大した。

林 崇典・平山 剛史・芦川 将之

様々な分野でAIが注目されているが,実際の業務などでAI技術を利活用するには,導入コストを抑えて継続的な運用を可能にすることが課題である。

様々な顧客の課題を解決するため,東芝デジタルソリューションズ(株)は,AIサービスに必要な要素技術を顧客が利用しやすいマネージドサービスとして提供する,SATLYS AI共通基盤を開発し運用している。教師データの作成からモデル精度の監視までを包括的にサポートしており,継続的な運用が可能なAIサービスを構築し,素早く顧客のニーズを実現できる。

福島 伸之・近藤 雄二・藤田 慎一

サーバーの運用や,保守,障害対応といったシステム管理の全てを,自社のオンプレミス環境で行うと,大きな手間とコストが掛かる。近年では,一連の運用・保守業務をアウトソーシングする考え方が一般的で,それを実現するマネージドサービスが注目されている。

東芝デジタルソリューションズ(株)は,IoT(Internet of Things)向けスケールアウト型データベース(DB) GridDBを開発し,オンプレミス環境に提供してきた。今回,GridDBをDBaaS(Database as a Service)化したGridDB Cloudを開発し,2021年4月にマネージドサービスの提供を開始した。顧客は,運用・保守業務のアウトソーシングでIT(情報技術)システムの維持コストを低減できるほか,DBの導入期間を短縮できる。

熊崎 裕一郎・今井 聡

コンピューターシステムの保守においては,IoT(Internet of Things)の普及に伴い,監視対象機器数が飛躍的に増加しており,その安定運用に有効なマネージドサービスが注目を集めている。

東芝ITサービス(株)は,技術者が長年にわたって積み重ねたノウハウや仕組みを活用したマネージドサービスを提供しており,リモート監視サービスでは,警報処理の96 %を自動化して,措置が必要な案件を絞り込むことで,顧客のIT(情報技術)システムの安定運用を実現している。

朝日 一隆・渕上 康徳・佐藤 昌孝

昨今,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け,eコマース(電子商取引)による郵便物取扱量が増加し,物流作業の自動化・省人化ニーズが高まっている。また,郵便物の種類や形状も年々変化し,既存の郵便自動処理システムの住所OCR(光学的文字認識)では,宛先情報(郵便番号と住所)を読み取れない郵便物が増えている。

そこで東芝グループは,既存の住所OCRでは読み取れなかった郵便物画像を再度独自のOCRで認識させる,従量課金型セカンダリーOCRサービスを提供し,一定条件の下で約70 %の宛先情報を認識できることを確認した。また,あやつり™技術を適用することで,既存の住所OCR側の変更なしでセカンダリーOCRを導入できるサービスも開発している。

瀬戸口 達也

近年の予測困難な市場環境の変化に対応するため,迅速な経営判断が求められており,特に製造業の調達部門では,柔軟な調達戦略の立案と実行が求められている。

東芝デジタルソリューションズ(株)は,変化していく顧客の調達戦略に応えるために,戦略調達ソリューションMeister SRMをMicrosoft Azureのクラウドマネージドサービス上でSaaS(Software as a Service)サービスとして展開している。今回,顧客の掲げる調達施策の実現に向け,導入プロセスを体系化し,安全かつ短期間でサービスを提供する方法論を確立するとともに,外部の様々なクラウドサービスとの連携などで,継続的に調達施策を支えるサービス機能を拡充した。

長谷川 秀司・藤本 正人

小売業界では,消費者の購買意欲の促進を図るなどの目的で,ポイントサービスを導入するケースが増えている。

東芝デジタルソリューションズ(株)は,これまで小売業向けのポイント管理システムPointArtistを提供してきた。近年,電子商取引(EC)やキャッシュレス決済などの普及で小売業を取り巻く環境は大きく変化し,これに合わせて必要な機能を柔軟に提供できるマネージドサービスの実現が望まれていた。そこで,従来型のモノリシックなアーキテクチャーに代えて,モダンアプリケーションアーキテクチャー(注1)を採用することで,マイクロサービスとコンテナにより,柔軟かつ短期間に機能変更ができるPointArtist2を新たに開発し,提供を開始した。

(注1)システムを,マイクロサービスといった小規模なサービス志向プロセスの組み合わせで構成し,システムの構築や運用の効率化を図る手法。

荒木 大・萩原 裕志

我が国では,自動車産業の国際競争力の強化を目指し,自動車産業のサプライチェーン全体での共同デジタル試作を可能とするモデルベース開発(MBD:Model Based Development)手法の構築を経済産業省が推進している。その一環として,2021年度からMBD推進センターが始動する。

東芝デジタルソリューションズ(株)は,(株)ネクスティ エレクトロニクスと共同で,MBD推進センターの会員企業向けに,自動車開発のためのモデル・データ共有サービスと分散・連成シミュレーションサービスを提供するためのプラットフォームVenetDCPを開発した。その活用によって,企業間あるいは部門間において,自部門のモデルの秘匿性を保持したまま,相互にモデルの利用が可能となることを確認した。

