特集:持続可能な社会に貢献する半導体技術

東芝デバイス&ストレージ(株)は,環境対応のリーディングカンパニーとして,持続可能な社会に貢献し,未来へバトンをつないでいきます。産業や社会に変革をもたらしている電力インフラ・車載・サーバー分野を中心に,高機能・高性能な半導体製品を提供しています。この特集では,高効率化,低消費電力化,小型化,及び高信頼性化に向けた技術開発や,ソリューション・サービス提案など,省電力化を加速する取り組みを紹介します。

創業150周年記念シリーズ

特集:持続可能な社会に貢献する半導体技術

川口 雄介・江野 聡史・池田 貞男

環境・経済・社会のバランスを保ち,将来の世代のニーズを満たしながら現在の世代のニーズを満足させるという持続可能な開発が,地球環境問題の解決に向けた様々な取り組みの基礎となっている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,ディスクリート半導体,ロジック半導体,アナログ半導体の三つの分野で,持続可能な社会の実現に不可欠な半導体製品の新たな技術を開発し,製品の性能改善や機能向上を図っている。

川井 博文・山本 洋

5G(第5世代移動通信システム)によって社会の利便性は劇的に向上しており,今後もその普及率向上,用途拡大が想定される。それに伴い基地局の増加が見込まれ,それらに用いられるパワーマネジメントシステムや,DC(直流)-DCコンバーター,及びパワーMOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスター)の変換効率向上が求められている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,DC-DCコンバーターの変換効率向上に寄与するSi(シリコン)パワーMOSFETを継続的に提供してきた。今回,トレンチゲート構造の第11世代であるU-MOS11-Hプロセスを採用し,電力の損失に影響する重要な性能指標であるRDS(ON)Qgd(ドレイン–ソース間オン抵抗RDS(ON)とゲート–ドレイン間電荷量Qgdの積)を,第10世代のU-MOSⅩ-Hプロセスの採用に対し62 %低減した100 V耐圧パワーMOSFETをリリースした。

田中 克久・楠本 雄司・鈴木 拓馬

カーボンニュートラル社会の実現に向け,低損失なSiC(炭化ケイ素)パワー半導体が注目されている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,セルピッチ縮小による低オン抵抗化を目的に,1,200 V級SiCトレンチMOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスター)を試作した。評価の結果,面積当たりのオン抵抗(特性オン抵抗)RonAは25 ℃で1.50 mΩ・cm2と従来のSiCプレーナーMOSFETに比べ30 %低減し,耐圧1,500 V以上及び短絡耐量2.5 µsを確認した。また,トレンチ形状のラウンド化プロセス適用により,非適用サンプルと比べてゲートリーク電流Igを1/100以下に改善し,トレンチ開口幅の増加を抑制することでセルピッチを29 %縮小した。更に,GSI(Gate Switching Instability)現象を抑制する製造プロセス最適化により,しきい値電圧Vth変動を低減して信頼性の向上を図った。

冷 可・釘山 裕太

地球温暖化対策として,再生可能エネルギーの一つである太陽光発電(PV)システムが,住宅からメガソーラーまでの幅広い用途で急速に普及している。PVシステムの電圧は,発電効率の向上と設備コストの削減を両立するため,従来の1,500 Vから2,000 Vへと高電圧化が進んでおり,これに伴い,安全性確保の観点から,システム絶縁性能向上への要求が高まっている。

このような市場ニーズに応え,東芝デバイス&ストレージ(株)は,PVシステムの絶縁性能向上に寄与する長沿面ゲートドライバーカプラーを開発した。パッケージの沿面距離を従来品最長の8 mmから延長して15 mmにするとともに,樹脂材料として比較トラッキング指数(CTI:Comparative Tracking Index)が600以上の高耐トラッキング性材料を採用することで,安全規格であるIEC 62109-1及びIEC 62477(国際電気標準会議規格62109-1及び62477)における2,000 Vシステムの要件を満足した。

