活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「世界最大の水素間接冷却タービン発電機」
- 固定子コイル用高熱伝導絶縁システムの開発 -

タービン発電機における高効率化と課題

近年の環境意識の高まりを受け、火力発電においてもCO2排出量削減に貢献する発電効率がこれまで以上に重要視されています。このため、火力発電の重要な構成機器の一つであるタービン発電機(図1)においても、より一層の効率向上が強く望まれています。

一般に、タービン発電機は大容量化することにより効率が高くなる傾向にあります。大容量の発電機では固定子コイルの冷却に冷却性能の高い水直接冷却方式を採用していますが、固定子コイル冷却水装置が補機として必要になる他、固定子コイルへの冷却水供給配管等を装備するために発電機構造も複雑になります。一方、中容量機に採用される水素間接冷却方式では前述の設備は不要ですが、冷却性能が相対的に劣り、大容量化が困難という二律背反の課題がありました。

そこで私達は構造のシンプルな水素間接冷却方式で大容量機を製作し、発電効率向上と構造の簡素化の両立に挑戦しました。

図1 タービン発電機の概要
図1 タービン発電機の概要

高熱伝導絶縁材による水素間接冷却方式の冷却性能向上

図2に水素間接冷却方式によるタービン発電機の固定子部分断面図を示します。同方式では、コイル導体に発生した熱はコイル絶縁材を経由して鉄心に伝達、鉄心を冷却風で冷却します。つまり、間接的に導体を冷却するわけです。ここで、コイル導体、コイル絶縁材、固定子鉄心の熱抵抗率を比較した結果を図3に示します。絶縁材の熱抵抗率が非常に大きく、導体から鉄心への伝熱を妨げる要因になっていることがわかります。

図2 固定子部分断面図
図2 固定子部分断面図

図3 固定子材の熱抵抗率
図3 固定子材の熱抵抗率

そこで私達は、導体から鉄心への伝熱を向上させるため、絶縁材に高熱伝導性という新たな機能を付加することにしました。絶縁材は図4に示すマイカテープを多数重ねることによって構成されています。このマイカテープは、ガラスクロス、マイカ(雲母)ペーパ、樹脂の3つの材料から構成されていますが、熱抵抗率の最も高いエポキシ樹脂部分に高熱伝導性の材料を添加しました。絶縁材には、電気的絶縁性能に加え、機械的性能、耐熱性が必要なので、これらの特性を低下させないように、高熱伝導性材の形状、寸法および充填量等について十分に検討し、試作を繰り返しました。その結果、諸特性をそのままに、従来比で約2倍の熱伝導率を達成しています。

図4 マイカテープの断面模式図および各構成材料の熱伝導率
図4 マイカテープの断面模式図および
各構成材料の熱伝導率

量産時の課題とその克服

量産マイカテープを用いた発電機コイル製造前の事前検証時に問題が発生しました。上述のように、絶縁材はマイカテープを多数層コイル導体に巻くことによって形成されますが、巻回時にマイカテープの切断や粘着を生じて巻くことが出来ないのです。これまで、数百本にもおよぶ試作コイルを製作した際には、このような現象は発生しませんでした。急遽原因究明が行われ、高熱伝導材の材料検査方法に問題があることが判明しました。検査では所定の判定値以上を不良と判断していましたが、判定値以内にも関わらず、以前と異なる性状を示す材料が検査を通過して使用されました。検査方法が、その異なる性状を判別することができなかったのです。その結果、マイカテープの状態が変化してテープの切断・粘着を生じました。

このような当初予想していなかった諸問題を解決することにより、世界初の高熱伝導絶縁を適用したタービン発電機が完成し、実際の発電機での検証の結果、予想通りの冷却性能向上を確認しました。

複数の発電機に適用して実績を積んだ後、2005年には当初の目的である大容量の発電機(62万kVA)に適用しました。世界でも最大級の水素間接冷却方式によるタービン発電機です。発電効率も99.00%以上を達成しています。これらの実績により、社団法人火力原子力発電技術協会より優秀論文賞、社団法人電機工業会より電気技術功績者表彰会長賞ならびに社団法人電気学会より電気学術振興賞進歩賞などを受賞しました。

この高熱伝導絶縁技術はタービン発電機だけではなく、水車発電機あるいは電動機などに適用が可能です。また、本技術により効率向上や、発電ロスの低減によるCO2排出量の削減ばかりではなく、機器の小型・軽量化をも図ることが可能で、金属や樹脂など、資源消費を削減することが出来ます。本技術がより多くの機器に使用され、環境負荷低減により大きな貢献をすることを期待しています。