あらゆるモノがデジタル化され、ネットワークにつながり、モノの価値を高める時代。多種多様な電子機器に欠かせないプリント基板の需要は、今後も伸び続けると予想されています。需要の増加に応えるために、製造現場では、生産ラインの生産効率の向上が課題となっています。この課題を解決するには、生産ラインの設備から稼働状況を取得し、見える化、分析することが重要となります。ここでは、プリント基板の表面実装ライン(SMTライン)における課題と、その解決に向けた東芝デジタルソリューションズの「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」を紹介します。これは、さまざまな設備メーカーの機器で構成される複数のSMTラインを持ち、小ロット多品種のPCB( Printed Circuit Board)を生産している企業に適したパッケージ製品です。
設備データの自動収集と活用でSMTラインの生産効率を改善
あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代が到来し、社会生活に関わる多種多様な製品がデジタル化されています。このトレンドを支えているひとつの要素が、電子機器に必要とされる電子部品や集積回路、それらをつなぐ金属配線などを高密度に実装したプリント基板(PCB:Printed Circuit Board)です。家電やスマートフォンなどの電気製品や、自動車などの電装品にも広く使われています。プリント基板に電子部品を実装する、つまり表面実装(SMT:Surface Mount Technology)を行うような電子機器製造サービス(EMS:Electronics Manufacturing Service)の世界における市場規模は、2024年から2032年にかけて年平均で7%を超える伸びを続けると予測しているデータもあり※、今後も成長が期待できる分野です。
※参考:電子機器製造サービス [EMS] 市場規模、2032 年 (fortunebusinessinsights.com)
生産ラインの生産性向上には、ラインに配置された設備から、生産した数や不良品の数、設備の稼働時間などのさまざまな稼働状況のデータを速やかに収集し、それらのデータを基に分析を行い、品質・設備稼働率の向上に取り組むことが重要となります。しかしながら現状のSMTラインでは、設備から出力されたデータを設備に付帯する産業用コンピューターには保存するものの、それら産業用コンピューターの多くがネットワークに接続されていないこと、また出力されるデータやそのフォーマットが設備メーカーによって異なることが、データの収集や活用の妨げとなっています。
そこで、SMTラインで稼働する各設備(に付帯する産業用コンピューター)からデータをいかに収集し、各設備から出力されるさまざまな形式のデータをいかに共通化して蓄積するかが、最初に取り組むべき課題です。
データ収集においては、設備のメーカーごとにインターフェースを用意する必要があります。これにより、複数のメーカーの設備が混在するラインであっても一貫してデータを収集できるようになります。また設備から出力されるデータは、同じようなデータであってもそれぞれ呼び方(項目名)が違ったり、分単位や時間単位など収集する粒度が異なったりします。それら一致していないデータの形式を統一した活用しやすい形式に変換し、共通のデータベースに蓄積します。
このようにさまざまなメーカーの設備からデータを集めて形式を整えた後は、生産効率の向上に向けて現状の把握を行います。SMTラインの改善には、設備の稼働率や段取りの時間と稼働時間の割合、部品に関する搬送や認識のエラー率、廃棄率などの可視化が役に立ちます(図1)。また現場の担当者や管理者、経営者それぞれが「見たい情報」は異なるため、利用者が情報を簡単に選択して並び替え、役割ごとの視点で必要な情報を見られることが重要です。
このようなSMTラインにおけるデータの収集から蓄積、見える化までを短期間で実現し、すぐに工程改善への取り組みを可能とするのが、東芝デジタルソリューションズが提供する「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」です(図2)。長年にわたり電子機器の製造に携わってきた、東芝のノウハウと知見を生かし実現しました。
SMTラインが抱える課題とその解決策
SMTラインには、さまざまな課題があります。例えば、生産数や不良品の数など品質に関わるデータがリアルタイムに把握できない課題です。前述したように、これまで設備のデータは付帯する産業用コンピューターにのみ保存されていることが多く、製造現場管理者が工場内を巡回してそれぞれの産業用コンピューターから手書きやUSBメモリを使ってデータを取得していたことが大きな理由です。このようにして取得したデータは、統一した形式に変換してシステムに登録すること、なにより手書きの場合は人によるデータのインプットが必要となります。それらを行ったうえで、データの集計や分析を行うため、レポートの作成には手間と時間がかかっていました。それに加えて1時間ごとに状況を把握したいという要求もあり、負荷の高い作業でした。
