活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「大規模化する蓄電池システムの開発」
-電力系統の安定化に寄与する蓄電池システム-

リチウムイオン電池SCiBTM

リチウムイオン電池は、近年、携帯端末やノートパソコン、大きいものでは電気自動車などの電源、電力系統用途として使われるようになった電池です。小さくて軽いのが特徴ですが、充電に時間がかかります。皆さんの携帯端末などでも、充電時間として1-2時間は必要なのではないでしょうか。

東芝は、1992年にリチウムイオン電池の事業化の検討を開始しました。時期尚早と判断され、2004年に一旦検討が中止されるなど難しい時期もありましたが、東芝研究開発センターでは開発が続けられており現在SCiBTMと呼ばれているリチウムイオン電池の原型ができつつあったのは、2005年でした。開発当初、急速充電できる電池ができたので、何かに使えないか、と電力・社会システム技術開発センターに声がかかったものの、リチウムイオン電池を直列につないでいいのか?安全に使うにはどうしたらいいのか?という議論から始めるような手探りの状況でした。

図1は、2011年に量産が開始された20Ahセルです。20Ah(アンペア・アワー)は20Aの電流を1時間(hour)放電することができる、という意味になります。携帯電話に使われている電池が0.9Ah程度ですので、それに比べればとても大きいですが、電圧が2~3Vと低いためセル一つでは使い道があまりありません。

図1 SCiB™ 20Ahセル
図1 SCiBTM 20Ahセル

SCiBTMは従来のリチウムイオン電池に比べて10倍以上の速さで充電することができる、長寿命、安全性の点で優れた電池です1)。どのような使い方をするべきか、という議論の中で、充電時間が短いことがメリットとなる電気自動車や電力の急峻な変動を抑制するための定置型蓄電池システムなどへの適用が検討されていきます。いずれのアプリケーションにおいても、このリチウムイオン電池セルを直列につなげて電圧を高く、並列につなげて容量を大きくする必要があります。

リチウムイオン電池は、エネルギーを貯めていくと、電圧が高くなっていくという特性をもっているため、一つ一つのセルの電圧を監視し、「過充電」という状態にならないように保護をかける必要があります。また、大きな電流を流し続けると電池温度が上昇していくため、温度が上がりすぎないように同様に保護をかける必要があります。

電池セルを監視する監視機能

組電池として使用するためにリチウムイオン電池のセルの電圧と温度を監視する保護回路基板の開発も重要になります2)。電池の電圧が、決められた下限値を下回る場合、また上限値を超えた場合、温度が決められた上限値を超えた場合、それ以上電流を流さないように電流経路を遮断するスイッチを開放することで保護をかけます。

図2は、保護回路基板を内蔵したモジュールです。このモジュールを直列につなぎ、図3に示すような400V程度の電池盤を構成します。電池盤は直流電力のため、交流系統で使用するために、直流の電力を交流に変換する電力変換器と並列に接続します。図3のように蓄電池盤を並列につなげて必要な電池容量の蓄電池システムを作り上げていきます3)。図4は、2012年7月から横浜スマートシティプロジェクトで実証実験に使用された蓄電池システムです。図3に示した電池盤と電力変換器が内蔵されています。

図2 保護監視基板を内蔵した電池モジュール(24セル内蔵:2並列-12直列で構成)
図2 保護監視基板を内蔵した電池モジュール(24セル内蔵:2並列-12直列で構成)

図3 電池盤と電力変換器
図3 電池盤と電力変換器

図4 実証プロジェクトに使用した蓄電池システム
図4 実証プロジェクトに使用した蓄電池システム

高効率・長寿命に電池を使うための制御機能

電力変換器・蓄電池は、それぞれ入出力する電力によって効率が変わります。電力変換器は一般的に小さな電力のときに効率が低く、大きな電力の時に効率が高くなるように設計されています。一方、蓄電池は、小さい電力の時に効率が高く、大きな電力の時に効率が低くなる傾向があります。高効率に蓄電池システムを使用するためには、電力変換器・蓄電池の双方の効率の良い電力で使用することが必要です。電力変換器が複数設置できる場合、各電力変換器に対して、効率のよい電力を配分することが可能です4)、5)。例えば、400kWの電力を出力するとき、4台の電力変換器で100kWずつ出力するよりは、2台の電力変換器で200kWずつ出力するほうが効率が高くなります。

