今、製造業では「デジタル化」が大きなテーマです。IoT化やスマートファクトリー化などへの投資により生産性を高めている工場や、無人の工場なども登場し、深刻化する現場の労働力不足を「デジタル」を使って解決しようとしています。しかし何十年にもわたり稼働を続ける既存の設備のデジタル化は、容易ではありません。
そこで既存の設備に焦点をあて提供を始めたのが、専用の装置を後付けすることで設備の改造をせず定型操作を自動化し、さらにはデジタル化を促進する東芝デジタルソリューションズの「Meister Apps 設備あやつり制御パッケージ」です。ここではその概要について、ユースケースを交えながらご紹介します。


設備あやつり制御パッケージを使って製造業の課題を解決


製造現場の「デジタル化」を進めようとしても、既存の製造ラインで、稼働状況を見える化したり、オペレーションの最適化や自動化をしたりするのは容易なことではありません。10年や20年、場合によっては30年以上にわたり稼働を続ける既存の設備は、作業員が手動で操作することが多く、そこに人手と時間を取られて生産性を向上することが困難な状況にあります。自動化するために設備を改造する場合、改造後に設備がこれまで通り正常に稼働する保証はありません。これまで大きな問題もなく動き続けている設備に手を加えることには、リスクが伴うのです。

また、最新の設備を導入すれば、データの収集を簡単に行えるようになりますが、設備は非常に高価なため、簡単に入れ替えることができません。設備が変わると既存の金型が使えなくなるといった問題が起こることもあります。そのため既存の設備を利用しつつ、デジタル化を図る必要があります。これらのことから、順調に稼働している既存の設備を使いつつ、デジタル化を進められる技術が必要なのではないかと考えました。

このような既存の設備に対して、東芝デジタルソリューションズが提供しているのが、「Meister Apps 設備あやつり制御パッケージ(以下、設備あやつり制御)」です。設備あやつり制御は、設備の画面信号を読み取って、あらかじめ決められた振る舞いに応じて設備を操作するための操作信号を設備に送り、設備を作業員に代わり操作します。これを導入することで、既存の設備の操作を自動化することができるのです。

※あやつり:対象装置の画像信号を取得し、その画面情報から装置情報を取得する技術、およびユーザが設定した操作指示を生成し、HID(Human Interface Device)信号を介して対象装置をあやつる技術のこと。

設備あやつり制御の導入は簡単です。既存の設備を改造する必要はなく、設備の横に「設備あやつり制御ボックス」を設置して、それらの間で入出力の信号をやり取りするためのケーブルをつなぐだけです。設備のOSやバージョンなどに制限はないため、多くの設備に導入できます。

操作を自動化する振る舞いは、RPA(Robotic Process Automation)による「あやつりシナリオ」を用います。これは、各定型操作の手順に沿ってブロックをつなげていくような感覚でつくれるため、最初から、お客さまご自身で簡単に作成や変更ができる仕組みです。もちろん当社による作成支援も行っています(図1)。

また、設備あやつり制御には、もうひとつ特徴的な機能があります。それは設備の画面を読み取ってデータ化することです。例えば、製造中に設備の画面に表示される、設備の稼働状況や製造している対象物のシリアルナンバーといった値を、設備あやつり制御が文字認識機能(OCR:Optical Character Recognition)で読み取りデータ化することで、業務の改善や工場のデジタル化に活用できるようになります。

このように、設備の操作の自動化や画面に表示された情報のデータ化を後付けで行える設備あやつり制御は、設備を改造することに比べて低リスクでかつ短期間で導入できるソリューションです。


生産技術センターで生まれた技術を元にパッケージ化


設備あやつり制御が提供する「あやつり制御」技術は、「ものづくりの技術と仕組み」の研究開発を行い、東芝グループのものづくりを革新する技術を長い間生み出し続けてきた、東芝の「生産技術センター」で開発されました。もとになっているのは、半導体工場の製造ラインにおける作業員の定型操作を自動化するために使われた技術です。あやつり制御技術は、すでに東芝グループの250台を超える設備に適用し、多くの効果を上げています。

