[第43回]学びを成長に結びつけるためには


2022.9.1

  皆さんは、ジョハリの窓はご存知でしょうか? 自分自身の特性を「4つの窓」(開放、盲点、秘密、未知)に分類したもので、「開放の窓(自分も他人も知っている特性)」を広げ、「未知の窓(自分も他人も知らない特性)」を狭めていくことが心地よい姿とされています。

 「自分のことは自分が一番よく知っている」はずですが、周りの人から見える自分にも素直に耳を傾けてみたいものです。しかし、あの人からは言われたくない。ましてや、それが上司だったら、どうでしょうか?

 今回は、上司との面談を通して、学びを成長に結びつけるをテーマに考えてみたいと思います。

学びを成長に結びつけるための上司の役割

 研修の講師を務めた際、冒頭では受講者のコンディションを確認します。

「上司から何と言われて来たの?」「なぜ、この研修を受けることにしたの?」と問いかけると、様々な声が返ってきます。

上司から「現場を離れて、自身を振り返る良い時間になるはず。自分も受けたことがあるが、気づきが多かったよ」と声をかけてもらって参加している人は良いのですが、時には何も言われていませんという反応もあります。

更に「この忙しい時に何で研修を受けないといけないの?」「自分はこれまでOJTでやってきたので、今更、OFFJTでの研修の必要性は感じない」という声までありました。参加者の思いは様々で、果たして研修効果はどうなるのでしょうか?

教師育成も対話重視

 最近、文部科学省が作成した『研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン(仮称)(案)』を読みました。もちろん、教師の育成に関わる内容ですが、「対話に基づく」とのキーワードに興味津々でした。読み進めると、小生が企業内大学を旗頭に、人材開発部門で進めてきた内容とあまりにも共通しているものが多くありました。ここでは両者を重ねながら少し読み解いてみたいと思います。(以下、『 』内は全て「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン(仮称)(案)」から引用しています)

 

『これまで受けてきた研修履歴が可視化されることにより、無意識のうちに蓄積されてきた自らの学びを客観視した上で、さらに伸ばしていきたい分野・領域や新たに能力開発したい分野・領域を見出すことができ、主体的・自律的な目標設定やこれに基づくキャリア形成につながることが期待される。』

 

 企業内大学では、研修だけでなく保有資格や業務経験等も含めて、現状を棚卸しするとともに、目指すべき姿を見える化し、そのギャップを埋めることの必要性に気づくことが、成長への第一歩と捉えています。能力開発の分野や領域を縦軸に、各々の成長する姿をレベル感(横軸)で表現した表をキャリアマップと呼称しています。本人が自立・自律して成長するためには、まずは現在位置を知らねばならないと捉えたわけです。

学びは気づきから始まる

『対話に基づく受講奨励は、教師と学校管理職とが対話を繰り返す中で、教師が自らの研修ニーズと、自分の強みや弱み、今後伸ばすべき力や学校で果たすべき役割などを踏まえながら、必要な学びを主体的に行っていくことが基本である。』

 

 企業内大学では、毎期本人と上長で面談する機会を設けました。面談では、前述のキャリアマップをもとに現状の強みや弱みを共有することから始め、ありたい姿を共有します。学びの基本は本人の気づきが出発点となるためです。そのための鏡の存在が上司の役割です。面談を通じて部下に気づきを与えられるかどうか、腹落ちしたものになるかどうか、上長にとって、まさにここは人材育成の真剣勝負の場となります。

 

『研修の効果的・効率的な実施から離れて、記録すること自体が目的化することがあってはならない。どの研修等について記録するか、しないかという分類の議論や、記録対象とする研修等及びその記録内容に関する基準を精緻に設定することに過度に焦点化することなく、記録の簡素化を図るよう留意する必要がある。』

 

 企業内大学でも分類やそのレベルの基準に議論が過度に集まらないように心掛けてきました。精緻な地図が描けないと前に進めないわけではない。人材育成で大切なことは、当たらずとも遠からずの現状を知ること、そして凡そどの方向を目指せばよいのかという粒度で良いから、ありたい姿を描けるかどうかを大切にしてきました。

 

『教職生涯を通じた学びを振り返ることができるようにする観点から、教師が任命権者を超えて、所属校が変わった場合にも、個人情報の保護に関する法律等を遵守することを前提に、前の任命権者や教師本人から情報提供を受けるなどして、円滑に研修履歴に係る情報が引き継がれることが望ましい。』

 

 自身のキャリアを考えたときに、例えば転職した場合など、自分のこれまでの研修履歴や保有資格、業務経験等に関する情報を引き継げることは大きな財産となるはずです。企業内大学では、世の中の標準である「ITスキル標準」を指標として導入しましたが、企業を横断しての共通軸とはなり得ませんでした。しかし、リカレント教育等も踏まえて人材の流動化を考えたとき、企業を横断したキャリアマップの必要性は増しているのではないでしょうか。

 

『教師の個別最適な学び、協働的な学びの充実を通じた「主体的・対話的で深い学び」の実現は、児童生徒等の学びのロールモデルとなることにもつながる。』

 

人材開発部門で気づいたことは、人材育成は種火が燃え広がっていく姿で進んでいくということです。「あの人のようになりたい」「あの部門や会社のように人材を育てたい」等、一つの種火から燃え広がっていく姿の中にこそ、地に足の着いた人材育成の姿があるのではないでしょうか。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部 HRMソリューション部
真野 広

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年4月時点のものです。


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