ビジネスの目まぐるしい変化への対応力と信頼性を両立する新たな選択肢、東芝マネージドサービス「Albacore(アルバコア)」。先進のデジタル技術を駆使したソリューションのSaaS提供は、Albacoreが果たすべき重要な使命のひとつです。東芝デジタルソリューションズでは、製造の現場や社会インフラにおいて実績を積み重ねている東芝アナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」のマネージドサービス化を推進。高度なAI分析を目的や業務課題に合わせて継続的に活用いただいて、精度の向上や業務の改善につなげるサービス「SATLYSKATA(サトリスカタ)」シリーズを展開しています。今回は、そのラインアップの中から「作業行動推定サービス」をご紹介します。
実績を積み重ねる、“モノに関わるAI” SATLYS
東芝デジタルソリューションズは、2つのAIサービスとして、東芝アナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」と東芝コミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」を展開しています。RECAIUSが、人の発話や行動の意図・状況を理解し、人と人とのコミュニケーションを支援する“人に関わるAI”であるのに対し、SATLYSは、“モノに関わるAI”です。長年にわたり培ってきた東芝のものづくりの知見を生かし、検査データやセンサーデータ、業務データ、行動データなど多種多様なIoTデータの解析により、新たな気づきを支援。高精度な要因推定や異常検知、故障予兆検知、行動推定などの実現、さらにはバリューチェーンの最適化やプロセスの自動制御へとつなげることで、お客さまのビジネス変革を加速させていくものです。
SATLYSは、デジタルコンサルティングからデータ分析、システムインテグレーション、運用サポートまでを一貫したサービスで提供します。さらに先進のディープラーニング技術を大規模な解析にも適用し、学習用データの自動生成をはじめとする当社独自の技術により、学習用のデータが十分に用意できない場合でも精度の高い推論結果を導き出すことが可能です。その先進性が高く評価され、送電線の点検 (株式会社東芝)や焼却炉の燃焼異常検知、さらには医療画像でのがん細胞の検知などで活用されています。さまざまな産業領域の多種多様なシーンでSATLYSは利用され、現在も実績を積み重ねています。
※SATLYSの活用事例は、こちらでご紹介しています。
業務に最適なAIをマネージドサービスとして利用する
SATLYSが持つ高度なデジタル技術をより多くのお客さまに活用していただくために、さまざまな産業領域においてAI活用の普及を積極的に推進する中で、次のステップとして目指したのが、SATLYSのマネージドサービス化です。当社はSATLYSの開発・提供においてこれまでに培ってきた豊富な知識や経験を結集し、ディープラーニングモデルや分析フローを標準化。目的ごとに特化させたAI分析サービスへと進化させ、手軽に利用できるSaaS型で提供する。それが「SATLYSKATA(サトリスカタ)」です。
SATLYSKATAでは、お客さまはシステムを導入する必要はありません。目的に沿ったデータをアップロードするだけで、必要な分析結果を得ることができます。AIに関する専門的な知識がなくても、ビジネスの変革につながるAI分析を手軽にスタートすることが可能です。さらにSATLYSKATAを継続的に利用することで、分析精度の向上や機能の高度化など、将来にわたり変化していくビジネス要求にも対応する、最適なAIを活用することができるようになります。
「AIのマネージドサービス化」を実現したSATLYSKATAは、産業領域におけるさまざまな課題の解決に向け、目的に合わせて特化したAI分析を提供していきます。
そのひとつが、過去の保守履歴データから保守部品ごとの故障モデルを作成し、AI分析により故障が発生する時期を予測して最適な在庫管理を支援する「SATLYSKATA 保守部品在庫最適化*」。そして、もうひとつは、人の行動を可視化して工場や物流倉庫などでの業務効率化を継続的に支援する「SATLYSKATA 作業行動推定(以下、作業行動推定サービス)」です。これらは現在SaaSで提供しており、作業行動推定サービスについて、この後ご紹介します。
*「SATLYSKATA 保守部品在庫最適化」による当社の事例は、DiGiTAL T-SOUL Vol.24 #04で詳しくご紹介しています。
作業行動推定サービスの特長
