• 東芝レビュー 76巻4号(2021年7月)

特集:鉄道インフラの強靱化とカーボンニュートラルの実現に向けて進化する
鉄道システム技術

鉄道システム技術は,更に安全性を向上するためのインフラ強靱(きょうじん)化と持続可能な社会を見据えたカーボンニュートラルの実現に向けて進化しています。今回の特集では,車両や地上設備への蓄電池搭載で停電時の非常走行を可能にするシステムや,カメラによる前方監視,ディーゼルエンジンの排出ガスを削減するハイブリッド機関車,IoT(Internet of Things)によるリモートモニタリングサービス,AIで運行を効率化するインフラサービスなどで,社会に貢献する技術を紹介します。

特集:鉄道インフラの強靱化とカーボンニュートラルの実現に向けて進化する
鉄道システム技術

中沢 洋介

近年,鉄道事業者並びに鉄道利用者からは,安全性や,環境性能,快適性,省エネ性などに優れた鉄道システムが求められ,このようなニーズに応えるための技術革新が不可欠となっている。

東芝グループは,鉄道システム技術の開発で長年培ってきた知見や実績と,最新のCPS(サイバーフィジカルシステム)テクノロジーを駆使して,強靱(きょうじん)な鉄道インフラの構築とカーボンニュートラルの実現に貢献するソリューションの創出に取り組んでいる。

佐竹 信彦

鉄道は環境負荷の低い移動手段と考えられているが,近年,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の観点から,更に省エネで安全かつ強靱(きょうじん)なインフラとして社会に貢献することが求められている。

東芝インフラシステムズ(株)は,東芝製リチウムイオン二次電池SCiB™を採用した地上向け回生電力貯蔵システム(Traction Energy Storage System:TESS)を開発し,鉄道事業者に提供している。今回,沖縄都市モノレール株式会社が運行するゆいレールにおいて,当社製TESSは高い省エネ性能を示すとともに,広域停電時にも迅速に列車を最寄り駅まで走行できることを確認した。また,東武鉄道株式会社において,バッテリーポストとして実運用中のTESSに採用されているSCiB™モジュールの劣化度合いを調査し,長期使用が期待できることも確認した。このような多用途に用いられるTESSは,国内だけでなく,海外の鉄道インフラにも適用が始まっている。

吉川 賢一・田坂 洋祐

近年,鉄道分野では,脱炭素化,高効率化,及び省エネなどに関する社会的な要請が高まっており,喫緊の対応が必要である。また,災害への対応能力の向上などインフラ強靱(きょうじん)化も求められている。

東芝インフラシステムズ(株)は,高入出力特性に加え,安全性,耐久性,長寿命,急速充電などに優れた東芝製リチウムイオン二次電池SCiB™を鉄道車両に適用することで,環境負荷の低減に対応するとともに,大規模停電発生時の給電喪失下において,車両を自力走行させて安全な場所まで退避したり,車内設備へ電源を供給したりすることを実現した。

木下 裕安・小川 幸太郎

温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロ化するカーボンニュートラルの目標が,世界各国で掲げられている。

東芝インフラシステムズ(株)は,鉄道車両の省エネ及び低排出ガスを実現する手段として,主に国内市場向けにディーゼルエンジン発電機とリチウムイオン電池を動力源としたハイブリッドシステムの技術開発を進めてきた。その技術を生かし,環境意識の高い欧州市場向けにシリーズハイブリッド機関車を投入するため,主要電気品のバッテリー装置,主変換装置,及び主電動機などを開発している。主電動機には高効率で省メンテナンスの永久磁石同期電動機(PMSM)を採用し,パワーユニットとの組み合わせ試験の結果,97.4 %という高い実測効率を確認した。

戸田 勇人・阿邊 優一・野澤 幸輝

鉄道事業者は,輸送サービスの更なる価値向上に向けて,鉄道車両や車両電気品の保守業務の効率化・高度化に取り組んでいる。

そこで東芝インフラシステムズ(株)は,デジタル技術を取り入れた鉄道車両向けのリモートモニタリングサービスを開発し提供している。このサービスでは,鉄道車両の稼働データをIoT(Internet of Things)で収集・蓄積し,現在又は過去の事象の見える化機能の提供に加え,収集したデータを活用した取り組みとして,空調装置の状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance)を目指した分析手法を開発した。また電気品の載せ替えがあっても,その保守に向けたデータ活用と設備機器としてのアセットトレーサビリティーを確保するため,鉄道アセットへの情報モデルの適用方法も開発している。

髙橋 雄介・二神 拓也・瀬川 泰誠

我が国では,少子高齢化に伴い列車運行に関係する人手が不足してきていることへの対応として,自動運転導入に向けた技術開発を加速している。自動運転を実現する上で,踏切を含む路線において列車前方の走行軌道の安全性を確保するために,運転士の目視に代わる前方監視技術を確立する必要がある。

東芝グループは,列車の自動運転を目指す,走行安全支援システムの構成要素の一つとして,前方監視カメラ映像を解析して支障物を検出する前方検知装置を開発している。試作機を製作して実車両に搭載し,様々な環境下で試験映像データを収集・蓄積・解析することで,運用環境下でも安定した検出性能を確保できるよう検証と改良を進めている。

