自分で作れる、どこでも使える、すぐ始められるAR

製造現場では、経験豊富な作業者の高齢化が進行しており、一刻も早く今後を担う人材に技術やノウハウを継承しなければならないという課題を抱えています。その解決方法の一つとして、業務ノウハウのドキュメント化に期待が寄せられていますが、現状では、ドキュメントを作成する専門家ではない現場の作業者にとってその作業は負担が大きく、思うように進んでいません。ここでは、AR(Augmented
Reality:拡張現実)技術を活用して、そんなドキュメント作りを簡単にすぐ始められる「Meister AR Suite」について、ユースケースを交えながらご紹介します。


技術継承の課題解決にARを活用


製造業では、IoTやAIなどのデジタル技術を活用し、現場の作業を効率化する取り組みが注目されています。これはデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みの一つですが、現場の作業を明確にして標準化したり、会社全体のシステムを俯瞰(ふかん)して、システムとシステムを連携させたりする必要があるため、実現は容易ではありません。特に、業務に精通した熟練の技術者による気づきや解釈、判断は無意識のうちに行われることが多く、またこれらは熟練者一人ひとりの長い経験に基づく暗黙知でもあるため、文字や数値で表すなど、ノウハウを見える化することは課題とされてきました。

加えて、このような高度な技術を持つ熟練者の高齢化、さらには労働力人口の減少により技術を継承していく担い手が不足しているという課題もあります。これまで熟練者が日常の業務を通じて継承してきた、現場での判断基準や経験に基づく勘やコツといった業務ノウハウを、今までのようにじっくりと時間をかけて次世代を担う作業者に伝えていくことが難しくなっています。

こうした課題を解決するため、近年多くの企業では、熟練者のノウハウを整理してナレッジ化(知識化)し、誰が行っても均質に業務を遂行できるような業務ノウハウのドキュメント化に、期待が高まっています。しかし、これまで実地でかつ口頭で伝えてきた膨大で複雑な作業内容を、わかりやすいドキュメントとして業務ごとに一から作成することは、日常の業務も抱えている作業者にとって負担が大きく、思うように進んでいないのが実状です。

このドキュメント作成の課題から脱却する手段として期待されている技術のひとつに、ARがあります。


広がるAR技術の活用


ARとは、人が知覚している現実の世界にバーチャルな情報を重ねて表示し、目の前にある世界を仮想的に拡張する技術です。最近では、エンターテインメント業界や広告業界などに加え、産業分野においても、その活用が進んでいます。

AR技術を活用できる範囲は広く、その用途はさまざまです。例えば、工場における機器の保守業務においては、AR技術の活用により、現実の操作盤とその上に重ねて表示されたバーチャルな情報を同時に見ながらスムーズに作業することができます。また、指定された品物を集める倉庫のピッキング作業では、対象の品物が置かれている場所までの経路を、空間上にARで表示することで、作業ミスの削減や移動時間の最適化が図れるなど、作業効率の向上が期待できます。

さらには、立体的な3Dコンテンツを現実の空間にARで表示すれば、物体を実際に設置した場合のサイズ感やイメージなどを把握することにも役立てられます。


誰でも簡単にARコンテンツを作成できる


東芝デジタルソリューションズは、このAR技術を活用した、現場業務のデジタル化ソリューション「Meister AR Suite」を提供しています。AR技術により、現場における作業時間の短縮や作業ミスの削減、作業履歴のデータ化と蓄積、そして熟練の作業者からの技術継承など、現場の業務効率化や品質向上に貢献します。「自分で作れる、どこでも使える、すぐ始められる」をコンセプトに、産業分野でも気軽に使えるARソリューションです(図1)。

一般的に、ARなどのバーチャル情報を現実の世界に重ねて表示させるには、「開発」が必要です。またその開発には、専門的な知識を持つエンジニアやデザイナーの力が欠かせず、多くの時間とコストがかかると考えられています。

しかしそれでは、膨大で複雑な作業内容のドキュメント化や、その後、継続的に行うドキュメントのメンテナンスを柔軟に行えません。そこで、Meister AR Suiteでは、直感的な操作で、簡単にわかりやすいARコンテンツを作れるようにしました。

ARコンテンツを作成するツールの使い方は、シンプルで簡単です。プレゼンテーションのスライドを作る要領で、テキストや画像、動画などをパソコンの画面上にドラッグ&ドロップして自由に配置し、作成できます。矢印など、あらかじめ用意している図形に加えて、ユーザー自身で準備したオリジナルの図形も活用できるなど、柔軟なつくりになっています。

また、通常のARでは、ARコンテンツを表示する位置の基準となる目印(ARマーカー)に、QRコードのような白黒の矩形マーカーを必要とします。このため、矩形マーカーを準備して、ARを表示したい場所に貼り付け、それを管理しなければなりません。しかし、これでは手間がかかる上、矩形マーカーが貼り付けられない場所では使えません。そこで、Meister AR Suiteでは、この特別な矩形マーカーを不要としました。ARコンテンツを表示させる現場の写真を準備し、写真内の任意の箇所をARマーカーとして指定すれば、後は、実際の現場にスマートデバイスをかざすことで、そのカメラがARマーカーとして指定された箇所を認識し、ARコンテンツが表示されます。

