技術者の素顔

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材料分析・評価技術 染谷 竜太 専攻:物理学

材料を対象とした分析・評価技術開発

エネルギー機器は様々な材料によって構成されており、それらがうまく調和することにより機器は正常に稼働しています。しかし、調和が崩れてしまうと機器の性能や信頼性を保つことができなくなってしまいます。この問題を解決するには、材料を対象とした分析・評価技術が必要となります。

私は、機器に用いられている材料の分析・評価業務に携わっています。幅広い領域にまたがる分析・評価技術の中で、ミクロから見た材料に起因する事象のメカニズム評価および、長時間稼働する機器の特性変化を把握するための診断技術の2つの領域で開発に取り組んでいます。私の所属する高機能・絶縁材料開発部では、変圧器・ガス開閉器・発電機といった社会インフラの発送電に関わる重要な機器の材料開発や診断、分析業務を主に行っています。

例えば、機器の中で摺動する部分は、滑らかに動作することが望まれます。摺動する部分で想定よりも大きな抵抗が発生しうまく動作しない場合、要因を突き止める必要があります。そのためには、摺動する面をμmオーダーで評価したり、摺動を助けるグリースを分子レベルで評価し、材料それぞれの不具合に関係する要因を明らかにした上で、メカニズムを解明する必要があります。このような不具合のメカニズム解明が私の業務の一つとなっています。

また、お客様のニーズが高い、機器の利便性や信頼性を高める技術開発も行っています。社会インフラで用いられる機器は年単位で稼働するため、長時間稼働する中で特性が変化してしまうことがあります。一般的には、稼働時間が長くなると機器を構成する材料の劣化が進み、機器の余寿命が短くなっていきます。私が勤務する事業所では、大型の油入変圧器を製造しています。例えば、運転中に様々な要因によって材料の劣化が進むと、変圧器内の油中にガスが発生します。変圧器に発生するガスを現地で測定できれば、早い段階で機器の余寿命を知ることができます。しかし、従来から利用されている分析装置は大きく運搬に適さないため、その場で測定することは困難な上に、測定感度の向上にも制限がありました。私は、大学時代に取り組んだレーザを用いた分析装置の研究で得た知見を活かし、その場での測定を可能にするポータブルでかつ数秒でガスを検出可能なレーザ方式の油中ガス分析装置を開発しました。

染谷写真

私の仕事は、分析装置に関する知識に加えて、素材毎の性能・特性・長時間使用に伴う変化といった材料に関する多様な性質についても知識が必要となります。機器に使われている材料について深く知るためには地道な評価と文献調査が欠かせません。困難を伴うこともありますが、深い好奇心を持って業務に取り組んでいます。

大学ではレーザーを用いた分析装置に関する研究をしていました。就職活動を行う中で、東芝のような電機メーカでも分析技術や物理に関する知見を活かせることを知り、自分の強みである分析技術を社会インフラシステムに役立てたいと思い入社しました。大学では物理学を専攻していたため、基礎的な学問分野の知識しか持っていませんでした。入社後は実用材料等の工学分野の業務に従事することになり、仕事に慣れるまで苦労しました。しばらくすると、大学で学んだ基礎学問の知識が機器開発で生じる様々な問題解決に活用できることに気がつきました。その結果、自分が身に着けた技術を業務に取り込むことに楽しみを感じるようになりました。

9月まで休日は今年生まれた娘の子育てを行うとともに大学の博士課程に通い、レーザを用いた分析技術の開発をテーマとした研究を進めていました。子育てと大学での研究は時間的な制約も多かったため、かえってメリハリをつけて休日を過ごすことができていました。9月に学位を取得することができたので、博士課程修了後は家庭にウェイトを置いて休日を過ごせればと考えています。

(2016年9月執筆)

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