人的資本経営の課題と今後取り組むべき人事戦略~人的資本調査から見えてきた各社の状況と考察~


HRカンファレンス2025春 講演のレポートです。

近年、企業の経営戦略において「人的資本経営」が重要なテーマとして注目されています。人的資本経営とは、人財を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方です。こうした背景のもと、2025年5月16日に開催されたオンラインセミナー「人的資本経営の課題と今後取り組むべき人事戦略

~人的資本調査から見えてきた各社の状況と考察~」(主催:日本の人事部「HRカンファレンス」運営委員会)では、2024年の人的資本経営に関するアンケート結果をもとに、各企業の取り組み状況や直面している課題を分析し、経営戦略の実現に向けた今後の人事戦略の方向性について解説しました。また、そうした課題に対応するための具体的かつ実践的なソリューションについてもご紹介しました。本記事では、人的資本経営の課題と今後取り組むべき人事戦略について、最新の調査結果を基に考察します。

 

 

【プロフィール】2002年株式会社東芝に入社。2003年から総合人財管理ソリューションGeneralistに従事。20年以上にわたり、業種・業態とも多岐にわたる企業への人事システムの導入や提案活動を行っている。商品企画やプロモーション活動、Generalistの利用ユーザが参加するコミュニティ活動の運営にも従事。講師:東芝デジタルソリューションズ株式会社
   デジタルエンジニアリングセンター
   HRMソリューション部 技術担当
   エキスパート 萬 大祐

人的資本経営の背景


人的資本経営は、企業の持続的な成長と価値創造を実現するために不可欠な要素です。企業環境の変化が加速する中で、労働人口の減少や顕著な人手不足が深刻な課題となっています。例えば、2035年には労働力不足が384万人に達すると予測されています。このような状況下で、企業は人的資本経営に対する意識を高め、戦略的な人財活用を進める必要があります。

 

人的資本調査2024年版のアンケート結果


2024年に実施された「人的資本調査2024」では、上場企業や非上場企業を含む206社が回答しました。調査結果からは、経営トップと従業員の領域は取り組みがさらに進んだことが明らかになりました。具体的には、人財戦略の可視化と発信、企業理念・パーパス浸透に向けた経営層と社員の対話、エンゲージメントレベルの把握と改善アクション、人的資本に関するKPIの経年データ分析・ベンチマーク比較が挙げられています。

 

人的資本経営の課題


一方、取り組みが進まなかった領域も明らかになりました。人的資本経営における課題は多岐にわたります。具体的には、以下のような課題が挙げられています。

1.人的資本の取組と財務指標の関連データ分析と開示
 人的資本に関する取組と財務指標との関連について、データドリブンに分析できていない企業が8割。データの収集と統合 
 の難しさ、分析スキルの不足、および適切なツールの欠如が課題となっています。

2.人財ポートフォリオの充足に向けた目標設定や達成までの具体的計画
 必要な人財ポートフォリオを実現するための具体的計画が立てられていない企業が多く、経営戦略との連動が複雑である
 ことが課題となっています。

3.社内の優秀人財が重視する指標や取組の開示
 社内の優秀人財が重視する指標や取組を明確にした上で、当該情報に関する具体的な数値に加え、金額を含めて従業員
 に開示している企業が少ない。専門知識の不足、および適切なツールの欠如が課題です。

4.重点領域のスキル・専門性の習得者の処遇改善・報酬アップ
 重点領域に関する教育研修を実施しているものの、スキルや専門性を習得した従業員に対してインセンティブを提供して
 いない企業が過半数を占めています。その背景には、コストの制約やインセンティブ制度の設計の難しさ、さらにその効果
 を測定することの困難さといった課題が存在しています。

 

 

なぜ人事戦略が進まないのか?


人的資本経営は企業価値向上の鍵として注目され、人財を「資本」として捉える視点が広がっています。2024年の調査では、経営トップの発信や従業員との対話、エンゲージメントの把握といった取り組みが進展している一方で、経営戦略と連動した人事戦略の策定や人財ポートフォリオの可視化といった実務面では課題が残されています。

課題1.経営戦略(事業戦略)と連動した人財戦略ができていない

 まず、課題の一つは「経営戦略と連動した人財戦略の不在」です。多くの企業では、人財戦略を推進するリーダーや専門人財が不足しており、戦略立案の知識や実行力が欠けています。また、人事権限が事業部門に集中しているため、全社的な最適化が難しく、短期的な業績目標が優先される傾向も見られます。

課題2.人財戦略に基づいた人財定義(人財ポートフォリオ)の可視化

 次に、「人財ポートフォリオの可視化の未整備」も大きな課題です。組織文化やダイバーシティへの配慮が不十分で、ポートフォリオの必要性に対する社内合意が形成されていないケースが多く見られます。さらに、経営戦略自体が抽象的であることや、業界特性による変化の速さも、定量的な人財設計を困難にしています。

 

