活動事例

開発秘話

当社開発の製品や技術について、そのきっかけや開発過程のエピソードなどを紹介します。

「実用化に向けて着実に進歩する高温超電導技術」
- 最先端の研究にも高温超電導技術が役立っています -

はじめに

私たちは、超電導技術を用いて電流を閉じ込めたり、強磁場を発生させたりする研究開発を行っています。超電導技術は、医療用MRI(磁気共鳴画像装置)やリニアモーターカー、半導体に使われる単結晶シリコン引き上げ装置やSMES(電力貯蔵装置)などに使われています。

今回は、100kgの物体を磁力で空中に浮かせ、さらに高速プラズマ流を閉じ込める高温超電導技術の話をします。これは将来の核融合装置に役立てる研究を目的とした実験装置です。仕様として、磁力線の途中に障害物がないこと、磁場の強さとして1テスラ以上、かつ磁力線にゆがみがないこと、さらに空中に浮かせながら8時間実験をしたい、というのが要求でした。

空間に強い磁場を発生させるには

磁場を発生させるものとして、まず思い浮かぶのは永久磁石です。しかし、永久磁石は磁力線がN極とS極の間に発生しますので、空間に閉じた磁力線を作ることができません。一方、電磁石で1テスラ以上の磁場を発生させるには、細い銅線に大きな電流を流す必要があるので、銅線が発熱で溶けてしまわないように、コイルよりも遥かに大きい冷却装置が必要になってしまいます。また、電流を流すための配線や冷却装置が磁力線の途中の障害物となってしまいます。

超電導コイルなら高速プラズマ流を閉じ込められる!

永久磁石や電磁石では不可能と思われた高速プラズマ流の閉じ込めですが、超電導技術を使えば実現できる、と考えました。電気抵抗が発生しない超電導線ならば、細い線に発熱なしで大きな電流を流すことができますし、超電導コイルを閉じた回路にしてしまえば、一度電流を流した後は、外部から電流を供給しない永久電流モード運転になるので磁場を発生し続けることが可能です。

ただし、超電導コイルは極低温に維持しなければなりません。そこで、比較的高い温度まで超電導状態を維持できる高温超電導技術を使い、要求仕様の8時間を達成することを考えました。図1は今回製作した高温超電導磁石の構造です。直径50cmの真空容器の中に通電や冷却のための構造を組み込み、さらに重量を100kg程度に抑えることは、ものづくりとして非常に難しい課題でした。冷却配管からの洩れなど、何度か試行錯誤はありましたが、最終的には一度冷却しただけで8時間運転できる目処をつけることができました1)

図1 高温超電導磁石の内部構造
図1 高温超電導磁石の内部構造

一方、高温超電導コイルにも課題がありました。当時、高温超電導線は機械的に非常に弱いことが問題でした。超電導線を破壊させずに高温超電導コイルを作るためには、図2に示すような一列巻のシングルパンケーキコイルを巻線し、それらを複数枚積み重ねた後に上下で接続する方法しかありませんでした。しかし、コイル間接続に流れる電流は、磁力線にゆがみを生じさせる誤差磁場の原因になります。また誤差磁場で高温超電導コイルに回転力が発生する心配もありました。当初は、超電導特性を劣化させないことと、誤差磁場を小さくすることを両立させる良い案がなく悩みました。シングルパンケーキコイルを接続する製作方法は踏襲しながら、誤差磁場や回転力をうまく打ち消すように接続する方法を考案し、この二律背反を解決する目処がたちました2)

図2 シングルパンケーキコイルと接続方法
図2 シングルパンケーキコイルと接続方法

初めての磁気浮上とプラズマ実験

まずは、完成した高温超電導磁石を磁気浮上させないで、永久電流性能と断熱性能の確認をおこなった結果、8時間の連続運転や磁場減衰に問題がないことがわかり、まずは胸をなでおろしました。関係者が見守る中、高温超電導磁石の浮上実験、そしてプラズマ実験を行いました。全ての接続が切り離された高温超電導磁石は、極めて安定に浮上し、心配した誤差磁場による回転も浮上開始時に僅かに動いたものの、しばらくして静かに止まりました。図3は、磁気浮上させた高温超電導磁石に高速プラズマ流を閉じ込めた様子です。高速プラズマ流に関する研究は、この装置を使って現在も進められています3)4)

図3 磁気浮上して高速プラズマ流を閉じ込めた高温超電導磁石の様子
図3 磁気浮上して高速プラズマ流を閉じ込めた高温超電導磁石の様子
図3 磁気浮上して高速プラズマ流を閉じ込めた高温超電導磁石の様子
(東京大学プラズマ理工学研究室殿 ご提供)

最後に

これまでの超電導技術の応用は低温超電導が主流で、冒頭に示した医療用MRIなどに高温超電導が適用されていくのはこれからですが、第2世代と呼ばれるイットリウム系の高温超電導線も急速に性能が向上しており、実用化にむけてさらに応用開発を加速していきたいと考えています。

なお、磁気浮上した高温超伝導コイルが形成する磁場空間内に、高温プラズマを長時間閉じ込めるという、世界に先駆けた技術成果が評価され、2010年11月30日、プラズマ・核融合学会より技術進歩賞を受賞しました5)

参考文献

  • 1)T. Tosaka, et al.; IEEE Transactions on Applied Superconductivity 16, 910-913 (2006).
  • 2)T. Tosaka, et al.; IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 17, 1402-1405 (2007).
  • 3)ニュートン 2007年2月 P108-109
  • 4)東京大学プラズマ理工学研究室ホームページ http://www.ppl.k.u-tokyo.ac.jp/
  • 5)東芝電力システム社ホームページ(第15回プラズマ・核融合学会賞<技術進歩賞>を受賞) http://www3.toshiba.co.jp/power/whatsnew/topics/20101228/index_j.htm

(2011年5月公開)