[第28回]人材育成を継続していくために~企業内大学の創設へ向けて④~
2019.10.21
これまでに、企業内大学は社員一人ひとりの自覚によるところが大きいとお伝えしてきたが、今回はその自覚を促す手段や継続性の観点について考えてみたい。良い仕組みも、皆が継続して活用しなければ、結果に結びつかない。ましてや、人材育成は、木を植えることに例えられるくらい時間のかかる大事業だ。
人材育成のアメとムチ
青年塾を主宰されている上甲晃氏が良く使われることばに「自修自得」がある。「自修自得」とは、自ら問いを発し、自ら答えをつかむこと。人材育成の要諦は、自分で考え、自分で行動させること。サラリーマンは、どうしても上司の指示を仰ぐ。これでは指示待ち人間しか作らない。自分の頭で考えさせることが最大のポイントというわけだ。
そこで、企業内大学を積極的に活用してもらうためには、どうすればよいのだろうか。当社で企業内大学「Toshiba e-University」を創設した時に、人材育成と人事評価を連動させれば、アメとムチとなって、展開が進むのではとの議論があった。これでは、何か縛りがないとやろうとしない人しかつくれない。果たしてそれが正解なのだろうか?
人材育成は、見える成果を急ぎ求めるのではなく、どこまでも自立と自律がベースでなければならない。自ら育つことにより、周りの人への配慮が変わり、仕事の質が変わり、仕事の成果にも結びつき、その結果、評価されるという、ゆるやかな連携こそ、求めるものではないだろうか。
人材育成を継続していくために
私が、人材開発部門に異動して、人材定義を作ろうとしたとき、これまでにもいくつかの人材定義はあったが、いつの間にか使われなくなっているということに気づいた。経済産業省のITスキル標準をベースにしたのは、時代の変遷とともに、本標準が改訂されることで、人材定義も陳腐化することなく、改訂していけるのではないかとの思いも込めている。また、いくら良い仕組みを作っても継続して使わなければ、ことは進まない。昨今、タレントマネジメントが注目されているが、これも導入したことで満足してしまうのではなく、誰がどのように使っていくのかが大事になる。
話は少し変わるが、人間力講座に登壇いただいた方に共通することは、これまでにも紹介した通り、人づくりに熱いということだ。その一人、川越胃腸病院長の望月智行氏は語っている。「人づくりほど難しく、また計算しにくい仕事はありません。そのためか、多くの企業では真っ先にシステムや制度の導入から始めるようです。しかし、形や仕組みづくりが優れていても、人が育ち、人の強い想いが伴わなければ、システムの成果も組織の発展も期待できません。」(望月智行著『いのち輝くホスピタリティ』)
人材に関わるシステム導入を目指す我々のビジネスではあるが、これは常に忘れてはならない一点ではないだろうか。いくら良いシステムの導入を勧めても、人財育成への熱き思いも伝えていかねば、成果は期待できない。そのためには、このビジネスに関わる我々自身も人を育てることに熱いかどうかを常に問う必要がありそうだ。
人材育成の効果は直ぐには見えてこない。そのため、会社の経費削減施策が出る度に「人材育成も経費の一部」だと捉えてしまう考えと常に戦いになる。その時に、一番の拠り所になるのは「会社トップの人材育成に懸ける思い」だが、そのトップも数年すれば交代してしまう。交代の都度、人材育成への温度差が発生したのでは、たまったものではない。そのためにこそ、人材育成への熱き思いを持った人材を社内に育てていくことが大事になってくる。人材開発部門にはその“志”が求められる。
これまでたくさんの企業で人材育成の取組事例を紹介してきた。私が毎回、その中で紹介しているのは「いくら良い人材育成のシステムや仕組みを導入しても、導入した瞬間から陳腐化していきます。社内に、人材育成へ熱い人材を育て、そのシステムに“魂”を常に注ぎ込む人材が必要です。その人材無くして、会社の人材育成の流れは滞ってしまいます。」と。
人材育成は何か“到達点”があるものではなく、“流れ”そのものではないだろうか。
※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年10月時点のものです。
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