[第42回]日々新たに出発しよう


2022.4.20

 新入社員を迎えると心がわくわくします。「このコラムは皆さんのお役に立てているのだろうか?」と自問自答していたところ、有難いことに「次のコラムを待っています」との励ましのお声をいただきました。今再び、新入社員とともに、日々新たに出発したいと思います。今回は、人材開発の原点に立ち返って、何のために学ぶのか、学び続けることをテーマに考えてみたいと思います。

学び続ける力

 「二十一世紀に重要視される唯一のスキルは、新しいことを学ぶスキルである。これ以外はすべて時間と共に廃れていく」とドラッガーは言っています。

 小生が企業への就職を選んだ一つに、社会へ出て実践の中で学びたいと刺激を求めていました。入社して早々に先輩社員の体験談を聞きました。その先輩は、入社後に英検1級をとり、海外の大学へ留学し、修士号を最優秀の成績でとってきたという内容で、今でも鮮明に覚えています。すごい人がいるものだ。入社すれば、机に向かっての勉強とは、おさらばと思っていた自分が恥ずかしくなりました。

 刺激を受けた小生は、もらったばかりの給料で英会話教材を一式購入し、毎日仕事から帰ると英会話の勉強を始めました。入社2年目のある日、課長から呼ばれて「真野君、英語を勉強しているそうじゃないか。今度、アメリカへ行ってみるか?」と聞かれ、その場で「はい、行かせてください」と即答。望んでいた海外雄飛のチャンスをいただくことができました。

 たくさんの歴史小説を残した吉川英治は、「我以外皆我師」という言葉を大切にしていました。新たな刺激を求めて、環境を変えてみるのも一つかもしれませんが、その前に身近な先輩や同僚からも謙虚に学ぼうとする姿勢があるかを自らにも問いたいと思います。

 話は変わりますが、小生が設計開発部門から人材開発部門へ異動後に「人間力を磨く」ためにどうすれば良いのかを考えることになりました。これまで本コラムでも触れてきましたが、人材開発に携わることになり、大切にしてきたことは「隗より始めよ」でした。仕事であると割り切るのではなく、まずは自分自身が人間力を磨こうと考えました。

 ある時、上司との目標管理面談では、今度、自費で大学の通信教育部に入学し、人間学を学びたいと思いを伝え、自身の目標としました。通信教育のスクーリングへの参加、レポート提出など、仕事との両立は大変でしたが、古今東西の偉人や歴史、文化や哲学などを通して学ぶ機会は、会社だけでは得られない刺激満載でした。

 また、通信教育のスクーリングに参加して気づいたことは、自分よりも人生経験豊かな先輩方が、真剣に学び直そうとしている姿、そしてその意識の高さには驚かされました。やはり、社内だけでなく、より多くの皆さんとの学び合いの中にもたくさんの刺激があるようです。学ぶ姿勢を教えてもらいました。

何を受け止めるかは本人次第

 新入社員を迎える時期なると思い出すのは、新入社員へ課題図書として配布していた『志を教える』(上甲晃著)です。上甲晃さんが松下電器(当時)の新入社員だった時に松下幸之助から直接聞いた話が書かれています。

 

 「今日は君らに大事なことを話するから、よく聞いときや。これから僕がいう二つのこと、この二つを守り通したら、君らは将来松下電器の重役になれるぞ」

 「まず、ええ会社に入ったなと思い続けられるかどうかや」というのが第一の話でした。そして二つ目は、

 「君ら社会人になってな、お金が一番大事だと思ったらあかんぞ。もちろんお金も大変大事であるが、お金は失っても取り戻せる。けれども、人生にはいったんなくしてしまうと取り戻せんものがあるんや。あるいは取り戻すのに大変苦労するものがある。そういうものを何よりも大事にせなあかんぞ。それは信用や」(出典:上甲晃著『志を教える』)という内容です。

 

 小生も新しい仕事を始める度に肝に銘じている言葉です。

 上甲晃さんは、本著の中で「不思議なのは、のちに私の同期にその時の話をしたら、みんな知らないと言うのです」と書かれています。

 つまり、同じ話を聞いても、何を受け止めるのか、刺激となるのかは本人次第というわけです。ここにドラッガーの言う「新しいことを学ぶスキル」の秘訣があるのではないでしょうか。

 さあ、今日も新たな学びを求めて、一日にひとつくらい感動体験したいものです。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部 HRMソリューション部
真野 広

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年4月時点のものです。


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