この課題は、「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」を活用することで解決できます。データを収集する作業から、メーカーによって異なるデータの形式の統一と蓄積、さらには見たい情報をダッシュボードに表示する見える化までを行えるため、人手による作業を大幅に削減します(図3)。品質に関するデータをリアルタイムに把握できることで、改善に向けた取り組みが行えるようになります。
今後、さまざまな課題を解決するための機能を、提供していく予定です。例えばひとたび表面実装で不良が発生すると、その原因の調査や、解決するまでのラインの停止、不良の手直しなどが必要となります。不良が発生してから解決するまでの時間をいかに短くできるかが重要ですが、解決には調査や改善に関する知見が欠かせず、製造現場管理者だけでは対応することが困難でした。実際に、不良が発生したときには、製造現場管理者と品質担当者が何度もやり取りを重ねながら、原因を追究して対応(設備調整)しているため、時間と工数がかかっています。そこで当社では、蓄積したデータを活用して不良の解決を支援します。具体的には、Q&A形式のナビゲーションが、調査に必要な情報を尋ねたり、原因を絞り込んだり、対処方法を提示したりすることで、製造現場管理者による解決を支援するものです。表面実装の不良を解決するとともに、さらなるノウハウの蓄積と継続した品質の改善に貢献していきます。
また、時間の経過や使用による摩耗や劣化に伴い交換が発生する部品(消耗部品)の最適なメンテナンスが求められています。消耗部品の汚れや消耗によって起こる不良の削減が目的です。これまでは台帳管理により一定の期間で消耗部品の洗浄や交換が行われており、設備の稼働率が高いときに汚れや消耗が早く進み、不良が頻発していました。そこで、東芝グループのノウハウを生かして、利用実績である製造回数にしきい値を設け、それを基に消耗部品の洗浄や交換の必要な時期を通知する仕組みを提供します。これにより、設備の稼働計画を見ながら消耗部品の洗浄や交換のタイミングを決めたり、最適な予防保全を行ったりしながら、不良の発生を削減します。
段取り作業や、部品切れによる部品の交換にかかる時間を改善する支援も行います。生産ラインにおいて製造する品種を変更する際には、新しい品種で使用する部品や治具、副資材といった部材の確認から捜索、取り付けまでの段取り作業に時間がかかります。そこで、各部材の保管場所や使用場所を可視化し、段取り時間の削減に貢献します。また部品については、部品が切れる予告を行います。具体的には、設備が使用する各部品の残数や設備のスループットなどのデータを基に、部品が切れるまでの時間や切れるまでに生産できる回数、交換する部品の所在などを、部品が切れる前に通知するものです。部品切れの予測は難しく、従来は部品が切れて生産ラインが停止してから、不足した部品の確認や捜索、準備を行っていました。通知によって事前に部品の準備が行えることで、生産ラインの停止時間とその回数の最小化に貢献します。
さらに、設備の遠隔操作も支援します。設備にトラブルが発生したとき、これまでは設備担当者が設備メーカーとのやり取りの中で事象を共有して原因の調査を依頼し、メーカーの保守担当者が現地に赴き対応していたため、復旧までに時間がかかっていました。そこでメーカーの保守担当者が遠隔から設備に付帯する産業用コンピューターにアクセスできるようにし、原因の調査に必要なデータを取得したり、設備担当者に作業の手順や内容を伝えたりすることで、迅速な復旧を行えるようにします。また、トラブルが発生した際には、メーカーの保守担当者にもアラートを通知することで、初動をより素早くします。
東芝が提供できる価値とは
SMTラインが抱える課題を解決しながら進化していく「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」には、3つのポイントがあります。
1つ目は、すぐに工程改善に活用できることです。SMTラインに特化して設備データの収集から蓄積・活用までを行うパッケージ商品のため、導入後すぐに工程改善に必要な情報活用が可能となります。
2つ目のポイントは、さまざまなメーカーの設備に対応していることです。特定のメーカーや設備に限定することなくさまざまな設備データを自動で収集・集計し、SMTラインに特化したデータ構造で、データの一元管理が可能となります。
3つ目のポイントは、SMTラインの課題に応じたダッシュボードを提供していることです。標準装備のダッシュボード画面で、設備稼働率や、基盤・治具・部品ごとのエラー率などを表示し、工程の状況をリアルタイムに可視化することができます。
「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」は、東芝グループで培ってきたPCB製造拠点のノウハウと知見を生かした、SMTラインでの課題解決を目的としたソリューションです。今後は、SMTライン向けの設備だけでなく、射出成型機や工作機などさまざまな設備向けへも展開し、多くのお客さまに効果を体感していただくことを計画しています。製造現場のデジタル化と生産性向上に貢献するソリューションとして、さらなる進化を続けていきます。ぜひ、ご期待ください。
- この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2024年10月現在のものです。
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