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ものづくりの現場ではいま、生産性の向上とともに、熟練者の技術の継承や作業効率の改善といった「ヒト」に関わる課題への取り組みが求められています。そこでは、非効率な作業の削減や作業負荷の適正化、タイムリーな情報共有、リモートからの迅速なサポート、事故やケガを未然に防ぐ環境の整備などによる、作業者にとっての働きやすい環境づくりがいっそう重要となります。
このような現場の課題解決に向けて、東芝デジタルソリューションズでは、IoTとAIの技術を駆使して5W1Hによる現場の実態把握と分析を行う「Meister Apps 現場作業見える化パッケージ」を提供しています。ここでは、その概要と効果、ユースケースについてご紹介します。


「ヒト」が重要視されるものづくりの現場とIoT導入の課題


現在、ものづくり企業の多くが、「ヒト」に関する課題に直面しています。2020年5月に経済産業省、厚生労働省、そして文部科学省により共同で作成された「2020年版ものづくり白書」によると、人手不足や人材育成といったヒトに関連する課題を抱えていると回答したものづくり企業は40%を超え、さまざまな経営課題の中で最も高い割合を示しました。この課題に対する割合は、大企業と中小企業とで同様の結果が出ていることから、企業の規模にかかわらない製造業全体の課題であることがわかっています。

また、この白書では、ものづくりの現場において現時点では欠かせない、ヒトによる作業に関する5年後の見通しも調査されました。そこでは多くの企業が、ロボットやAIの活用、またそれによる自動化などが進む一方で、熟練の技能が求められる重要な作業は引き続きヒトが担うだろうと答えています。

これらのことから、実際のものづくりの現場においては、人手不足や人材育成への対応が欠かせないものとされ、また同時に効率的な生産への取り組みが求められています。具体的には、生産性の向上に向けた継続的な作業効率の改善や、突発的に発生した問題への迅速な対応とその恒久的な対策の実施、日々の計画に応じた人員配置の最適化、作業ミスの削減に向けた作業負荷の適正化、リモートから行える作業者の迅速なサポート、さらには体調不良や事故、ケガを未然に防ぐための作業環境や作業者の体調の把握など、作業効率や生産性、そして作業者にとって働きやすい環境に関するさまざまな取り組みが、現場には期待されているのです。

このような現場への期待の高まりにより、現場が抱える負担はいっそう増しています。これらの課題を解決する手段の一つに、IoTの活用があります。

しかし実際には、現場へのIoTの適用はなかなか進んでいません。その大きな理由としてよくあげられるのが、初期の導入などで大掛かりな設備投資が必要となること、作業が増えたり監視されていると感じたりするなど現場の作業者に与える負担の増加が避けられないこと、さらには機器から取得したデータの活用がイメージできない、効果が見えるまでに時間がかかる、といったことです。

このようなものづくり企業とその現場の声に応えるために、東芝デジタルソリューションズでは、これまでに培ってきた製造現場のノウハウを生かし、軽量で手軽に導入できるIoTソリューションの開発に取り組みました。


生産性向上のカギは5W1Hによる現場作業の見える化とAI推定


IoTを活用して何をするのか。当社ではまず、IoTにより取得したデータから、誰が(Who)、いつ(When)、どこで(Where)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)作業しているのかという「5W1H」を導きだし、現場の状況を可視化することが重要だと考えました。5W1Hで現場の状況を把握することで、現場作業の継続的な改善、すなわち現場力の向上という本来の目的につなげられます。

この5W1Hを導きだすための計測機器として、当社でさまざまな検討を重ねて選択したのが、ビーコンとリストバンド型センサ(MULiSiTEN)、そしてスマートフォンです。

ビーコンは、小さく設置が容易です。エリア全体の中で、作業者の位置を把握したい作業エリアに設置したり、それを別のエリアや移動した経路を把握したい作業用機器などに設置し直したりすることが手軽にでき、また個々のビーコンが発信する電波の強度(範囲)を臨機応変に調整できるなど、お客さまの用途や状況に合わせた活用ができます。必要なシーンにのみ使えることも、現場の負担軽減につながります。また、リストバンド型センサでは、作業者の手首に装着して、その動きからX方向、Y方向、Z方向という3軸の加速度データを取得し、当社のAI技術を使って作業者の動作を推定します。現在、機器の進化とともに、暑さによるストレスレベルや脈拍数、温度、湿度などを取得して作業者の状態を見える化するという、体調に配慮する取り組みも進めています。スマートフォンでは、作業者が発話した作業記録などの録音や、関係者との会話やそれらの情報の共有が行えるとともに、ビーコンやリストバンド型センサの活用により取得したデータをリアルタイムにデータ蓄積基盤へ転送できます。これらを活用して自動的に取得した各種データを用いることで、5W1Hによる現場作業の実態把握につなげます(図1)。

ビーコンやリストバンド型センサ、スマートフォンを活用して収集した作業者の各種データは、データ蓄積基盤として活用するノートパソコンに蓄積します。データ蓄積基盤に作業者の位置や動作、発話などの情報を時系列で統合して蓄積することで、作業の連続した観測ができるようになります。

