活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「高電圧向け光ファイバセンサ開発」
- 偏波制御技術の確立で高精度化を実現 -

センサは光ファイバ

通信用に広く用いられるようになった光ファイバですが、この直径僅か0.1mm程度の光ファイバを導体に巻き付けることにより、電流を測定する事ができます。特に発電所や変電所などの高電圧を取り扱う施設での電流センサとして期待されています。

絶縁と飽和の問題から解放された理想的な測定器

従来は、CT(Current Transformer)と呼ばれる鉄心と巻線からなる変圧器を用いて、電流を測定しています。このため、被測定導体と2次巻線との間で電気絶縁を行う必要があります。これは、家庭用の100V程度なら殆ど問題にはなりませんが、最大で1000kVに達する変電所の場合、絶縁を確保するために機器が大型になります。また、事故時に流れる電流は200kAに達し、専用に設計された変圧器においても、飽和現象から逃れることは困難であり、精度よく測定できる範囲には限界があります。

光ファイバをセンサとすることにより、センサ自身が絶縁物で構成できることから、電気絶縁の問題を大幅に低減することができます。さらに、変圧器で問題となる磁気飽和も無いので、大電流においても高い測定精度を持つセンサが実現できます。また、周波数特性が良いことも特徴であり、直流からGHzの高周波まで測定できる可能性を秘めています。

電流測定の原理

図1に示すように、本センサは「光が進む方向」と「電流が作る磁界の方向」が同じになるように、光ファイバを導体の周りに巻きつけた構成になっています。
光源からの光は位相のそろった右回りの円偏光と左回りの円偏光に分けられ、ファイバ素材を加工した1/4波長板で円偏光(注1)に変換された後、センサ用の光ファイバに導かれます。導かれた光はセンサファイバを往復します。往復した光は導体に電流が流れている場合、ファラデー効果(注2)を受け、右回りと左回りの円偏光の間には電流の作る磁界により電流の大きさI に比例した位相差θ(=2nVI )が生じます(図2)。ここで、n は導体に巻きつけられた光ファイバの巻数、V は光ファイバの材質により決まる磁気感度定数(ベルデ定数)です。センサファイバを通過した右回りと左回りの円偏光を干渉させると、電流の作る磁界により生じた位相差θは、その干渉光の光量変化として検出器で検出され、電流の大きさがわかります。

図1 本センサの構成
図1 本センサの構成

図2 電流磁界によって生じる光の位相差
図2 電流磁界によって生じる光の位相差

  • (注1)光の電界成分が、光の進行方向に垂直な面上で、円運動している光のことを言います。
  • (注2)磁界に沿って配置された石英などの媒質中を光が伝播するとき、光の位相が磁界強度に比例してシフトする現象で、英国の物理学者マイケルファラデーにより発見されました。

新たなイノベーション

ファラデー効果は1845年に発見され、すぐに電流測定への応用が考えられましたから、光ファイバの実現と同時にこのセンサは提唱されてきたと考えて良いでしょう。しかし、電流センサとして実現に至るには40年以上要したことになります。電流センサとして最低限必要な誤差1%の精度を実現するためには、用いる光学部品の安定性を高める必要がありました。

例えば、光ファイバは電流だけでなく、温度、振動、重力、速度など様々なセンサに応用されています。これは、様々な物理変化に対してファイバの光学特性が敏感に変化すること意味しています。これらの外乱の影響を避けて電流だけを取り出すための光ファイバは、どのようなものでも良いと言うわけではありません。

一般通信用の光ファイバは少なからず内部にひずみがあり、屈折率が一様ではありません。また、温度変化による被覆材の伸縮力も光ファイバの屈折率を変化させるため、伝播する光の速度が変化し、測定誤差の原因となります。

このため、内部ひずみが小さな光ファイバを開発し、アクリル被覆材と光ファイバの間にシリコーンゴムを挿入することで、温度や振動による外力が直接光ファイバに加わらない構造にしています。シリコーンの厚みや均質性等が特性に大きく影響するため、その制御に苦労しましたが、この技術により-40~60℃の温度範囲で、精度0.2%の高精度な電流測定を実現しています。

その他、振動により偏波が回転するのを避けるためにセンサを往復で使用する事や、発振波長の安定性を高めた光源など、様々な対策を実施しています。

適用例

図3は、実際の直流送電設備に取り付けられて安定性検証試験を実施した電流センサの写真です。直径2m、ドーナツ状のフランジの中に光ファイバを収納し、導体の外側に挿入しています。これは直流電流用ですが、700Hzまでの交流電流も同時に測定できるセンサです。1年間に亘る連続試験の結果、誤差1%以下を満足できることを確認しました。この実績を元に北海道と本州を結ぶ直流送電設備に適用されています

図3 直流250kV送電設備(ブッシング)の根元に設置された光ファイバ電流センサ
図3 直流250kV送電設備(ブッシング)の根元に設置された光ファイバ電流センサ

参考文献

  • M. Takahashi, K. Sasaki, Y. Hirata, T. Murao, H. Takeda, Y. Nakamura, T. Ohtsuka, T. Sakai, and N. Nosaka “Field test of DC optical current transformer for HVDC Link” Power and Energy Society General Meeting 2010, pp.1-6 July 2010
  • M. Takahashi, K. Sasaki and K. Terai, " Optical Current Sensor for DC Measurement," Transmission and Distribution Conference and Exhibition 2002: Asia Pacific. IEEE/PES, vol. 1, pp. 440-443, Feb. 2002.
  • M. Takahashi, H. Noda, K. Terai, S. Ikuta, Y. Mizutani, T. Yokota, T. Kaminishi, and T. Tamagawa, "Optical current transformer for gas insulated switchgear using silica optical fiber," IEEE Trans. Power Delivery, vol. 12, pp. 1422-1427, Oct. 1997.
  • M. Takahashi, K. Sasaki, A. Ohno, Y. Hirata and K. Terai, "Sagnac Interferometer-type fiber-optic current sensor using single-mode fiber down leads," presented at the 16th Int. Conf. Optical Fiber Sensors, Nara, Japan, pp. 756-759, Oct. 2003.