伊藤 佑一・田嶋 聡・松本 泰明

利便性や作業効率などの向上のために,民生・産業・車載など幅広い分野で電動化が進展している。これに伴う電力消費量の増加を抑えるため,BLDC(ブラシレス直流)モーターとベクトル制御を組み合わせた高効率なモーター制御の需要が高まっている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,当社製のMCU(マイクロコントローラーユニット)及び車載用のマイコン内蔵ゲートドライバーIC SmartMCD向けに,ベクトル制御対応のモーター制御ソフトウェア開発キット Motor Studioを提供してきた。更に,Motor Studioを強化して効率的なモーター制御ソフトウェア開発を支援するために,制御パラメーターの調整機能,制御情報のリアルタイム波形表示・ロギング機能,及び低速回転時の電流検出機能を追加した。

村瀬 輝高・アジャイ カドルカル・久本 康司

IoT(Internet of Things)デバイスの普及に伴い,エッジコンピューティングの重要性が高まる中で,低消費電力・低コスト・小型設計を特徴とするMCU(マイクロコントローラーユニット)は,IoTシステムの中核を担うプラットフォームとして注目されている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,MCUにAIを実装する有用性に着目し,OSS(オープンソースソフトウェア)を活用したMCU向けAI開発環境を構築している。AIのモデルは,重み係数の数が膨大になるため,学習可能なテンソル列(TT:Tensor Train)分解ネットワークに基づく圧縮技術を開発・導入して,モデルの推論精度を維持しながら,モデルサイズと計算負荷の削減に取り組んでいる。これにより,エッジデバイス上でのリアルタイムAI推論の実用化を促進する有効なアプローチを実現する。

テー チェンコン・畢 特・伊藤 修一

電源供給経路の導通損失を減らすために,48 Vを直接1 Vにする高降圧率のDC(直流)-DC変換の需要が高まっている。従来,DC-DC変換に使われてきたBuck回路方式は,高降圧率と高変換効率を両立できない。一方,トランスを用いると,高降圧率と高変換効率は実現できるが,実装体積が大きくなる。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,トランス不要で高降圧率と高変換効率を実現する独自のStar-Deltaスイッチング回路方式を開発した。この方式では,パワースイッチのオン時間をBuck回路方式の5倍に広げて,スイッチング損失を抑えた。また,IC内のキャパシターの静電容量を小さくする技術を開発し,キャパシター面積を最大61 %削減してICを小型化した。外付けのトランスを3個のフライングキャパシター(Cfly)に変えて, 実装体積を約1/10にできる。Star-Deltaスイッチング回路方式のICを試作し,トランス使用時と同等の最大変換効率88 %と,業界最高(注1)の790 mA/mm2の高電流密度を確認した。

(注1)2024年6月現在,パワースイッチ混載・80 %以上の変換効率・2 MHz以上のスイッチング周波数の48 V–1 V変換ICとして,当社調べ。

平木 元博・竹田 駿・馬場 江未瑠

パワーエレクトロニクス分野では,製品開発の複雑化に伴い,モデルベース開発(MBD:Model Based Development)の導入が進んでいる。特に,半導体は最終製品の性能に影響するため,顧客のMBD開発環境に対応して電気特性をモデル化したSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)モデルを早い段階で生成し,製品企画と同時に回路・システムレベルで検証できるようにして,開発期間短縮や試作削減に貢献することが求められている。

東芝デバイス&ストレージ(株)は,デバイスシミュレーションツールで抽出した電気特性と構想設計データを組み合わせることで,製造前のパワー半導体の特性予測が可能な“コンセプトSPICEモデル”を生成する技術を構築した。既存のLVMOS(低耐圧MOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスター))製品の電気特性を実測して生成したSPICEモデルを基準として,同製品のコンセプトSPICEモデルの誤差を,ドレイン–ソース間電圧(Vds),ゲート–ソース間電圧(Vgs),及びドレイン電流(Id)を評価した結果,静特性で15 %以下,動特性で20 %以下と,構想検討が目的のモデルとして十分な精度で特性予測できることを確認した。

