現場における技能継承をAR(拡張現実)で支援
直感的な操作で簡単にARコンテンツを作成できるMeister AR Suite™

 地球科学のエキスパート企業として、応用地質株式会社はインフラや防災、環境、エネルギーに関わるソリューションを提供している。土や岩石の分析・評価を担うコアラボ試験センターは、試験装置操作の技能継承を推進するため、東芝デジタルソリューションズ(以下、東芝)の現場業務のデジタル化ソリューション「Meister AR SuiteTM」を採用。AR技術を駆使したマニュアル化に取り組むことで、熟練者によるマンツーマン指導と紙のマニュアルから脱却し、より効率的な技能継承と時間創出を実現した。


Before

土や岩石などの物性評価を行うコアラボ試験センターの試験装置の操作には、経験による高度な技術が必要とされるため、熟練者の指導の下で作業者が紙のマニュアルを参照しながら操作方法を習得していた。しかし時間と労力の負担が大きく、技能継承を効率よく実施する方法を模索していた。また、DX推進のなかで働き方改革への取り組みも進めており、品質を落とさずに効率的な試験を行うための環境づくりを加速する必要があった。

After

ARコンテンツを手軽に内製できる東芝のMeister AR Suiteを活用し、ひと月足らずで紙のマニュアルの電子化を実現。作業者は熟練者のサポートなしで試験装置の基本的な操作ができるようになり、習熟度の向上と、効果的かつ効率的な技能継承を可能にした。技能習得にかかる時間も大きく削減でき、その時間を試験結果の評価、設計やシミュレーションなど次のステップにつなげる業務に充てられるようになった。

地質調査の中核となるコアラボ試験センター


 応用地質株式会社は、1957年に設立された地球科学全般に関する専門技術者集団だ。「インフラ・メンテナンス」をはじめ、「防災・減災」、「環境保全」、「資源・エネルギー」という4つの分野で事業を展開している。

 「IoT技術などを駆使して各分野でDXを推進し、さまざまな活動に取り組んでいます。地質を中心に事業展開していることから、SDGsに深く関わる事業が多く、地球科学に関わるグローバルな総合専門企業として、OYOグループ全体でサステナブル経営を推し進めています」と技術本部 常務執行役員 本部長 中西 昭友氏は説明する。

 そんな同社の地質調査の分析・評価における中心的な役割を果たすのが、コアラボ試験センターだ。「民間では最大規模の設備を誇るセンターで、我々が提供する各種ソリューションの設計や、安心安全なインフラ構築に欠かせない地盤の評価や分析を行っています」と語るのは、技術本部 コアラボ試験センター長 柿原 芳彦氏。企業はもちろん、研究機関や大学等とも連携し、年間で400件を超えるさまざまな試験や化学分析が行われている。そこで重要な役割を果たす試験装置の操作技能の継承が課題となっていた。

技術本部 常務執行役員 本部長
中西 昭友氏

経験値が頼りの技能継承が課題


技術本部 コアラボ試験センター長
柿原 芳彦氏

 同センターには、数多くの特殊な試験装置がある。「これらの試験装置を扱うには、熟練した匠の技が求められます。この技能継承がまさに長年の課題だったのです」と柿原氏は語る。

 若手作業者が装置の操作方法を学ぶには、数十ページの紙のマニュアルをもとに、熟練者からマンツーマンで指導を受けていた。「紙のマニュアルと熟練者によるマンツーマン指導という方法は時間もかかり、作業者、熟練者双方にとって負担が大きく、非効率でした。また理解度に個人差が生じ、一定水準の品質に持っていく必要もある。この課題をうまく解決できる方法を探していたのです」と柿原氏。

 一方で、働き方改革を進める同社にとっては、品質を落とさずに効率的な試験環境を整備するためにも、円滑な技能継承が不可欠だった。

ARに着目、デジタルコンテンツを内製できるMeister AR Suiteを評価


 紙のマニュアルから脱却する手段として、動画でのマニュアル作成も検討したが、ビデオ撮影や編集など多くの工数がかかり、そのためのシナリオ作りなど綿密な準備も必要になるため現実的ではないと判断。ウェアラブルタイプのデバイスも検討したが、ハードウェアの扱いや費用面での負担が大きく、コンテンツそのものの作成も含め、ハードルが高かったという。

