特集・トピックス:世界初の一体輸送を可能にした『新形550kVガス絶縁開閉装置』
世界初の一体輸送を可能にした『新形550kVガス絶縁開閉装置』
2017年12月、当社は世界で初めて一体輸送を可能にした550kV級のガス絶縁開閉装置を公開しました。
ガス絶縁開閉装置(以下、GIS)とは、遮断器や断路器、接地開閉器などの変電所に付随する開閉機器を、絶縁性の高い六フッ化硫黄(以下、SF6)ガスを充填した密閉金属製容器に収納する設備のこと。電力の安定供給に必要不可欠なシステムとして、発電所や変電所に設置されています。SF6ガスを使用しない気中絶縁開閉装置(以下、AIS)と比べてコンパクトに設置できるため、変電所の敷地を大幅に縮小することが可能です。
機器の老朽化や、敷地や保守人員の削減のためAISからGISへの更新を検討するお客様が増えているものの、導入コストと設置期間の長さがネックになっていました。
国内ニーズに応え、大幅なコストダウンも実現
今回「新形550kVガス絶縁開閉装置」を開発するに至った経緯として、お客様のニーズである「コスト削減」「工事期間の短縮」「メンテナンス性の向上」が課題だったと、開閉装置設計の砂塚隆さんは振り返ります。
「一体輸送を実現するためには、トレーラーで輸送可能な寸法に収まるようにGISをレイアウトする必要がありました。GISのレイアウトでは遮断器を縦にしたり横にしたり、主母線を上に置いたり下に置いたり、さまざまなパターンが考えられます。どんな配置が最適なのか、コストとメンテナンス性も含めて検討を重ねました。」
そして当社は軽量化・小形化させた「新形550kVガス絶縁開閉装置」の開発に着手。部品点数の削減などで大幅なコスト削減を実現しながら、容積比約80%に小形化、機器重量比約65%(GIS本体のみで比較)の軽量化に成功しました。
その結果、このクラスでは世界で初めて1回線のメインユニットをトレーラーで一体輸送することが可能となり、現地における組立、試験の削減により据付工事期間も大幅に短縮されました。また新形GISの優位性は上述した3つのニーズが満たせることだけではありません。今回の新形GISでは低層化により、東日本大震災以後、その必要性が再認識されている耐震性も向上しています。
各種仕様の合理化や新技術の適用
こうした軽量化が実現できた背景には、各種仕様の合理化や新技術の適用があります。仕様の面では温度条件や耐雷性条件、電流開閉条件の低減が、機器の小形化、部品点数の削減に繋がりました。さらに3D-CADを用いた三次元電界解析によってシミュレーションの精度を向上し、機器を縮小化した際の最適な絶縁設計を実現しています。
一体輸送に向けて、機器のレイアウトにも熟考を重ねました。主母線を遮断器の上部に配置するなど機器配置を最適化しながら、メンテナンス性にも配慮しています。
砂塚さんは「一体輸送可能な形で主母線を上部に配置するのは、このクラスのGISでは初の試み。三次元のバーチャルリアリティで保守性を確認し、お客様にも納得していただいた上でこのレイアウトに確定しました」と語ります。
旧世代のGISでは機器の積層化によって敷地面積が小さい分、上段に点検フロアがあり、メンテナンスの際に階段を登る必要がありました。その点、今回はすべての機器を地面から点検できる「フロアレス化」を実現しています。据付工程が短縮できるだけでなく、運用時も各機器の巡視や点検がしやすい設計になっています。
一体輸送を実現する上で遮断器の小形化・軽量化が大きなポイントでした。従来は、遮断器を高速で閉じた際に発生する過電圧を抑えるため、遮断器タンク内に設けた投入抵抗接点を用いていました。しかし、タンクを小径化するためこの投入抵抗接点を無くし、その代わりに遮断器が動くタイミングを細かく制御して過電圧を抑えることができる開閉極位相制御装置(TCSS)を導入。一体輸送実現に大きく貢献しました。
遮断器設計の内田和徳さんは「投入抵抗接点を無くすにあたり、機器の信頼性を一番に意識し、遮断器の特性ばらつきや過電圧解析などの検討を重ね、TCSSを採用することを決定しました。また、TCSSを2重化し、ひとつが壊れてももう片方が動作することでさらに信頼性を高めている」と語りました。
開発設計の高尾浩史さんは、断路器・接地開閉器・母線の設計グループのリーダ。「断路器については、電流開閉仕様の合理化により、従来よりも開閉速度を低減した電動操作方式を採用しました。操作エネルギーを低減することで、操作機構部も含めた駆動構造の大幅な小形軽量化を実現し、GISの一体輸送にも大きく貢献出来ました。」
また、タンク径のコンパクト化には「異物無力化コーティング」が寄与していると言います。「GISはシャープペンシルの芯程度の小さな金属異物がタンク内に存在しただけでも、絶縁性能を脅かすぐらい繊細な機器。電気をかけると金属異物が動き出すことがあるのですが、異物無力化コーティングはこの異物の動きを抑える効果があります。」
先進国における老朽化機器の更新需要にも対応
今回の新形GISにおける小形化について、国内の電力会社であるお客様からも「従来の遮断器と比べても遥かにコンパクトになった」「断路器も電動操作方式になり、これまでに比べ小さくなった。」との評価を受け、すでに受注が決まっています。
今後の目標としているのは、デジタル化によるメンテナンスのさらなる効率化、省力化です。砂塚さんは「機器の診断をデジタル化できれば、今までマニュアルを持って点検をしていたのがタッチパネルひとつで済むようになります。ARで見ると制御盤に文字が出て操作を促すなど、最新技術を取り入れて、よりメンテナンス性を向上させていきたいです」と力を込めました。
当社は世界初の一体輸送を可能にした新形 550kVGISの高い技術力によって、今後も国内や先進国における老朽化機器の更新需要に対応してまいります。