労務とは?
人事との違いや仕事内容、向いている人の特徴を解説
労務という言葉を聞いても、労務の意味や、人事・総務との違いを明確に理解できていないという方もいるのではないでしょうか。労務が担う仕事の範囲は、勤怠管理や社会保険の手続き、就業規則の整備など、多岐にわたり、初めて携わる人は特に戸惑いやすい分野です。
本記事では、労務の意味から仕事内容、向いている人の特徴、役立つ資格まで整理して解説します。本記事を読むことで、自分が担当すべき業務範囲やこれから身につけるべき知識が見えてくるでしょう。
労務とは
労務とは、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」のうち、「ヒト」を対象とした業務領域を指します。労務の主な役割は、従業員の入社から退職までに必要となる各種手続きや、労働環境の管理体制を整えることです。
また、労働基準法をはじめとする労働関連法令や社会保険制度に関する専門的知識を活用し、従業員が快適に働ける職場環境を整備することも求められます。
併せて理解しておきたいのが労務管理です。労務管理については、以下の記事も参考にしてください。
労務費とは
労務費とは、人件費のうち、製品の製造やサービス提供に要した従業員の労働に対する費用のことです。企業が商品を生産したり顧客にサービスを提供したりする過程で支払われる給与や手当のうち、製造活動に直接・間接的に関わる部分が該当します。
製造業では、原材料費や経費と並ぶ主要なコスト要素であり、製品価格を決めるうえで欠かせない要素です。労務費を正しく把握することは、適正な原価計算と利益管理の基盤となります。
労務と似ている言葉の違い
労務と混同されがちな言葉に「人事」と「総務」があります。いずれも企業の管理部門における「人」に関わる業務ですが、その役割と対象範囲は異なります。
労務と人事の違い
労務と人事はどちらも人に関わる業務ですが、その役割には違いがあります。労務と人事の違いは、以下の表のとおりです。
| 項目 | 人事 | 労務 |
|---|---|---|
| 役割 | ・採用活動 ・教育研修 ・評価制度の運用 ・適材適所の配置 など |
・給与計算 ・社会保険手続き ・勤怠管理 など |
| 目的 | 人材の採用・育成・配置を通じて、組織の成長を支える | 従業員が安心して働ける基盤を整える |
| 業務の特徴 | 従業員と直接関わりながら、組織づくりや人材活用を進める | 法令や社内規程にもとづき、従業員の労働環境を間接的に支える |
人事は採用・育成・配置を中心に担い、労務は労働条件や勤怠、給与、社会保険などの管理を中心に担います。効果的な人事管理の方法を知りたい方は、ぜひこちらの記事を参考にしてみてください。
No.39 「人事管理」
労務と総務の違い
総務は、オフィス環境の整備や備品の調達・管理、契約書の取り扱い、各種許認可手続きなど組織運営に必要な幅広い業務を担当します。労務は、労働時間の管理や給与計算、社会保険関連の手続きなど、従業員の労働条件や就業環境に関する業務を担当します。
| 項目 | 総務 | 労務 |
|---|---|---|
| 役割 | ・オフィス環境の整備 ・備品の調達・管理 ・契約書の取り扱い ・各種許認可手続き |
・労働時間の管理 ・給与計算 ・社会保険関連の手続き |
| 対象範囲 | 組織全体が円滑に運営できる基盤を整える | 従業員が適切な労働条件のもとで働ける環境を整える |
| 業務 | 企業活動全般を幅広くサポートする | 従業員の権利や労働条件に直結する実務を担う |
労務と総務は、どちらも企業のバックオフィス部門に属しますが、総務は組織全体の運営基盤を支えるのに対し、労務は従業員の労働条件や就業環境に関する業務を担います。
労務の主な仕事内容
労務担当者は、給与計算や社会保険の手続き、勤怠管理など、従業員が安心して働き続けられる環境を整えるための業務を中心に担います。ここでは、代表的な5つの仕事内容を紹介します。
- 給与計算
- 就業規則の策定・管理
- 勤怠管理
- 社会保険の手続き
- 安全衛生管理
給与計算
給与計算では、基本給や各種手当の情報、勤怠データなどを基に、残業代や控除額を計算し、支給額を確定します。
給与は、従業員の生活を支える基盤であり、決まった期日に正確に支払うことが重要です。給与の支払いが遅れたり金額に誤りがあったりすると、会社への信頼が損なわれるだけでなく、従業員のモチベーションにも悪影響を及ぼしかねません。
さらに、所得税の年末調整や、住民税の特別徴収に関する事務も担当します。給与計算の誤りを防ぐためには、給与システムの導入や専門家への業務委託も効果的な手段の一つです。
就業規則の策定・管理
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場において、作成と労働基準監督署への届出が義務付けられている社内規程です。具体的には、始業・終業時刻、休憩・休日、賃金、退職手続きなど、労働条件の基本事項を定めます。