作業行動推定サービスを開発した背景には、IoTの発展により工場や社会インフラの「モノ」の状態を正確に把握することが可能になる一方で、モノに深く関わりながら作業を行う「人」のデータを集めることが難しいという現状があります。例えば、作業者の日報は、作業者一人ひとりの記憶が頼りであるため、記録された情報を集計しても、正確性が高くありません。たとえ、集計した結果として、特定の作業が遅れているという傾向がわかったとしても、その原因を推察するまでには至りません。また、作業内容を一定時間おきにタブレット端末に入力する方法では、正確な行動把握のために多くのデータ入力が必要となり、作業中断などでかえって業務効率を落とす結果になりかねません。
当社の作業行動推定サービスでは、リストバンド型のウェアラブルデバイス(以下、デバイス)に搭載されたセンサーのデータを用いています。作業者はこのデバイスを腕に装着するだけでよく、作業への影響を最小限に抑えつつ、分析に必要なデータを収集することができます。デバイスには3軸の加速度センサーが搭載されており、腕の動きの加速度データを収集します。この加速度データをディープランニング技術により分析。「台車移動」「歩行」「手作業」「静止」という4つの分類で作業者の行動を推定し、可視化します。
この推定結果は、物流倉庫などの業務改善に活用できます。大量の商品を保管し配送する倉庫業務では、作業者の無駄な動きや移動のロスを最小化するため、作業工程や棚のロケーション、商品の配置を見直すことが業務効率化のポイントです。しかし、移動経路や距離が不規則であるため、一人ひとりの作業実態を把握することには限界があり、的確な改善策を見いだすことが難しいという課題があります。
そこで、作業行動推定サービスを活用して作業者の行動を見える化。「台車移動」の時間が長い場合は「台車を移動するルートに無駄があったのかも」とか、特定の作業者だけ「手作業」の時間が長い場合は「背の低い作業者が苦労して高い棚から商品を取り出していたのかも」というように、各作業者の行動とそれにかかった時間の推定結果から、効率が悪くなった要因を考察。これにより、「出荷する頻度が高い商品は、近い場所に集中して配置する」「作業者の体格を考慮した商品の配置にする」など、より具体的で作業者一人ひとりに無理のない改善策を導き出すことが可能になります(図1)。
作業時間を15%短縮。高度な分析力を実証
実際に、東芝グループの東芝ロジスティクスで、作業行動推定サービスを活用し、物流倉庫のピッキング作業の効率化で大きな成果を上げています。作業行動推定サービスから得た作業員の作業実績データと、作業ログなど倉庫管理システムのデータを活用し、作業内容や作業員別に実際にかかった作業実績値と、その作業にかける時間の目標値である標準工数とのギャップを見える化。商品の配置や作業員一人ひとりの状況に応じた作業内容の最適化を行い、作業時間を約15%*短縮することができました(図2)。
*2017年時点のデータであり、現在も継続して効率化を進めています。
お客さまにとって業務効率を向上する取り組みに、終わりはありません。ビジネス環境や市場の要求がめまぐるしく変わる昨今では、ある時点では最適だった施策でも、製造する製品や取り扱う商品の移り変わりとともに解決するべきことが変化します。作業行動推定サービスを用いて、日々の作業実績を継続的に収集することで、課題を改善した後にその効果を維持できているのかチェックすることや、日々のトレンドを追いかけて作業環境や人の行動の変化を素早く見つけ出すことなどが可能です。ビジネス環境や状況の変化に即応しながら、精度を高めた推定モデルに基づいて「人の行動の全体最適化」を将来にわたって図り続けられることは、マネージドサービスならではの利点といえるでしょう。
現在、4つの分類(台車移動、歩行、手作業、静止)から分類数を増やすことや、人だけでなくフォークリフトなど装置の動作を分析することなど、機能の追加を検討しています。製造業などさまざまな業種への展開や、各種センサーシステムとの連携なども図りながら、推定モデルの精度を高め、さらに高度な動作推定技術の開発を推進。作業行動推定サービスを、常に進化していくサービスとしてお客さまに提供していきます。
SATLYSKATAシリーズは、今後も目的に特化したラインアップを拡充していきます。先進的なAI分析を継続的に活用いただくことでより効果を発揮する、東芝デジタルソリューションズのマネージドサービスのこれからに、ご期待ください。
※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年11月現在のものです。
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