これらの課題に対しては、組織文化の変革や意識改革、戦略の具体化、長期的な視点での人財育成計画の導入が求められます。また、必要な人物像を具体的なスキルや能力にブレイクダウンし、アセスメントツールを活用して評価する体制の整備も重要です。さらに、人的リソースやコストの制約、運用体制の不整備、データ化の遅れといった実務的な障壁も存在します。これに対しては、外部リソースの活用や業務プロセスの見直し、キャリアマネジメントシステムの導入、評価基準の明確化、タレントマネジメントツールの整備などが有効です。

 

 

取り組みが進んでいる企業と今後取り組むべきこと


一部の先進企業では、ジョブ型人事制度やスキル認定制度、等級制度、キャリアフレーム、エンゲージメント評価、カルチャーフィット分析などを通じて、人的資本の可視化と活用を進めています。今後は、属人的・定性的な判断から脱却し、「自社に適した」人財像とポートフォリオを明確に定義し、データに基づく戦略的人事を実現することが求められます。

人的資本経営を実現するためには、“中長期的”な企業価値向上に向けた取り組みを「始める」ことが何より重要です。多くの企業では、人財戦略の立案や人財ポートフォリオの運用が最重要課題として認識されていない限り、実行に移されにくいという現実があります。こうした状況を打破するために、以下の3つのポイントが鍵となります。

1. 最初のステップを踏み出す

 人的資本経営の実践には、まず「やってみる」ことが不可欠です。完璧な計画や体制が整っていなくても、まずは小さく始めることで、課題や改善点が見えてきます。生成AIなどのツールを活用することで、知識やリソースが不足していても、戦略立案の第一歩を踏み出すことが可能です。

2. トップダウンでの推進、またはトップへの働きかけ

 経営層の理解とコミットメントは、人的資本経営を全社的に推進する上で不可欠です。トップダウンでの明確なメッセージと支援があることで、現場の取り組みも加速します。もし経営層の関心が薄い場合は、データや事例をもとに働きかけを行い、人的資本経営の重要性を訴えることが求められます。

3. 事業の観点を忘れずに

 人事戦略は、単なる制度設計ではなく、事業の成功に直結するものであるべきです。経営戦略や事業戦略と連動した人財戦略を構築し、事業ごとに必要な人財像を明確にすることが、実効性のある人的資本経営の基盤となります。

Generalist®の新サービス:人財戦略支援サービス


Generalist®の新サービス「人財戦略支援サービス」は、企業の人的資本を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上を目指すものです。デジタル技術を活用して現状の人財を「見える化」し、その情報に基づいて人事戦略を立案・実行します。さらに、「人的資本情報」の開示により、企業価値をマーケットにアピールし、魅力的な企業を目指します。

 

人財戦略支援サービスの特徴

 1.人財戦略の計画・現状・GAPの可視化

  •Generalist®では、人財戦略の実現のために必要な人財ポートフォリオとその計画を可視化し、現状の人財とのGAPを把握して、人財戦略実行につなげます。

  •会社が必要とする人財を定義し、レベルごとの必要スキルを設定し、計画した人数(ToBe)と現在の人財数(AsIs)の差を可視化します。

 2.人的資本最大化のための施策の実行

  •Generalist®では、人的資本を最大化するための施策として、採用、異動、学びの3つのポイントを重視します。

  •必要な人財が社内にいない場合や即戦略として必要な場合は外部から調達し、必要な人財を社内から探して最適な配置を検討します。

  •従業員のスキルアップによる人的資本の拡大を図り、トップダウンによる育成やボトムアップでの自律的な成長を促します。


企業環境の変化が加速により、多様化する働き方に合わせた経営戦略を実現するための人材戦略の重要さが増しています。人的資本に関わる問題を本質的に捉え、抜本的に考え直せるかが企業の成長を左右します。

また人的資本経営は、企業の持続的な成長と価値創造を実現するために不可欠な要素です。そして経営戦略と連動した人財戦略の立案、具体的な人財ポートフォリオの可視化、データ管理体制の整備も重要となります。Generalist®の活用により、人的資本経営の課題を解決し、企業価値の向上を目指すことが可能となります。

本講演では、2024年の人的資本経営アンケートを基に、各社の進捗や課題を考察し、経営戦略を実現するための今後の人事戦略についてご紹介しました。

Generalist®シリーズ

人事管理から「人財戦略基盤」への進化で人的資本最大化を実現

人財戦略は、労働力が減少している日本において優れた人材の確保と育成、組織文化の構築、リーダーシップの育成、

多様性と包摂性の促進など、競争が激化し変化する労働市場に適応するために綿密な計画と戦略が必要とされています。人財戦略を実践するためには、必要な人財ポートフォリオとその計画を可視化し、現状の人財とのGAPを把握して、人事戦略を支援することが重要です。これにより、企業は持続的な成長を達成し、変化に柔軟にかつ素早く対応できるようになります。Generalistは、このような人財戦略基盤を支えるクラウドベースの人事・給与・人材育成ソリューションと人事戦略を支援するサービスを提供しています。

 

 

         Generalistは 共創 という考え方で、様々なサービスと企業をつなぎ、企業の成長を支援します

 

 

 

 

 

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