労務担当者は法令に基づいた規則の作成・変更を行うほか、法改正が行われた際には就業規則の内容を改定し、労働基準監督署への届出と従業員への周知を実施することが大切です。就業規則の変更を検討している方は、以下の記事を参考にしてみてください。
勤怠管理
勤怠管理は、以下の項目を正確に記録・集計する業務です。
- 出退勤時刻・休憩時間
- 遅刻・早退の有無
- 時間外労働時間
- 年次有給休暇の付与・取得日数
これらの勤怠データは、給与計算の基礎となるだけでなく、過重労働の防止や労働時間の適正化にも役立ちます。
2019年4月の働き方改革関連法により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、使用者が年5日を取得させることが義務付けられました。有給休暇は従業員の心身の回復を目的とするものであり、法令上の義務に対応するだけでなく、従業員の心身のリフレッシュという観点からも、積極的な取得が推進されています。
参考:「働き方」が変わります! (PDF形式)(厚生労働省のサイトに遷移します。)
また、就業規則に基づき、労働時間に関する記録を適切に作成・保存する必要があります。正確な勤怠管理は、法令順守と適正な給与計算を支える重要な業務です。
社会保険の手続き
各種社会保険に関する手続きも労務業務の1つです。社会保険とは、健康保険や厚生年金など生活上のリスクに備える公的保険制度であり、労働保険とは労災保険や雇用保険など労働に関する保険を指します。
主な手続きとしては、以下のものが挙げられます。
- 入社時の資格取得手続き
- 退職時の資格喪失手続きや、離職票の発行に必要な手続き
- 休職時の傷病手当金や、育児休業給付金の請求
- 氏名・住所などに変更があった場合に必要となる届出
- 標準報酬月額の随時改定
社会保険の手続きは管轄の年金事務所や健康保険組合で、労働保険はハローワークで行うことができるため、各種保険に応じて手続きをしてください。
安全衛生管理
安全衛生管理は、労働安全衛生法に基づき、従業員が安全で衛生的に働ける環境づくりを行う業務です。具体的には、定期健康診断を実施し、その結果を記録・管理するとともに、従業員への通知や労働基準監督署への報告までを行います。
また、常時50人以上の労働者を使用する事業場において、1年ごとにストレスチェックを実施することが義務付けられました。
安全衛生管理を怠ると労災事故につながるリスクがあるため、従業員が安心して働ける職場環境を整備することが求められます。近年、メンタルヘルスへの対応も重要性を増しており、従業員の心身の健康を守る役割を担っています。
参考:ストレスチェック制度(厚生労働省のサイトに遷移します。)
労務に必要な能力
労務の業務を的確に遂行するには、専門知識とスキルが求められます。法令知識の継続的なアップデートやデジタルツールを使いこなすITリテラシー、従業員の個人情報を適切に保護する能力などが必要です。労務に必要な主な能力は、以下の3つです。
- 法令や制度の知識をアップデートできる
- ITリテラシーを備えている
- 個人情報の管理ができる
本章では、労務担当者に求められる3つの能力を解説します。
法令や制度の知識をアップデートできる
労務管理には、労働基準法や労働組合法など、多岐にわたる法律が関与します。労務管理における手続きに不備や漏れがあると、法令違反につながる恐れがあります。
そのため、労働三法(労働基準法・労働組合法・労働関係調整法)をはじめとする法令や制度の知識を正しく理解することが欠かせません。労働に関連する法令は少子高齢化や働き方の多様化など社会情勢の変化によって改正されるため、改正内容に応じて就業規則や労働条件の適切に見直すことが大切です。
そのため、労務担当者は法令知識を更新し続ける姿勢が求められます。それにより、適切な労務管理を行いやすくなります。
ITリテラシーを備えている
近年の労務業務は、デジタル技術の進展により変化しています。給与計算ソフトや勤怠管理システムの操作だけでなく、社会保険の手続きの電子申請や、各種データのクラウド管理など、ITツールの活用が求められる場面もあります。
システム導入時には運用設計に携わる可能性もあるため、業務に適したツールを選定し、活用する能力も求められるでしょう。
個人情報の管理ができる
労務管理の業務では、社内規定などの機密情報や個人情報に触れる機会が比較的多いです。そのため、個人情報や機密事項を適切に管理し、漏えいを防ぐことが大切です。
情報管理には手間やコストがかかるため、労務管理システムを導入し、情報の収集・集約や業務の自動化を図ることも効果的な手段となります。
労務に向いている人の特徴
労務の仕事に向いている人は、数字や法律を正確に扱う能力と従業員一人ひとりに寄り添う姿勢がある人です。
- 円滑なコミュニケーションが取れる
- 労務に関する法律に精通している
- 正確に業務を遂行できる
本章で紹介した特徴を参考に、自身の特性と照らし合わせ、労務職への適性を確認してみましょう。
円滑なコミュニケーションが取れる
