• 東芝レビュー 78巻6号(2023年11月)
東芝レビュー 78巻6号(2023年11月)

特集1:上下水道インフラの持続的発展を支える水環境ソリューション

特集2:DX時代に進化を続ける計測・制御システム          

上下水道インフラの持続的発展を支える水環境ソリューション

私たちの日常生活に必要不可欠な上下水道は,現在,設備の老朽化や,財政難,人口減少による技術者不足,激甚化する災害,環境負荷低減などへの対応といった多くの課題に直面しています。東芝グループは,長年上下水道事業に携わってきた経験と培ってきた水処理技術に,IoT(Internet of Things)やAIなどの最新技術を組み合わせて,これらの課題解決に取り組んでいます。この特集では,上下水道インフラの持続的発展に貢献する水環境ソリューションを紹介します。

DX時代に進化を続ける計測・制御システム

計測・制御システムは今,スマートマニュファクチャリングを目指して,DX(デジタルトランスフォーメーション)化を加速しています。製造現場の多様なデータを利活用してリアルタイムな経営判断につなげるために,東芝グループの総合力と実績で,OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)を融合し,現場からのDX化の推進を支援します。この特集では,OTコンポーネントとITソリューションの融合技術及び現場への応用事例を紹介します。

 

特集1:上下水道インフラの持続的発展を支える水環境ソリューション

梅田 賢治

水・環境に関する世界的なメガトレンドは,人口増加や,急激な都市化・工業化による水資源不足,地球温暖化による気候変動などが挙げられる。一方,国内では,人口減少に伴う技術者不足や財政難,インフラ老朽化,激甚化・頻発化する自然災害への対応,脱炭素による環境負荷低減といった課題が顕在化している。また,新型コロナウイルスの感染拡大により,社会システムの転換が進み,より一層の省力化・省人化が求められている。

東芝グループは,これらの課題を解決するため,長年培ってきた水処理技術と,急速に進化するIoT(Internet of Things)やAIをベースとしたデジタル技術を融合し,新たな価値を創出するCPS(サイバーフィジカルシステム)ソリューションを提供することで,上下水道インフラの持続的な発展に貢献している。

木村 彰秀・斗成 聡一・穂刈 啓志・平岡 由紀夫

国内の上下水道事業では,技術者不足が深刻化しており,限られた技術者数で施設運用していくための支援手段が求められている。

東芝グループでは,このようなニーズに応え,IoT(Internet of Things)・AI技術を活用し,熟練技術者が経験や知識で行っていた業務の支援に有効なCPS(サイバーフィジカルシステム)ソリューションを,上下水道統合プラットフォームTOSWACS-Nestaから提供し,施設の維持管理効率化及び省力化に貢献している。今回,TOSWACS-Nestaの蓄積データを活用して,上下水道施設の予防保全業務を支援するポンプ性能推定機能を開発し,その有効性を実証した。また,下水処理場の活性汚泥状態を自動で診断する技術の構築に向けて,水質指標の一つである活性汚泥のフロックサイズを顕微鏡画像から自動測定して定量化する技術を開発し,精度約90 %以上を達成した。

毛受 卓・大西 祐太・王 玏

上下水道事業では,環境問題への対応に加えて,人口減少に伴う料金収入の減少や,設備の老朽化に伴う更新費用の増大,少子高齢化に伴う技術者不足や技術継承などの社会問題への対応として,施設運用のコストの削減やノウハウの活用,運転員の管理負担軽減が求められている。

東芝グループは,これらのニーズに応えるため,IoT(Internet of Things),AI,及び高度制御技術を活用して上下水道施設の運転を支援し,運用コストを低減しつつ処理水質向上や環境負荷抑制を実現する,プラント運転最適化ソリューションの提供に取り組んでいる。今回,浄水場の流入水質を予測して塩素及び凝集剤の注入量を最適化する技術や,既存躯体(くたい)を活用して下水道施設からの放流水質を向上させる技術を開発し,実証試験で運用コスト削減への有効性を確認した。