このMeister AR Suiteは、ARコンテンツを作成・編集する「ストーリーデザイナー」と、ARコンテンツを表示する「ストーリービューア」で構成されています。これらはそれぞれ、一般に流通しているパソコンとスマートデバイスがあれば利用でき、ローカルアプリケーションとなっているため、複雑なシステムやネットワークなどの環境構築が不要です。ストーリーデザイナーをインストールしたパソコンでARコンテンツを作り、それをパソコンと直接ケーブルで接続したスマートデバイスに送るだけで、すぐに現場で利用することができます(図2)。

また、スタンドアローンでも動作可能なため、産業分野での活用において大きな効果を発揮します。例えば、電波が届かない地下や電磁波の強い変電所など、ネットワークにつなげることが難しいところでも使えます。もちろん、クラウドを経由したデータの共有や、レガシーシステムとの連携や分析を行う仕組みの構築など、お客さまのご要望にも柔軟に対応します。


Meister AR Suiteのユースケース


実際に、東芝グループの工場にある設備の保全業務を担う部門で、Meister AR Suiteを使用してみました。そこでは、口頭によるノウハウの継承が常態化しており、複雑な業務のマニュアル化やナレッジ化に悩みを抱え、また次世代を担う作業者の育成に十分な時間をかけられないという課題もありました。

そこで、熟練の作業者がMeister AR SuiteでARコンテンツを作成し、それを経験の浅い作業者が実際に設備の保全業務で使ってみたところ、一人で迷わずに作業ができました。なにより、ARコンテンツの作成に初めて臨んだ作業者でも、ツールを使いながら操作を理解し、業務シナリオに即した複雑な一連の作業を業務マニュアルとしてドキュメント化できた点、そして作った業務マニュアルがビジュアル的にわかりやすかった点が喜ばれました。

このように業務マニュアルのドキュメント化を作業者自身で進められたことから、作業者の育成だけでなく、業務の標準化に向けても有効なソリューションとなることが、実際の現場で確認できました。

また、東芝グループ外において、お客さまご自身がARコンテンツを作成して、技能の継承に活用されている事例もご紹介します。この企業では、さまざまな試験装置が使われており、その操作には経験と高度な技術が必要とされます。これまでは、装置ごとに異なる操作手順などを、紙のマニュアルを使って、熟練の作業者から次を担う作業者にマンツーマンで教育することで、技能を継承されていました。

しかし、日常の業務がある中で教育の時間を確保できない、さらには特殊な試験装置の動作を推測しながら判断や操作をするという、習得する技術の高度さなどから、技能の継承には非常に多くの時間と労力がかかっていました。

そこでMeister AR Suiteを使い、ARを生かした業務マニュアルを作成して活用したところ、その試験装置を初めて使った作業者でも、熟練者の手を借りることなく一通りの作業ができるようになったと効果を実感されました。ARマーカーとなる対象物にスマートデバイスをかざせば、指示事項などが瞬時に表示されるため、直感的でわかりやすいと現場の方からも高い評価をいただきました。さらには動画を組み合わせるなど、よりわかりやすい業務マニュアルとなるように、お客さまご自身で工夫しながら活用されています。

このように、自分たちで作ったARコンテンツで、技能継承の効率化や習得時間の短縮を実現できたことで、他の試験装置での活用、さらには新入社員の研修などでも効果を発揮することを期待されています。

※このお客さまの導入事例は、こちらでご紹介しています。

また、Meister AR Suiteをデジタルマニュアルとして海外で活用したいと考えておられるグローバル企業もあります。海外に進出している製造業の多くは、日本語のマニュアルを現地の言語に翻訳して海外の工場に展開されているため、この翻訳や展開にかかる時間とコストの削減に課題を持たれています。

視覚的に表現したARコンテンツを活用すれば、文字表現を減らし言語の違いによる影響が少ないマニュアルを作れるため、翻訳する量を最小限に抑えたり、場合によっては翻訳する必要性がなくなったりすることもあるでしょう。さらに、動画や画像、図形などで具体的に操作する位置や動きなどをわかりやすく伝えられることから、現地で直接教育する機会を減らせるようにもなります。コストの削減や効率化という観点だけではなく、これまでよりもスピーディーに事業展開できるようになることが期待されています。


Meister AR Suiteの進化に期待


Meister AR Suiteは、当社の製造業向けソリューション「Meisterシリーズ」のラインアップのひとつです。もちろん単体での利用もできますが、IoTデータやナレッジデータベースなどの技術やソリューションと組み合わせることで、現場の業務のさらなる高度化を図ることができます。

また今後は、ドキュメント作成を専門とする企業と連携したARコンテンツ作成支援サービスの提供など、多くのお客さまに最適なソリューションをお届けできるようにしていきたいと考えています。ARを活用する面においても、例えばウェアラブルデバイスに対応するなど、お客さまの利用シーンに合わせて、Meister AR Suiteは使いやすさにこだわった進化を目指します。

さらには、各種業務システムとの連携の強化や、お客さまやパートナー企業にとって利用しやすい環境となるように、オープンなプラットフォームとしての進化も図っていく予定です。

どのようなコンテンツを作成し、どのように使うのかは利用者様の自由です。業種・業態にかかわらず、ARを含むデジタルコンテンツの作成・活用にご興味がございましたら、ぜひ東芝デジタルソリューションズまでご連絡ください。

皆さまからのご連絡をお待ちしています。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2021年9月現在のものです。

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