また、同様に、電力変換器を複数設置できる場合、それぞれの電力変換器に接続される蓄電池盤の劣化の進行が均一になるように使うことができます。図5に効率向上および劣化均等となるための電力配分のイメージを示します。高効率となるように、使用する電力変換器を選択する場合、選択する電力変換器が偏らないようにすることも劣化の進行を均一にする施策のひとつです。劣化が偏らないような電力指令の配分をすることでシステム全体の寿命を延伸することができます。

上記のような電力配分を実施することで、均一に電力指令値を配分する方法に比べて、図6に示すように効率を向上、あるいは図7のように寿命を延伸させることができます。

ところが、後述の世界最大級の蓄電池システムに高効率電力配分ロジックを搭載した当初、想定した電力配分が実施されず、電力変換器に接続されるいくつかの電池盤の電池残量に極端な差が確認されました。このままでは劣化に偏りが発生してしまいます。電力変換器を数十台同時に運用する蓄電池システムならではの難しさがありました。大規模システムではありますが、その分ロジックをシンプルかつ拡張性の高いものにする必要があると考え、担当メンバーで議論を重ねました。効率と電池残量を同時に監視するロジックを考案し、大規模電力変換器配分シミュレータにて動作を確認、実機でも想定通り、高効率かつ電池残量に偏りのない動作が確認できました。

図5 蓄電池制御
図5 蓄電池制御

図6 効率向上の一例
図6 効率向上の一例

図7 寿命延伸の一例
図7 寿命延伸の一例

電力系統の安定化に寄与する世界最大級の蓄電池システムへ

2015年2月、これまでの開発した監視技術・制御技術を組みわせ、40MW-20MWh(注1)という大規模な蓄電池システムの運用が始まりました(図8)。また、2016年2月にはさらに容量の大きい40MW-40MWhの蓄電池システムも運転開始しています。これはリチウムイオン電池を使った蓄電池システムとしては世界最大容量となります(2016年現在)。

近年、低炭素社会の実現を目指して、太陽光発電システムや風力発電システムといった再生可能エネルギー導入が進められており、日本政府は2030年に全発電量に対して再生可能エネルギー比率を22%以上とする指針をだしています6)。しかしながら、気象条件により発電出力が変動する太陽光発電や風力発電のような電源は、周波数変動や電圧変動などの影響を電力系統に与えます。電力変動を大規模化蓄電池システムで抑制することで、電力系統の安定化に貢献していきます。

注1:W-Whは蓄電池システムの性能を表す単位です。Wは入出力できる電力の最大値、Whは貯蔵できる電力量を表します。20MWhは蓄電池を満充電状態にした場合、20MWで1時間(1hour)出力し続けることができるという意味になります。

図8 40MW-20MWhリチウムイオン電池を用いた蓄電池システム
図8 40MW-20MWhリチウムイオン電池を用いた蓄電池システム

参考文献

1) 小杉伸一郎、稲垣浩貴、高見則雄:「安全性に優れた新型二次電池 SCiBTM」,東芝レビュー,Vol.63,No.2, pp.54-57 (2008)
2) 小杉伸一郎、高見則雄、本多啓三:「HEV用新型二次電池 SCiBTM電池パック」,東芝レビュー,Vol.64,No.6, pp.44-47 (2009)
3) 豊崎智広、水谷麻美、丹野勉:「電力の安定供給を実現する定置型蓄電池システム」,東芝レビュー, Vol.68, No.8, pp14-17 (2013)
4) 遠藤保、戸原正博、稲葉祐貴:「性能の異なる蓄電池やPVパネルでハイブリッド構成が可能な定置型50KW高性能スマートバッテリ」,東芝レビュー,Vol.68, No.10, pp46-49 (2013)
5) 戸原正博、久保田雅之、遠藤保、鮫田芳富、水谷麻美:「複数電池に対する充放電電力配分アルゴリズム」,電気学会電力・エネルギー部門大会,(2013)
6) 「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 第20回会合資料3」
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/020/pdf/020_007.pdf)(PDF形式)(2.09MB)(経済産業省 資源エネルギー庁)