鳴海 啓太・中村 健介・杉野 寿治

世界規模で自然災害が増加する中,我が国ではインフラの老朽化が進んでおり,人々の暮らしや社会を守るため,強くしなやかなインフラの構築が求められている。

東芝グループは,豪雨による施設などの浸水リスクを低減し,市街の浸水リスクのリアルタイムな予測で防災・減災を支援する雨水対策ソリューションを開発している。また,老朽化が深刻な水道管路の劣化状況調査を効率化する水道管路劣化診断ソリューションを開発している。これらの技術開発を通して,上下水道インフラの強靱(きょうじん)化に取り組んでいる。

柿沼 建至・平岩 良太・木内 智明

政府が宣言した2050年までのカーボンニュートラルの実現に貢献するため,上下水道事業でも新しい技術開発の推進が求められている。

東芝グループは,上下水道施設の省エネルギー(以下,省エネと略記)・創エネルギー(以下,創エネと略記)を実現するソリューションを開発している。省エネの観点では,下水処理施設での消費電力の大半を占める曝気(ばっき)動力の削減のため,水処理を低動力・短時間で行う回転繊維ユニットRBC(以下,RBC装置と略記)や,(株)クボタと共同開発した最適な曝気風量制御を行うスマートMBR(SCRUM™)の性能検証を実規模で行っている。創エネの観点では,発電に使用可能な消化ガス(注1)の発生量が増やせる消化汚泥可溶化装置を開発・製品化した。

(注1)汚泥中の有機分が微生物により分解されて発生したガス。メタンが主成分。

特集2:DX時代に進化を続ける計測・制御システム

百武 博幸・坂田 真一郎・高柳 洋一

計測・制御システムは,計測・制御を行うだけでなく更なるビジネスの効率化のために,常に進化してきた。制御機器やセンサーなどのOT(制御・運用技術)コンポーネントは,デジタル技術を取り込んで高機能・高性能化している。一方,クラウドシステムやAIを応用したIT(情報技術)ソリューションも進化し,刻々と変化する社会情勢の中でビジネスに必要な情報を提供している。

特に製造業では,OTコンポーネントとITソリューションの融合により,現場のリアルタイムデータを活用して,迅速な経営判断を現場にフィードバックする,スマートマニュファクチャリングの重要度が増している。このような動きは,計測・制御システムのDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進し,カーボンニュートラル(CN)・サーキュラーエコノミー(CE)の取り組みに変革をもたらす。東芝グループは,OTとITを融合した製品やサービスを提供し,計測・制御システムのDX化に貢献している。

佐藤 光永・本島 大地・胡 天翔・稲荷 将

製造業では,可視化や制御機能の向上に対する需要が高まってきており,DX(デジタルトランスフォーメーション)化において,OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)の融合が急速に進んでいる。

東芝グループは,これまでもソフトウェアデファインド化により,現場でのOTとITの融合を推進してきたが,今回,新たにOTとITとの融合をクラウドから促進する計装コンポーネント仮想化プラットフォームを開発した。また,現場の制御システム機器のソフトウェアデファインド化を加速する製品として,DCS(Distributed Control System)型の産業用コントローラーやDX化に対応したHMI(Human Machine Interface)を新たに加えるとともに,制御システムを現場から支える高性能で大容量なスリム型産業用コンピューターも開発し,製造機能の更なる向上に貢献している。

小林 章宏・川島 優樹・チャラ デ アポロニャ

X線厚み計は,鉄鋼プラントなどの圧延ラインで,板状の被測定物の厚みをオンラインで測定する装置として広く利用されている。この板厚測定値は,鋼板の板厚を決定する圧延機器のフィードバック制御に用いるため,精度と信頼性が求められる。加えて近年は,圧延機器制御の高速化に伴い,X線厚み計にも高速センシングの需要が高まっている。

