活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「パルスレーザによる衝撃を利用した表面改質技術(レーザピーニング)の開発」
- 部品に触れずに材料を鍛える技術です -

レーザと言えば、ロックコンサートの赤や緑の細く輝く光を思い浮かべる方は多いかもしれません。最近では、レーザをエネルギー密度の高い熱源として用い(虫眼鏡で太陽光線を集めて黒い紙を焦がしたことはありませんか?)、金属材料の切断や溶接に使用しています。ここでは、さらに新しいレーザの応用として、モノに触れずに部材表面を鍛える技術「レーザピーニング」についてご紹介します。

レーザーの新しい応用「レーザピーニング」

ピーニングというと、部品の表面に小さな金属球(ショット)を高速度で当てて残留応力を改善し、表面の疲労強度や耐磨耗性、耐応力腐食特性を向上させるショットピーニングがよく知られています。航空機部品や自動車部品では、金属材料の疲れ強さや表面硬さを向上させる目的で用いられています。

私たちは、原子力プラントの部材表面の材料特性改善を目的として、水中で、精密に、しかも遠隔操作によってピーニングを行う技術を、パルスレーザを用いて実現しました。

これが「レーザピーニング」です。

レーザピーニングの状況
レーザピーニングの状況

「レーザピーニング」の原理

エネルギーの大きなパルスレーザを材料表面に照射すると、材料を構成する原子のプラズマが表面に発生し、プラズマ発生の反力により衝撃波が生まれます。この衝撃波が材料の中を伝播(でんぱ)して、材料内の残留応力改善に効果を発揮します。

「レーザピーニング」の原理

原理的には簡単ですが、実験してみるとなかなかうまくいきません。研究所でレーザ応用の研究をしていた佐野さん達は、水の中で金属材料にパルスレーザを照射して表面の残留応力状態を調べました。初めは、いくら実験しても通常のレーザ溶接で現れるのと同じように、引張残留応力しか発生しませんでした。いろんなレーザ条件を変化させていくうちにようやく圧縮の残留応力が得られるようになりました。この圧縮残留応力が、材料の応力腐食割れを抑制する効果を有しているのです。

また、レーザのパルス幅を短くしていくと材料の熱影響を小さくできることがわかり、10ns(1億分の1秒)以下まで短くすると、水中では熱影響を全く及ぼさないこともわかりました。

実プラントへの「レーザピーニング」の応用

実験室で良好なレーザピーニングが可能となったので、さっそく佐野さん達は原子力プラントの予防保全に用いる装置の開発に着手しました。しかしここでは、レーザ光を発生装置から数十メートルも運び、しかも先端で0.1mm程度の精度で正確に照射する必要があります。「二階から目薬」どころではありません。しかも、レーザパルスの瞬時的な出力は数万kWにも達し、通常、レーザ伝送に用いる光ファイバーではすぐに壊れてしまうこともわかりました。

そこで、佐野さん達は、レトロリフレクターと呼ばれる特殊な反射ミラーを装置先端に組み込み、反射光の位置をモニターして位置ずれを制御することにより、0.1mmの位置精度を確保しました。また、数十メートルにも及ぶ大型の装置となるため、これらを複数に分割し、原子炉内の水中で組み立てる構造としました。このようにして開発されたレーザピーニング施工装置は、実際の原子力プラントを模擬した実規模試験体で遠隔施工試験を行い性能を確認したのち、実機のプラントに適用されています。

  このレーザピーニング技術の開発と原子力プラントへの適用について、中部電力殿と当社は日本原子力学会の技術賞を受賞しました。

今後の応用範囲の拡大

レーザピーニングの応用範囲を広げるためには、やはりレーザのファイバー伝送が有効です。そこで、光学的な工夫を施し、現在は光ファイバーを用いたレーザピーニングも可能となっています。また、原子力プラントで適用したステンレス鋼のほか、ニッケル基合金,チタン合金,アルミニウム合金,低合金鋼など、種々の合金の表面特性改善効果も確認されており、今後他分野への応用が期待されています。

原子力プラントへのレーザ応用の記事一覧(別ウィンドウが開きます)

ドキュメントはPDF形式で保存されています。
PDFファイルの閲覧には、Adobe®Reader®が必要です。

Adobe® Reader®のダウンロードGet Adobe® Reader®

ドキュメントタイトル

ファイルサイズ