例えば、設備の操作の自動化によって、人の操作ミスに起因する損失をなくすことができました。半導体の製造においては、1度の操作ミスが数百万円規模の損害につながるリスクがあり、複雑な操作は属人化して心理的な負担も大きくなります。そこで設備あやつり制御で操作を自動化し、人為的なミスの撲滅を図りました。

製造業における人材確保という点では、新人の育成も大きな課題です。設備あやつり制御による定型操作の自動化で、人の操作自体が削減できていることから、以前より習熟までの時間を短縮できるため、新人が即戦力の人材になります。それに伴い、熟練の作業者はさらに付加価値の高い業務を担えるようになり、生産性の向上につながっています。


ユースケースから読み解く生産性向上への貢献度


活用事例を、さらに3つご紹介します。

1つ目は、半導体工場のケースです。通常、これから加工を行う製造設備にその対象物を置くと、作業者のIDや加工の条件などさまざまな入力や確認をしてから実際に加工が始まります。ここでは決められた操作や待ち時間が多いことから、一部の操作をあやつり制御技術を使って自動化しました。その結果、作業者は対象物を設備に置いたらすぐにほかの作業に移れるようになり、設備の前での拘束時間が90%削減できました。人為的なミスもゼロになり、コストの削減にも大きな効果を上げています(図2)。

また2つ目は、緊急時の設備の自動停止に設備あやつり制御を活用した事例です。例えば地震が発生した際、安全のために多くの工場ではすぐに設備を停止しなくてはなりません。しかし、震災が起こっているときに人の安全を確保しながら手動で多くの設備を一斉に緊急停止させることは難しく、また手順通りに停止できないと生産現場に甚大な被害が出て運転再開までに多くの時間がかかってしまう可能性があります。
そこで、設備を停止する操作を、地震検知システムと連携して設備あやつり制御で自動化しました。これにより、複数台の設備を安全にかつ同時に緊急停止できるようになり、復旧までの時間も大幅に短縮することが期待できます。例えば、生産の再開までの工期を、90日から10日程度に短縮できると見込んでいます。

3つ目は、オンライン化が難しい既存の設備の代わりに設備あやつり制御がオンライン対応した事例です。長い年月稼働している設備の中には、社内のネットワークに接続できない設備があります。それらの稼働状況などのデータは容易には活用できず、企業や工場の全体で統合的に管理されるデータ基盤や監視センターなどから取り残されてしまいます。
そこで設備あやつり制御を活用し、設備の画面を読み取りデータ化した設備の稼働状況やエラーなどの情報を、データ基盤に登録したり監視センターへ通知したりできるようにしました。社内のネットワークに安心してつなげる設備あやつり制御により、これまでネットワークにつなげられなかった設備もオンラインで管理や監視ができるようになりました。


設備あやつり制御パッケージの進化を推進


現在、東芝デジタルソリューションズでは、デジタル化を望むお客さまに「Meister Apps 設備あやつり制御パッケージ」の導入を進めています。製造業における共通の課題である人材の確保とその育成、そして生産性の向上などに応えることができ、さらには低リスクかつ短期間で導入できる後付けのソリューションでもあることから、今後、さまざまな製造現場で効果を体感いただけるはずです。

また、さまざまな現場に適用できるように、耐環境性能や頑健性、保守性を備える産業用コンピュータである東芝インフラシステムズ株式会社の「CP30 model 300」を推奨モデルとして選定しています。これを使って、熱さや重さのあるものを扱う設備の操作を自動化すれば、人が設備に近づく機会を減らせるため、現場の安全性も高まります。

これからもお客さまのニーズに合わせた機能の追加や改善を継続して行い、よりいっそうの進化を目指します。

私たちは、東芝グループの知見や経験、技術で皆さまのお役に立っていきたいと考えています。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2021年12月現在のものです。

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