そこで東芝インフラシステムズ(株)は,サンプリング周期1 msの高速化を実現した新型X線厚み計TOSGAGE-8000RSシリーズを開発した。フィールドセンサーを搭載して圧延ラインの環境データを収集することで,精度と信頼性の向上も図った。

大石 佳之・池田 和史・石井 賢

ものづくりを担う製造業は,IoT(Internet of Things)化によるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進して,顧客に提供する価値を高めようとしている。一方で,現場の様々な課題により,DX化がスピーディーに進められない企業も多い。代表的な課題の一つが,OT(制御・運用技術)とIT(情報技術)の融合であり,これを解決する製品やサービスが求められている。

東芝デジタルソリューションズ(株)は,自社のアセットIoTクラウドサービスを,東芝インフラシステムズ(株)の計測・制御システムと組み合わせた,製造現場のDX化をサポートする製品・サービスを提供している。その一部を,東芝府中事業所の新棟のエネルギーマネジメントシステム(EMS)に適用し,運用している。

久保田 馨・上本 孝志郎

製造現場において,回転機の故障は操業に多大な影響を与えるため,その未然防止が重要であるが,回転機の保全計画は,従来,熟練技術者の過去の経験に基づいて立案されてきており,高齢化による熟練技術者数の減少への対応が課題となっている。

東芝三菱電機産業システム(株)(以下,TMEICと略記)は,様々な業種で得た回転機保全における知見と,長年培ってきたシステム技術を融合させ,故障の兆候を事前に検知し,適切で効率的な保全対応が可能な,回転機診断システムTMBee-Mを製品化した。振動,電流,温度,及び部分放電のデータを収集・解析することで,回転機の機械的状態だけでなく電気的な状態も含めた網羅的な自動診断を可能とした。

一般論文

末澤 卓・水谷 文彦・和田 卓久

マルチパラメーター フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)は,半径80 kmの範囲内の雨雲の3次元構造を60秒間隔で観測できる。この観測データの活用により,上空で発生・発達する積乱雲がもたらす突発的な豪雨を,より高精度に予測できると期待されている。

東芝インフラシステムズ(株)は,内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に参画し,豪雨検知情報を配信する実証実験を実施した。また,豪雨検知システムの実用化に向け,最適高度雨量を導入して地上雨量の推定精度を向上させるとともに,算出した鉛直積算雨水量(VIL)から降水量を予測するVILナウキャストの高度化によって雨量予測精度を向上させた。

川島 修・仲野 聡

近年,行動ターゲッティング広告や生成型AIなどに代表されるIT技術の発展で,あらゆる情報が価値を持つようになり,膨大な情報を蓄積するストレージの需要が指数関数的に増加し,ストレージデバイスとして大記憶容量かつ高性能なHDD(ハードディスクドライブ)の需要がますます高まっている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,HDDの大容量,高性能,及び高信頼性のニーズに対応し,新たな面密度改善技術,高速位置決め技術,及びデータ保護技術の適用で,CMR(従来型磁気記録)方式で記憶容量22 T(テラ:1012)バイトのニアライン3.5型HDD MG10Fシリーズを製品化した。

R&D最前線

盛本 さやか

少ない実験データから充放電反応の電気化学モデルを作成して電池性能を短時間で高精度に予測    

モビリティー・通信・産業など,リチウムイオン二次電池の用途は拡大し続けています。用途ごとに使用条件が異なるため,モデルを用いたシミュレーションによる性能予測は,導入から二次利用まで電池のライフサイクル全体で重要です。東芝は,電気化学モデルに遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithm)や統計的手法を組み合わせることで,モデル作成に必要な実験データの数を減らしてモデル構築時間を短縮し,入出力性能・劣化を短時間で高精度に予測する技術を開発しました。低温始動や,急速充電といった従来予測が困難であった条件でも高精度に予測できます。東芝リチウムイオン二次電池SCiB™向けに,一部の性能予測機能の提供を開始しました。

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