学習画像をAIで自動生成、高精度な送電線保守点検へ
ディープラーニング技術は機械学習の一手法で、データの特徴を深く学習したニューラルネットワークにより、様々な分野の認識や分析などに用いられています。例えば、ディープラーニング技術を画像認識に適用する場合、良質かつ大量の学習用画像を用意することで、高い認識精度を実現できます。一方で、適用する対象によっては学習用画像を十分に用意できない場合も多くあります。この場合、画像認識精度を実用レベルに到達させることは困難となります。画像認識による異常検知の精度を高めるためには、十分な数の異常及び正常の学習用画像があること、及び学習用画像に異常/正常などの正確なラベルが付与されていることが重要となります。例えば、送電線異常(図1)(図1)の巡視・点検などの電力インフラ向け業務は、通常エキスパートの目視で実施されており、エキスパートの知見を画像認識技術で代替するために必要な、大量の学習用画像が保存されていません。また、異常の発生頻度が低い場合、正常時の学習用画像を多数収集することは原理的に可能ですが、多数の異常画像の収集は困難です。
そこで、敵対的生成ネットワーク(GAN: Generative Adversarial Networks)を用いて学習用画像を生成する技術を開発しました。GANは、画像を生成する生成モデル(Generator) と、その画像が本物か、生成モデルによって作られたものかを判別する識別モデル(Discriminator) を用い、これらの二つのモデルが競い合うように学習を行うことで、より実物に近い生成画像を得る手法です。私たちは、画像の類似性だけでなく、画像認識を行うAIにとっても、実画像と生成画像の違いがないようにするため、特徴抽出器と特徴識別器を追加した独自の画像生成モデルを開発しました(図2)(図2)。生成された多数の画像に対して、正常および異常のラベル付けを行い、実画像と合わせてこれらの生成画像を追加して画像認識モデルの学習を行うことで認識性能の向上が期待されます(図3)(図3)。本手法を送電線異常検出に適用したところ、再現率(異常の中で正しく異常と検知される割合)が90%から92%に改善し、適合率(異常検知されたものの中で実際異常である割合)が73%から81%に改善しました[1]。今後は、更なる性能改善を進めるとともに、本技術を様々な異常検知や故障予兆検知などに展開していきます。
- [1] 画像認識精度を向上させるディープラーニング技術を用いた学習用画像の自動生成(東芝レビュー) (PDFファイル:329KB)(株式会社東芝)
- [2] データの作成から学習までを自動化 時間とコストを抑えた精度向上に挑戦(DiGiTAL T-SOUL)