佐々木 智文・小泉 善裕・白濱 大作

近年,都市鉄道では,相互直通運転の拡大や輸送サービスの向上などへの対応から,列車の運行管理業務が複雑化している。ダイヤを変更する運転整理では,運転指令員に瞬時に最適な判断が求められるが,後継者不足などから人員減少も見込まれ,業務負担の増大が予想されている。

こうした中,東芝グループは,鉄道事業者の運行管理システムで取得される大量の列車運行データを用いて,⑴AIを応用して運転整理要否を提案することで,運転整理業務の負荷軽減を図った運転整理支援技術を開発した。また,⑵列車遅延をビジュアル化し,その傾向を確認して改善ポイントを抽出することで,鉄道事業者に有益な情報を提供する運行分析機能も開発した。

井山 仁志・久保 英樹・大槻 知史

鉄道や,軌道,新交通,バスなどの公共交通システムの事業者は,需要変動に対応した輸送計画を作成するためにシステム化を図っているが,制約も多くいまだ熟練者のスキルに依存している。

東芝グループは,輸送計画の基本機能をパッケージ化した輸送計画ICT(情報通信技術)ソリューションTrueLine™を開発し,SaaS(Software as a Service)としての提供だけでなく,そのCPS(サイバーフィジカルシステム)技術を活用して輸送計画の作成を支援するサービスを,事業者に提供している。TrueLine™は,普遍的な数理モデルに基づく最適化AIを採用することで,路線ごとのモデルを構築しておけば運用の初日から利用することができ,運行改善と事業者の業務効率向上に貢献している。

一般論文

半田 浩規・小林 哲也・渡辺 隆宏

民間航空機の将来的な交通量の増大に備えて,効率的な管理を実現するために,衛星情報を用いてリアルタイムに航空機の正確な位置を把握して航行する衛星航法の性能向上が望まれている。

東芝インフラシステムズ(株)は,衛星情報を収集・計算して,衛星航法の利用可否を予測・監視するGPM-17型衛星航法予測・監視装置を開発し,国土交通省航空局(以下,航空局と略記)に納入した。開発した装置は,既存装置に比べて予測時の空間・時間分解能を高めることで,衛星航法の利用可能範囲を拡大した。また,運航者の飛行計画に対して衛星航法の利用可否を自動的に判定する新たなサービスを提供することで,運航者の作業効率を向上させるとともに,人的ミスを排除し,航空機の安全運航に貢献している。

杉田 真一 ・臼井 郁敦

テレビスタジオや劇場などで使われる照明制御システムは,ハロゲンランプやLED(発光ダイオード)などの照明器具や,調光演出操作を行う操作卓などで構成されており,設置する施設ごとに要求仕様が異なる。細かい顧客要求に応える受注設計型製品の開発では,受注時の要求項目の漏れや誤解によって,開発中や開発後に要求項目の追加や変更による工程の後戻りが発生し,効率的な開発の妨げとなっていた。

東芝ライテック(株)は,受注設計型製品向けのソフトウェア開発時の課題を分析して開発プロセスを整備し,実開発に適用した。その結果,追加要求密度(全要求項目数に対する追加項目数の割合)を,適用前の約46 %に削減できた。

可児 文二・小池 徹

ガス絶縁開閉装置(GIS)は,電力用として広範に適用されているが,高経年化GISの設備更新や気中絶縁開閉装置(AIS)のGIS化では,納入する機器の経済性向上に加え,据付品質の向上や据え付けに伴う設備停止期間の短縮などが強く要請されている。

東芝エネルギーシステムズ(株)は,国内の電力流通用として運用されている最高定格の550 kV–8 kA GISに対し,これらのニーズに対応した新形550 kV GISを開発した。開発したGISでは,ガス遮断器(GCB)投入時の位相制御採用による投入抵抗の省略や,新開発のガスタンク内面コーティングによる金属異物無害化などでGISを小型化し,回線単位での一体輸送による品質向上と約50 %の据付工期短縮を実現した。

R&D最前線

徳野 陽子

再生医療からがん診断まで適用可能な,生体親和性とハンドリング性に優れたコラーゲンシートを開発

東芝は,エレクトロスピニング(ES)法を用いたナノファイバー製造技術を活用し,2種類のコラーゲンナノファイバーシート(以下,コラーゲンシートと略記)を開発しました。一つ目は,体内に移植するために,生体組織構造を模倣した3次元配向コラーゲンシートです。熱を用いないES法と独自の密着プロセスで,良好なハンドリング性と移植時の高い生体適合性を両立させました。二つ目は,早期がん診断のために,生きたがん細胞を培養して観察できるコラーゲンシートです。イメージセンサーの表面に,薄くて透明なコラーゲンシートを形成することで,乳がん細胞を高い生着率で観察できることを確認しました。

田中 達也

深層強化学習による把持・箱詰めの同時計画により,ピッキングロボットを用いた箱詰め作業で高効率な行動計画を実現

労働人口の減少を背景に,物流システムでの自動化や効率化が求められています。ピッキングロボットを用いた箱詰めの自動化では,これまで箱詰め計画の最適化が着目されていましたが,把持・箱詰め計画を同時に最適化することで,更なる効率向上が期待できます。しかし,把持・箱詰めの同時計画は,取り得る行動の選択肢が多く,現場に応じた箱サイズごとの学習に手間が掛かるという問題がありました。

そこで東芝は,箱サイズが変わっても再学習が不要な深層強化学習手法を開発し,高効率な把持・箱詰めの同時計画を実現しました。開発した手法により,物流現場における自動化・効率化の実現への貢献を目指します。 

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