山本 修二・宮崎 真悟・益田 崇

近年,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)へつながる様々なイノベーションを社会全体で起こしていくため,公正で自由なデータ流通と利活用とが求められている。

そのような中,東芝データ(株)は,“データを価値ある形に変えてよりよい未来を共に創造する”ことをコンセプトに事業を進めており,最初の取り組みとして,東芝テック(株)が運営している電子レシートサービス“スマートレシート”の購買データを加工・分析して,ほぼリアルタイムに企業や自治体などのデータ活用事業者に提供する,購買統計データサービスを2021年5月に開始した。また今後,より高度なデータサービスを提供したり,取り扱うデータの範囲を拡大したりできるようにするため,基盤となるデータサービスシステムにマネージドサービス技術を適用して,サービス運用の統合化を進めている。

鈴木 賢・泉 泰一郎

東芝デジタルソリューションズ(株)のシミュレーテッド分岐マシン(Simulated Bifurcation Machine,SBMと略記)は,クラウドサービス上のGPU(Graphics Processing Unit)で組み合わせ最適化問題を解くサービスで,大規模な問題の近似解が高速に得られる。しかし,現実の組み合わせ最適化問題には制約条件が伴い,良い近似解を得るには,制約条件に合わせてパラメーターを調整する必要がある。これは,利用者にとって時間と手間の掛かる作業であり,SBMの実用上の障壁となっていた。

今回,このパラメーター調整を自動化し,利用者の手を煩わせることなく良い近似解が得られる新たな手法を開発し,マネージドサービスとして提供するときに求められる使いやすさを実現した。

一般論文

濱川 洋平・日高 亮・辰村 光介

組み合わせ最適化は,社会や産業の様々な場面で頻繁に現れる重要課題である。シミュレーテッド分岐(SB)は,組み合わせ最適化問題を高速に解く東芝独自の疑似量子アルゴリズムである。

東芝グループは,2019年に公開されたクラウドサービス版に加え,今回,リアルタイムシステムへの組み込みが可能なオンプレミス版シミュレーテッド分岐マシン(Simulated Bifurcation Machine,SBMと略記)を開発した。超高速演算回路を実現するFPGA(Field Programmable Gate Array)回路構成データと,シンプルかつ汎用性があるAPI(Application Programming Interface)をパッケージ化し,更にリアルタイムシステム適用性を実証するための参照デザインも開発して同梱(どうこん)した。リアルタイム動作が可能なイジングマシンとして,幅広い分野への応用と,新たな価値の共創が期待されている。

岡野 資睦・伊見 仁・大藏 厳太郎

自動車業界では,電動化に伴ってパワー半導体への需要が高まっている。また,車載システムを効率的に開発するために,モデルベース開発(MBD)手法を用いたシミュレーションで,システム全体の機能・性能を検証する技術が導入されている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,車載用としてMOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスター)などを製品展開しており,デバイス供給とともにシミュレーション用のデバイスモデルも提供している。高度化及び複雑化する車載システムに対応するため,シミュレーションの高精度化に伴う計算時間の短縮が課題であった。そこで,スイッチング動作によるシステムの熱特性とEMI(電磁干渉)ノイズに用途を定め,高精度かつ高速なシミュレーションを可能にするAccu-ROM(Accurate Reduced-Order Modeling:精度保持縮退モデリング)技術を開発し,MOSFETの選定やスイッチング速度(スルーレート)を決定する際に有効であることを確認した。

南 圭祐・小池 竜一・伊藤 俊夫

東芝グループは,様々なIoT(Internet of Things)システムに必要な共通機能をクラウドサービスで提供するIoT基盤サービス HABANEROTSを開発し運用することで,グループ全体のCPS(サイバーフィジカルシステム)への取り組みを推進している。HABANEROTSは,クラウドシステム上に構築されたサーバー側のソリューションであるが,日増しに重要度が高まるCPSサービスのセキュリティーは,エッジデバイスを含めたシステム全体で確立する必要がある。

そこで,今回,HABANEROTSに接続するエッジデバイスの状態を正しく認識するために必要なデバイス認証技術と,脆弱(ぜいじゃく)性のないソフトウェアに更新できるソフトウェア更新技術を開発した。

R&D最前線

西村 圭介

映像から作業者の動きや姿勢を自動的に分析することで,製造現場の効率的な生産性評価を実現

製造現場では,生産性の向上を実現するために,作業者の動きや姿勢を分析して生産性評価を行っています。従来は,分析手法を習得した分析者が作業者を目視で分析することが一般的でしたが,観測タイミングでしか作業を分析できない,分析者のスキルによって分析結果にばらつきが生じるなどの問題がありました。

東芝は,作業者に負担を掛けずに継続的に映像を取得可能な定点カメラに注目し,映像解析を用いて作業者の動きや姿勢を自動的に分析して生産性を評価する技術を開発しました。

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