• 東芝レビュー 77巻5号(2022年9月)

特集:CASEを支える道路システム

CASE(Connected, Automated, Shared & Service, Electric)がもたらす自動車産業の大変革に呼応して,道路システムも進化する必要があります。それはCASEによって,道路や周辺施設の情報やサービスが,より強く直接的に,自動車に影響を与えるようになるからです。高速道路の道路システムからの情報も,これまでより高度なものを,正確かつ確実に提供することが求められます。この特集では,CASEを支える道路システムに関する,新しい技術やサービスへの取り組みについて紹介します。

特集:CASEを支える道路システム

小林 宏至・上野 秀樹

CASE(Connected, Automated, Shared & Service, Electric)とは,自動車産業に100年に1度の変革をもたらすといわれている次世代モビリティーサービスの概念であり,これに呼応して自動車の走行環境を支える道路システムも進化していくと考えられる。一方,道路システムには,公共性の観点から,CASEを意識しつつ,一般車も含めた全ての自動車に対し,安全かつ快適な走行を支援するサービスが,これまで以上に求められる。

このような状況において,東芝グループは,信頼性の高い道路システムを目指した研究開発を進めており,CASEを支える道路システムの実現に取り組んでいる。

下川 裕亮・大場 義和

高速道路における交通事故では,渋滞などで停止中の車両への追突事故が主な原因であり,事故発生の可能性が高いことをドライバーが認識できれば,事故を低減できると考えられる。

東芝インフラシステムズ(株)は,交通管制員やドライバーへの交通事故発生予報の提供によって事故を未然に防止するため,ニューラルネットワークの一種である自己組織化マップを用いて高速道路における交通事故発生予報手法の実用化に向けて取り組んでいる。今回,この手法を基に,高速道路の複数路線での実データを用いた評価検証を実施し,目標仕様が達成できることを確認した。

成瀬 浩輔・嶋村 翔・桑原 雅夫

交通渋滞は長年にわたって社会問題となっており,事故により発生するものも多い。

東芝インフラシステムズ(株)は,国立大学法人 東北大学と共同で,機械学習手法を用いて高速道路での事故発生時の交通流予測技術を開発している。今回,事故発生後の60分間の交通流を予測する機械学習モデルを構築した。実データによる評価の結果,半数以上のケースについて,交通状況正解率の目標値である75 %以上となることを確認した。今後は,事故の規模を示す情報を取り入れることも検討し,機械学習モデルの改善を図る。また,交通流予測結果を,ドライバーの現在地点や出発時刻に応じた,到着時刻推定や渋滞回避などに役立てるため,ヒートマップを応用した情報提供方法も検討した。

神崎 大智・弓倉 陽介

高速道路料金収受システムをはじめとするインフラシステムでは,安定稼働や長期保守の観点から,システム構築に必要な基本ソフトウェア(OS)やミドルウェア(MW)は,従来,商用ソフトウェアが用いられてきた。しかし近年,新サービスへの対応や,行政や事業者の動向から,オープンソースソフトウェア(OSS)を活用する必要性が高まってきており,移行コストや,品質保証,長期運用・保守など様々な課題を解決する必要がある。

そこで東芝インフラシステムズ(株)は,高速道路料金収受システムにおいて,既存資産を生かしながら,効率的かつ迅速にOSSを導入するため,移行ツールを活用した手法の開発を進めている。今回,従来のデータベース(DB)ソフトウェアからOSSのPostgreSQLへの移行を試行し,この手法の有効性を確認した。

阿久津 佑介・額田 直

国土交通省は,中京圏の高速道路の交通量を適正に分散し,有効活用するための戦略的な料金体系の実現に向けた構想を2020年2月に示した。中京圏では,発着地が同一であれば経路によらず料金を等しくする料金制度が,2021年5月に導入された。この施策を実現するには,複数の高速道路事業者が管理する区間の走行履歴を考慮して通行料金を決定することが必要になる。

東芝インフラシステムズ(株)は,この料金制度の変更に際し,高速道路料金中央システムを名古屋高速道路公社へ納入した実績を生かし,道路事業者間で走行履歴を共有する仕組みや,一連の走行履歴を踏まえて料金決定を行う仕組みなどを構築し,国土交通省が提唱する「道路を賢く使う取組」の実現に向けて貢献している。

田中 優・古澤 幸子・嶋田 高広

近年,自動車に搭載されたセンサーやドライブレコーダーなど,エッジデバイスのデータ収集が容易になり,収集したデータを自動車業界だけでなく,損害保険・警備・レッカー業者など自動車関連企業とも共有することで,連携サービスの展開が積極的に推進されている。

東芝グループは,AI技術を活用してエッジデバイスデータを解析することで,ドライバーへの様々なサービス提供に利用可能な,センサーデータによる衝撃発生原因の分類機能や,映像データ解析による事故発生状況の再現機能を開発した。