収集したデータをさまざまな観点で見える化するために、作業内容や滞在時間、移動経路などをグラフやヒートマップなどで確認できる多彩なテンプレートを用意しています。作業にかかる標準的な時間と実績の差や、作業者ごとの作業負荷などの見える化により、非効率となっている作業や人員配置における課題などが発見でき、作業効率の改善や負荷の適正化に向けた対策の検討や実行、そしてそれによる全体の生産性向上につなげられるようになります。見える化により、問題点や改善ポイントの早期発見に取り組めるのです(図2)。

この見える化に向けて重要となるのが、作業者の行動推定です。当社では、リストバンド型センサで取得した3軸の加速度データをもとに、AIを使って、「手作業」「台車での移動」「歩行」「静止」という4つの動作に分類しています。これは、当社が提供しているAI分析サービスの中から、作業者の行動推定に特化したサービス「SATLYS KATA 作業行動推定」を活用し、実現したものです。SATLYS KATAは、特定の業務ですぐに活用できるように当社のAI分析の知見やノウハウを結集したものです。

※「SATLYS KATA 作業行動推定」はDiGiTAL T-SOULのVol.31で詳しく紹介しています。

この5W1Hでの現場作業の実態把握により、作業効率の改善と生産性向上が図れるソリューションは、「Meister Apps 現場作業見える化パッケージ(以下、現場作業見える化パッケージ)」として、提供しています。

現場作業見える化パッケージには、ビーコンやリストバンド型センサ、スマートフォン、データ蓄積基盤となるノートパソコン、そしてスマートフォンからノートパソコンへのデータ送信に欠かせないWi-Fiアクセスポイントといった各種機材、さらには、このソリューションの導入や運用、見える化テンプレートやデータの使いこなしなどのノウハウが詰まった各種マニュアルが含まれています。データの収集から見える化までに必要な機材を厳選して最小限にとどめることで、初期の導入コストを抑えたオールインワンパッケージです。これらをサブスクリプションで提供することにより、業務の改善や状況に応じて活用する規模や期間を調整することや、機材の調達や資産の管理の手間を削減することにも貢献します。さらには短期で利用できるトライアルサービスも提供しています。


収集したデータの具体的な活用シーンと導入事例


現場作業見える化パッケージには、さまざまなユースケースがあります。5W1Hによる作業記録の自動化や、非効率な作業の抽出と削減、密集状況の把握による新型コロナウイルス感染症対策など、多くのシーンでの活用が可能です(図3)。

例えば、工場内での物の運搬などにおいて、位置や動作に関するデータの分析により、移動経路の最適化が行えます。マップ上は最短の経路でも実際は通りにくい場所があったり、また作業者が予定と異なる経路を通っていたりすることが、現実にはあります。作業者にとっては、経路上に置かれた物を避けるためにとった無意識の行動だったため、報告書には書かれなかったということもよくあります。このような状況の把握と、原因の特定や対策が適切に行われることで、移動経路の最適化に加えて、作業効率と安全性の向上に寄与します。

また、作業者の見守りという点でも役立ちます。現場によっては夜勤や一人での作業が避けられないケースが想定されます。そこで、万が一、リストバンド型センサが作業者の体調の異変を検知したときには、管理者に通知してその後の対処につなげます。作業環境や作業者のモニタリングとコミュニケーションの機能の連動により、作業者にとって安心して働ける環境になります。

さらには、設備の異常に関する通知や分析などにも活用できます。設備を管理するシステムとデータを連携することで、異常が発生したときにはタイムリーに情報が共有されてその対処につなげられ、またその後の分析においては同一の時間軸上で人と設備の動きを比較できます。これにより、異常の発生から時間の経過とともに変化する設備の状態と、その同時刻における作業者の動きが可視化できるため、作業者の最適な配置や技能の見直しといった改善策の検討に役立てられます。

そのほかにも、現場で稼働するフォークリフトやAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)、クレーンといった移動や輸送の業務で使用する運搬機械の動きの可視化にも活用できます。移動のボトルネックになっている場所や経路などを定量的に把握して原因を取り除くことで、生産性の大幅な向上に貢献します。

また実際に、生産性の向上を実現した事例もあります。手作業や台車での移動、歩行、静止に分類した動作の情報と、作業する持ち場にいるかどうかを判断する位置の情報から、各動作時の作業内容を「主作業」と「付帯作業」、「その他」に分けました。各作業にかかった実際の作業時間と標準的にかかる時間をグラフ化して比較し、付帯作業が増えていること、さらにはその詳細の確認により、例えばあるエリアで台車による移動時間が大幅に増えているといった改善のポイントを見いだして、それに対する原因の分析と対策が行われました。改善する前後のデータを比較しながら、さまざまな改善とその効果の検証がなされた結果、主作業にかける時間を増やしても、全体の作業時間としては削減できるほどの効果をもたらしました(図4)。

この他にも、現場作業見える化パッケージは、物流倉庫や食品加工、小売り店舗など、さまざまな業種や業務に幅広く活用されていて、作業の「ムダ」がすぐにわかると好評を得ているソリューションです。

継続的な作業の見える化と分析を通して、現場の作業効率と生産性の向上、そして働きやすい環境づくりを支援する「Meister Apps 現場作業見える化パッケージ」。東芝デジタルソリューションズは、これからも製造現場の課題解決に貢献するソリューションをご提供していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2023年2月現在のものです。

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