一般論文

石田 友美・合田 浩二

MLOps(注1)の重要性が高まる中,AIモデルの数が増加することで,各モデルの状態やリリース先の把握が複雑化し,運用負荷の増大が顕在化している。

これに対応するため,東芝は,大規模AIモデルの運用に対応したリリース管理機能をMLOps基盤に実装した。この機能により,再学習からリリースまでのプロセスの作業時間を短縮することが可能となった。また,承認プロセスを含む一連の運用フローを支援することで,モデルのリリースに掛かる作業負荷を軽減する。評価の結果,リリース管理機能の有効性が確認されるとともに,更なる最適化の余地も明らかになった。今後は,機能の拡充と運用性の向上を図り,一層広範な事業領域への展開を目指す。

(注1)Machine Learning Operationsの略で,AIモデルの開発から,運用環境への配置,運用までのライフサイクル全般を管理する一連のプロセス。

遠藤 浩太郎・外山 春彦

デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展を背景に,企業間のデータ連携を加速するブロックチェーン技術への期待が高まっている。しかし,複数企業が協調してシステムを運用する際,専門知識を要するシステムの複雑さや,信頼性確保の難しさなどが,社会実装を妨げていた。

東芝グループは,これらを解決するため,2022年に独自の企業向けブロックチェーンDNCWARE Blockchain+(以下,BC+と略記)の提供を開始した。以来,実用性を追求した改良を重ね,4ノードでのビザンチン障害耐性(BFT:Byzantine Fault Tolerance)の保証や,ネットワーク構成の柔軟性強化などを実現して,2025年にバージョン3.0をリリースした。多岐にわたるユースケースで社会実装を進めており,既に複数の事例で本格稼働に至った。

西尾 尚己・齋藤 陸遙・長坂 昌憲

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,小型・中型車両の電動化が進展している。加えて,鉄道や船舶などのモビリティー分野でも,電動化によるCO₂(二酸化炭素)排出量の削減が期待されており,これらに用いられる電池には,高体積エネルギー密度に加え,高出力・高耐久・高安全性が求められる。

東芝が製造するリチウムイオン二次電池 SCiB™は,これらの要件に対し高い親和性を持ち,これまでに多くの採用実績がある。今回,更なる高体積エネルギー密度化と長寿命化の両立を図るため,正極の材料と構造,及び電解液を適正化した。その結果,45 ℃の高温環境下において,約6,000サイクルの充放電後でも95 %の容量を維持する性能が得られた。

向井 健朗・橋立 忠之・中薗 昌彦

再生可能エネルギーの増加に伴い,電力需給調整力の必要性が高まっている。迅速な起動・停止と出力制御が可能な水力発電は,調整力の担い手として注目され,更なる高速起動の実現や,頻繁な起動・停止が望まれる。このような運用は水車ランナ(以下,ランナと略記)への負担が大きく,ランナの疲労寿命(以下,寿命と略記)消費に大きな影響を与える一方で,損傷メカニズムは未解明であった。

東芝エネルギーシステムズ(株)は,損傷メカニズムを解明し,起動時の強度評価手法を構築した。また,強化学習を用いた起動時間短縮と寿命消費抑制の両立をもくろみ,現地にて試験により得られた結果と比較して,同程度の寿命消費ながら約8 %の起動時間短縮の可能性を確認した。これらを応用し,水力性能への影響を最小限に抑えながら高速起動を可能とするランナの開発につなげ,電力需給調整における水力発電の価値向上に貢献する。

R&D最前線

甚目 靖明

BWR制御棒落下速度リミッターの大幅な軽量化と寿命延長に向けた新たな設計・製造手法

沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)の制御棒に装着される落下速度リミッターは,スクラム(制御棒の緊急挿入)時の過度な落下速度を制限する重要部品です。制御棒の長寿命化や制御性能の向上には中性子吸収材の充塡量増加が有効ですが,質量制限があるため軽量化が不可欠です。そこで,トポロジー最適化と寸法最適化を組み合わせた軽量化設計手法を開発しました。これにより,落下速度の制御特性に影響する外形形状を維持しながら,約50 %の軽量化を達成する設計が得られ,付加製造技術(Additive Manufacturing)を活用した造形試作を行いました。

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