一般論文

権藤 俊一・峰松 美佳・有川 賢・中田 祐司

発電所のフィールドサービスでは,熟練指導員が遠隔地から複数の現場の作業員を同時並行で支援することで,業務の効率化と顧客満足度の向上を図ることが求められている。現場派遣と変わらないレベルで支援するには,遠隔から現場状況を視聴覚的に確認するためのカメラシステムに課題がある。

東芝グループは,フィールドサービス事業部門と研究開発部門の共創により,遠隔からのリアルなケーススタディーで課題解決できる,実用レベルのモバイルクラウドカメラシステムを開発した。国内複数の発電所で改善調整を行い,遠隔支援に適したHD(1,280×720画素)解像度の映像を,実用可能な200 Ki(キビ:210)ビット/sで圧縮伝送できることを確認した。

司城 徹・林 強

電力系統では,火力発電や水力発電の同期発電機に接続されるタービンなど回転体の慣性力で系統安定が保たれていたが,再生可能エネルギー(以下,再エネと略記)の主力電源化によって慣性力の不足が懸念される。特に,災害などによる広域停電時や,離島・山間地域で電力系統から独立し,自立して電力供給ができるマイクログリッドでは,慣性力不足が早期に顕在化することが予想される。

今回東芝は,慣性力不足への対策として,疑似慣性があるGFM(Grid Forming)インバーター制御を搭載した定格20 kW,電池容量14.9 kWhの蓄電池システム(BESS:Battery Energy Storage System)を開発した。このBESS 5台と定格125 kVAのディーゼル同期発電機1台が並列運転する評価用マイクログリッドを構築し,疑似慣性の導入による系統安定への有効性を,実験で確認した。

大平 英貴

廃棄物処理施設では,環境意識の高まりや,地方財政のひっ迫,少子高齢化の影響などを背景に,処理作業の効率化が課題となっている。その中で,AI技術を活用したごみクレーンの自動運転は,廃棄物の効率的な処理方法の一つとして期待されている。

東芝グループは,東芝アナリティクスAI“SATLYS(サトリス)”のプロフェッショナルサービスとして,単眼カメラで撮影したごみピットの画像から,廃棄物の種別や,撹拌(かくはん)状態,積み上げ高さなどを認識する技術を開発した。この技術を(株)川崎技研が開発したAIごみクレーン全自動システムに組み込み,難しいクレーン制御が要求される場合でも,高精度かつ効率的な撹拌・積み替え作業を可能にした。

小寺 志保・中嶋 宏・杉本 信秀

東芝グループは,CPS(サイバーフィジカルシステム)テクノロジーで,新たな価値の創造,社会課題の解決,持続可能な社会の実現を目指している。

CPSでは,フィジカル空間のデータをIoT(Internet of Things)技術で収集し,それらをサイバー空間のデジタル技術で分析して,フィジカル空間へフィードバックする。今回,CPSを開発・運用するための共通フレームワークである東芝IoTリファレンスアーキテクチャー(Toshiba IoT Reference Architecture,TIRAと略記)に準拠したサービスを,迅速に提供するための東芝IoTサービスファクトリー(TISF)を開発した。TISFは,CPSサービスを三つのパターンに簡略化してソフトウェア部品を最大限活用することで,従来のシステムインテグレーション(SI)を行うことなく新たなサービスを構成し,フィジカル空間の様々な変化にも迅速に対応できる。

竹野 唯志・信岡 哲也

近年,小売業界ではセルフレジが導入され,購入者自身でタブレットやスマートフォンのカメラを使って商品登録する環境が普及し始めた。商品の価格情報には,バーコード以外に店舗によって異なるデザインの値引きシールが貼られたものもあり,値引きシールの認識結果は会計金額に影響するので誤認識リスクの低減が求められる。

東芝テック(株)は,端末上で軽量に動作する,深層学習による値引きシール認識機能の開発を進めている。今回,従来手法に比べて誤認識リスクを更に低減するために,値引きシールのデザインに応じた動的なデータ拡張アルゴリズムを採用し,低コスト化のためにデザインの事前知識に頼らない,独自の適応的データ拡張手法を開発した。これにより,様々なデザインの値引きシールに短納期及び低コストで対応できるようになる。

R&D最前線

宮本 拓弥

かご台車の位置・姿勢を高精度に算出する技術と配置位置へかご台車を移動する技術で自律配置を実現

物流業界では,需要が増加する一方で,労働力確保が課題となっています。人手不足を補って生産性を向上させるために,東芝は物流現場におけるかご台車の自律搬送ロボットを開発しています。かご台車搬送作業の中でも特にかご台車を配置する作業では,倉庫スペースの有効活用が求められます。これを実現するには,配置済みかご台車の隣に間隔を詰めてかご台車を配置する必要があります。東芝は,配置済みかご台車の位置・姿勢を算出し,決められた間隔で,かご台車を自律的に配置する技術を開発しました。実験の結果,位置誤差±135 mmでかご台車を配置でき,縦間隔300 mmでの配置に必要な精度を達成しました。

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