活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「落差800m級を目指す大容量ポンプ水車用新型ランナの開発」
- 流れ解析技術を駆使して相反する要求をクリア ―

揚水発電所は電力需要を平準化する大きな蓄電装置

揚水発電所は図1のように、電力需要の多い昼間は、水を上池から下池に落とし「ポンプ水車」を水車として回し発電します。逆に需要の少ない夜間は、発電機に電力を供給してモータとして回し「ポンプ水車」をポンプとして、水を下池から上池に汲み上げます。このように揚水発電所は、変換効率が90%を超える大電力貯蔵機能を有する環境負荷の小さいシステムです。また、高落差ほどエネルギー密度が高く経済性が向上するので、年々高落差化が進んできました。特に、キーコンポーネントの超高落差ポンプ水車は、水力性能と機器信頼性が課題となりますが、日本の技術が常に世界をリードしてきました。

図1 揚水発電所概略図
図1 揚水発電所概略図

従来ランナ(羽根車)の壁を打ち破るスプリッタランナの開発

従来ランナでは、羽根形状の適正化による性能向上が限界に近く、強度面からも更なる高落差化には羽根を分厚くする必要があり性能悪化の要因となっていました。そこで、原理的に性能向上が可能な「ランナの多翼化」に着目しました。これまでの常識では「多翼化すると摩擦損失が増大して効率が低下する」と考えられていましたが、近年、飛躍的な進歩を遂げている流れ解析技術を駆使して、摩擦損失増大は少なく他の利点が大きい、ということを見出しました。これを基に実用化研究に進みました。

多翼ランナは、運転範囲拡大、効率向上、信頼性向上といった面で優位性が期待されますが、ランナ出口で羽根同士の隙間(出口流路面積)が狭くなるので、製作や保守が困難になったり、出力低下のリスクがあります。そこで、隙間を確保しつつ多翼化するという相反する要求を可能にする「中間羽根付きのランナ構造(スプリッタランナ)」を採用しました。図2のスプリッタランナこそが、この要求を充たす多翼ランナと言えます。

ところが実際の設計では、主羽根と中間羽根の周りの流れが複雑になり、羽根の形状と配置を適正にしないと特性が悪化することが明らかとなりました。更に、水車としてもポンプとしても高性能を確保する必要がある、という最大の難問に直面しました。ここでも最新の流れ解析技術を駆使して挑んだ結果、中間羽根の長さと配置位置の適正値を見出すことに成功し、実用化への第一歩を踏み出すことができました。

図2 中間羽根付きランナ(スプリッタランナ)
図2 中間羽根付きランナ(スプリッタランナ)

スプリッタランナ型ポンプ水車で揚水発電所の世界最大出力を達成

当初、従来型ランナを使用する予定だった東京電力株式会社殿・神流川発電所に、落差700m級のスプリッタランナ型ポンプ水車を適用し、単機最大出力は450MWから470MW(約24万世帯分)へ増大しました。そして2005年12月、図3に示す初号機が営業運転を開始し、世界最大出力を達成しました。試算では燃料費低減効果と共に、年間11万4千トン(東京ドーム47杯分)のCO2削減効果が見込まれます。これら世界に先駆けた実機適用の実績により、財団法人電気科学技術奨励会より電気科学技術奨励賞・同審査委員会特別賞ならびに文部科学大臣奨励賞や、特許庁長官奨励賞などを受賞しています。

スプリッタランナ型ポンプ水車は、あらゆる揚水発電所に適用でき、強度面から従来型では不可能であった落差800m超級の機器に適用可能となります。世界的な電力需要は今後も拡大の一途をたどり、需要平準化の観点から揚水発電所の需要が増大していくと予測されています。このような状況の中、スプリッタランナの適用可能性は極めて大きく、エネルギーの有効活用を通して地球環境保護に貢献していけるものと考えます。

図3 東京電力株式会社殿・神流川発電所へのスプリッタランナ据付
図3 東京電力株式会社殿・神流川発電所へのスプリッタランナ据付