労務担当者は、経営層や従業員、社労士などのさまざまな立場の人と対話する機会が多く、相手の話を正確に理解し、共感を示す能力が求められます。従業員との円滑なコミュニケーションは、信頼関係の構築につながり、労務情報の適切な伝達や質問・懸念への真摯な対応が欠かせません。
また、給与や労働条件などデリケートな話題を扱うこともあるため、相手に不快感を与えず適切に対応できるコミュニケーションスキルが重要です。そして、従業員からの要望を丁寧に聞き取り、職場環境や制度の改善につなげることも有効です。
労務に関する法律に精通している
労務の仕事を進めるうえで、労働基準法や労働安全衛生法、雇用保険法などの従業員を保護するための法律を理解しておく必要があります。
特に行政関係の手続きでは、要件を満たさないことによる不利益や、罰則が適用される可能性もあることから、専門知識の習得が求められます。加えて、社会情勢の変化に伴う法改正や新設制度にも迅速に対応しなければなりません。そのため、法律に関心を持ち、自ら進んで学習を続けられる人が適していると言えます。
正確に業務を遂行できる
労務の仕事には、給与計算や社会保険手続きなど、ミスが許されない業務があります。給与計算では、基本給や各種手当、残業代に加え、税金や保険料を差し引く計算を正確に処理しなければなりません。給与計算に誤りがあると、従業員の信頼を損なうとともに、手続きの遅れによって企業の信用を失う恐れもあります。
そのため、細かい数値や期限を正確に管理し、一つ一つの作業を丁寧に進める慎重さが求められます。
また、給与計算は毎月決まった期限内に完了させる必要があり、複数の業務を並行して処理する能力も必要です。
地道な作業をコツコツと続けることが得意な人が労務に向いているといえるでしょう。
労務に役立つ資格
労務の仕事に役立つ資格には、以下の3つが挙げられます。
- 社会保険労務士(社労士)
- 労務管理士
- 給与計算実務能力検定
国家資格から民間資格までさまざまな種類があり、それぞれ学べる内容が異なるため、自分がどの領域を強めたいかに合わせて選ぶことが大切です。
社会保険労務士(社労士)
社会保険労務士は、労務分野における専門性を証明する国家資格です。通称「社労士」とも呼ばれ、企業の労務管理を支援する専門職として活動しています。
社会保険労務士の業務範囲は広く、以下のような業務を担います。
- 行政機関へ提出する書類の作成
- 人事・労務に関するコンサルティング
- 帳簿書類の作成
- 労働基準法や社会保険関連法に基づく手続き代行
労務管理士
労務管理士は、一般社団法人日本人材育成協会が認定する民間資格であり、労働基準法や労務管理に関する専門知識を有することを証明するものです。
労務管理士の資格は、資格学習を通じて、採用から退職までの労務管理に関する基礎知識を身につけられます。人事や経営の場面でも活用できる知識が身につく点が特徴です。
社会保険労務士との違いとして、労務管理士は民間資格であり、社会保険労務士の独占業務に当たる書類作成や提出代行を業として行うことはできません。
雇用契約や給与計算、評価制度など幅広い分野の知識が問われる資格であるため、企業内でのキャリアアップに有用です。習得した知識は、労務トラブルの予防や職場環境の改善に生かせます。
参考:労務管理士受験方法(日本人材育成協会のサイトに遷移します。)
給与計算実務能力検定
給与計算実務能力検定は、内閣府認可の一般財団法人職業技能振興会と一般社団法人実務能力開発支援協会が実施する給与計算業務の民間資格です。企業の総務・人事・経理など管理部門で求められる実務能力を客観的に評価する検定試験として位置づけられています。
給与計算実務能力検定は、1級から3級まで段階的に設けられており、各レベルに応じた知識と実務遂行力が認定されます。給与計算を正しく行うには、社会保険の仕組みや労働法令、所得税・住民税などの税法に関する幅広く正確な知識が重要です。
給与計算実務能力検定に合格することで、労働時間の集計や各種控除額の計算、年末調整処理などを法令に基づいて適切に遂行できる能力が証明されるため、信頼獲得につながります。
参考:給与計算実務能力検定試験® とは(実務能力開発支援協会のサイトに遷移します。)
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本記事では、労務の基本的な意味から、人事・総務との違い、具体的な仕事内容、必要なスキル、向いている人の特徴、役立つ資格までを解説しました。労務は、給与計算や社会保険手続き、勤怠管理など、従業員が安心して働き続けられる環境を整えるための業務です。
労務担当者には、法令知識の継続的なアップデート、ITリテラシー、個人情報管理能力が求められ、円滑なコミュニケーション能力や正確に業務を遂行する力も欠かせません。そして、社会保険労務士や労務管理士、給与計算実務能力検定などの資格は、専門性を証明しキャリアアップに役立ちます。
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