技術者の素顔

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超電導機器の開発技術 宇都 達郎 専攻:物理学

高温超電導技術による超高磁場MRIの開発

超電導物質は極低温に冷却することで電気抵抗がゼロになる特性を持っています。この特性を利用して、超電導機器では、超電導線材のコイルに低損失で大電流を流し、高磁場を発生させることができます。このようなメリットがある一方で、課題も多くあります。例えば、超電導コイルに使われる長さ数キロメートルの超電導線材の内、わずか1ミリメートル程度の区間にクエンチ1)が発生すると、-260度まで冷やしていたコイルが焼損してしまうこともあります。それゆえ、信頼性の高い超電導機器の実現には、まだまだ多くの工夫が必要です。

大学時代には、高い転移温度をもつ高温超電導材の物性の研究をしていました。具体的には、高温超電導体単結晶の作製や評価試験等、実験が中心でした。当時は高温超電導が生じる原理について興味があり、ものづくりにはあまり興味がありませんでした。就職活動の年になり超電導に関係する仕事を探している中で、高磁場MRIや核融合発電など、いつか実現すれば多くの人のためになるような高温超電導の応用製品が数多くあることを知りました。そして、自分も超電導分野の研究成果を、より多くの人に還元したいと思う気持ちが強くなり、高温超電導技術を用いることで、より普及しやすい小型・低コストな次世代型のMRIを開発している東芝への入社を希望しました。

宇都写真

入社後は実験だけでなく、研究計画、予算管理、試験系の設計、解析等幅広い業務を担当しています。時間も予算も限られた中で、有効なデータをいかに効率よく取得するかを考えることが大切となります。研究ではまだ誰もやったことがない実験や解析もあり、時に思いがけない結果を得ることも多いですが、先輩や上司に相談しながら仕事を進めています。また、社内には異なる分野の研究者が数多く在籍しているため、部門を横断したチームで開発に当たることもあります。

私が入社後に携わった最初の業務は、高温超電導MRI磁石の磁場補正技術の開発でした。MRIの撮像には空間的に極めて均一な磁場を発生させる必要があり、小さな磁性体片を多数配置して百万分の一の精度で磁場を調整する必要があります。磁場調整の計算は一からの勉強となり大変苦労しましたが、高温超電導MRI磁石の試作機が完成し、設計通りの磁場発生が確認されたときの感動は今でも忘れられません。

余暇は、映画やドラマを見たり料理を作ったりして、まったりと新婚生活を楽しんでいます。平日の5日間は仕事のことで頭がいっぱいになりますが、土日にしっかり休むことで気持ちを切り替えています。また、挙式準備等が平日になってしまうこともありましたが、上司と相談して計画的に仕事を進めることで、仕事とプライベートを両立させることができました。

今後は、高温超電導により小型化した超高磁場MRIを世界に先駆けて製品化し、高度な医療がすべての人に届くような世界を作りたいと思っています。


1) 通電中に超電導コイルの一部が超電導状態から常電導状態に転移すること

(2019年9月執筆)

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