特集・トピックス:イタリア〜モンテネグロ間400kmを繋ぐ高電圧直流送電(HVDC)を実現する
<第1回> 仕様決定は未来を見据えた土台作り

イタリア〜モンテネグロ間400kmを繋ぐ高電圧直流送電(HVDC)を実現する
<第1回> 仕様決定は未来を見据えた土台作り

イタリア〜モンテネグロの海底400kmを繋ぐ

イタリアはエネルギー資源に乏しく、電力の大部分を外国からの輸入に頼っている現状があり、国内のエネルギー不足を解決しなければなりません。さらにイタリアを含め、欧州では環境問題などの観点から新規発電所の建設が困難な場合が多く、輸入先の選択肢を増やすことで電力不足になるリスクを減らすことが求められます。今回はモンテネグロに変電所を建設し、そこからイタリアに向け送電する必要がありました。

アドリア海を隔てて、イタリアのチェパガッティ市とモンテネグロのコトル市を結ぶ距離はおよそ400km。1GWもの電力をまずモンテネグロ側の変電設備で交流から直流に変換、そして海底ケーブルを通じイタリアの変電設備にて直流電流を再び交流に変換します。

イタリア〜モンテネグロ間約400kmを海底ケーブルで繋ぐ
イタリア〜モンテネグロ間約400kmを海底ケーブルで繋ぐ

この巨大なプロジェクトに日本から唯一声をあげたのは、日本でも多くの直流送電の実績を持つ東芝でした。北海道〜本州間や四国〜本州間での海底ケーブルを用いた直流送電システム用の交直変換器を納入した実績が評価され、結果として受注につながりました。

仕様検討による現状認識がプロジェクトの基礎に

イタリア〜モンテネグロ間直流送電プロジェクトにまつわる取り組みを紹介する連載第1回は、受注後に行われる「仕様検討」「システムスタディ」「ファンクショナルスペシフィケーション」を解説します。

イタリア〜モンテネグロ間直流送電プロジェクト完成までの工程
イタリア〜モンテネグロ間直流送電プロジェクト完成までの工程

今回の契約は「フルターンキー」(設計から機器・資材・役務の調達、建設及び試運転までの全業務を単一のコントラクターが一括し、納期、保証、性能保証責任を負って請け負う契約)で受注しているため、変換所を作るために東芝の持つ技術をフルで活用することができます。変換器、保護・監視制御システム、変圧器、開閉装置、避雷器と、東芝の電力流通システム事業の組織を横断し、あらゆる技術が投入されるプロジェクトとなりました。

受注が決定し最初に行うのは「仕様検討」です。イタリアとモンテネグロの電力系統情報をもとに、変換所としてどのような機能・スペックを求められているのかを具体化するための解析を行います。変換所全体を俯瞰して解析することで、プロジェクト全体のゴールを確認します。最初の段階で問題や課題を洗い出すことが重要です。プロジェクトのどのように進むのか、この段階の現状認識がすべての基礎となります。

顧客が本当に求めているものを追求する

仕様検討が終わり、次に取り掛かるのが「システムスタディ(System Study)」と呼ばれる設備のレイアウトや検証を行うステップです。顧客からの要求する数値の達成はもちろんのこと、その向こうにどんな目的が存在するのか、丁寧にヒアリングを重ねることで達成するべき要件を固めていきます。1GWもの大電力を支える機器にかかる電圧・電流のストレスから各機器の定格を決定していきます。

考慮すべきなのは電力だけではありません。騒音や電気的なノイズの発生をどのように抑えるか、電界・磁界による人体への影響も考慮しながら物理的な機器のレイアウトを定めていきます。また、トラブルや想定外の事態に対しても備えなければなりません。近隣の設備が停止した際の対応速度を高めるためのシステムの応答速度や、機器にかかるストレスから発生する故障の頻度が必要な信頼性を満たしているかも重要な要素です。長期間、常に動き続けるシステムだからこそ考慮するべき項目があり、根本から携わるもっとも重要なステップがこの「システムスタディ」なのです。

変換所の完成予想CG図
変換所の完成予想CG図

システムスタディは日本とイタリア両国のエンジニアが分担することで行われました。両国間でのコミュニケーションに加え、クライアントから受け取った形式が異なるデータの解析のためにソフトを作るなど、ギャップを埋める作業を繰り返しつつ進められたそうです。

システムスタディから導き出された全体のレイアウトをさらに具体的に落とし込むために「ファンクショナルスペシフィケーション(Functional Specification)」のステップへと進みます。機器が実際に使用される状況を想定し、各機器の連携やインターフェースの提案を行います。この段階で ”機器の使い勝手” が決まり、機器の実装内容が決定します。ここまでのフェーズの段階で、実際の運用も含めたプロジェクトの全景がすべて織り込まれていると言っても過言ではないでしょう。

顧客の求める仕様が決まり次は「設計」フェーズへ

仕様にまつわるステップに関わったエンジニアは「1GWもの大電力を異国間で直流送電するという大規模なプロジェクトに、根幹から関われることが嬉しかった。東芝だからこそできたプロジェクトに参加できたことに感謝している」と語っていました。

仕様が一通り決まり、1GWもの大電力を約400kmの距離に渡って安定的に直流送電するプロジェクトはここから、機器の設計がスタートします。次回は設計、製造といった "仕様の具現化" にあたり発生した新たなチャレンジ、そしてこれまでの努力が試される場である性能テストを含め、プロジェクトが現実化していく過程をレポートします。

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