 そんな中で柿原氏が注目したのが、現実世界に画像やテキスト、3Dデータなどのデジタルコンテンツを表示できるAR(Augmented Reality:拡張現実)技術だった。「位置情報ゲームや、室内の画像に実寸大の家具を配置するARアプリを見て、試験装置の技能継承にAR技術が生かせるのではと思いついたのです」と当時を振り返る。

 一方、ARのデジタルコンテンツを活用するには課題もあった。「当社のさまざまな試験装置には、装置ごとのARコンテンツが必要になります。コンテンツ作成を外部の専門会社に依頼する場合は、我々がUIのイメージまで設計する必要があり、かつ費用も手間もかかってしまう。さすがに現実的ではないと考えたのです」と柿原氏。

 ARコンテンツを簡単に内製できるものを探していたところ、展示会で出合ったのが、東芝が提供する現場業務のデジタル化ソリューション「Meister AR Suite」だった。「まさに我々の要件にマッチするものでした」と柿原氏。また、ARを表示するためのマーカを設置する必要がなく、カメラを向けるだけでARオブジェクトが表示できるなどの使いやすさも高く評価したという。

 実際にデモを見た同センター 陳 金賢氏は、「まるでプレゼンテーション資料を作るようにARコンテンツを作成できることがわかりました」と、その手軽さに驚いたという。「先輩方が作り上げてきたマニュアルは文字が中心なので、若手が読み解くには時間がかかります。Meister AR Suiteを活用すれば、試験装置の操作箇所に紐づけて指示や注意事項をARで表示できるだけでなく、画像や動画も入れられるため、ミスの削減にもつながると感じました」と評価する。

 結果として、Meister AR Suiteが採用されることとなった。サーバ不要のスタンドアロンで使えるため、すぐに始められることも導入を決めたポイントだったという。

技術本部 コアラボ試験センター
陳 金賢氏

ARコンテンツを活用し、技能継承の効率化や習得時間の短縮を実現


 現在では、Meister AR Suiteを利用して、さまざまな土・岩石などの試験ができる三軸試験装置や液状化試験装置のARマニュアルを社内で作成。装置の前にタブレット端末のカメラをかざし、マーカとなる対象物を映すと、指示事項や動画が瞬時に表示される。対象物を映すだけで操作手順などが分かるため、現場でも直感的で分かりやすいと高評価だという。

 「取扱いが難しい三軸試験装置のマニュアルがAR化できれば、他の試験装置にも展開しやすいと考えました。より分かりやすくするため、動画も入れました」と柿原氏。実際にこのARマニュアルを作った陳氏は、熟練者にヒアリングしながら30ページほどある紙のマニュアルを読み解き、動画にするポイントなどのアドバイスを受けながら、初めてにもかかわらずわずか1か月足らずでARマニュアルを完成させた。その後作成した液状化試験装置のマニュアルは、扱いに慣れたこともあり、2週間程度で完成したという。

 ARコンテンツを活用することで、これまで三軸試験装置を扱ったことがないメンバーでも、最初から最後まで熟練者のサポートなしで基本的な操作ができるようになったという。くり返し学習のしやすさ、習熟の速さ、そして時間創出の効果について柿原氏はこう言う。「紙マニュアルと装置をいったりきたりの学習は時間が読めませんでした。しかし、ARマニュアルを利用した5回ほどのくり返し学習の中で、最初は90分かかっていた試験が40分ほどでできるまでになりました。今までだと、およそ1~2時間の指導を4、5回は行う必要があったでしょう。AR化によって指導者も8時間程度の時間削減ができ、生まれた時間でより付加価値の高い業務に充てられるようになりました」。新入社員研修における学びの加速にも貢献するだろうと、中西氏は期待する。「試験結果を考察する時間が増えて、データの意味が理解できるようになれば、例えばAIに適用できるかどうかなど、次の展開を始めていくことも可能です。ARマニュアルによって新しい可能性が広がっています」。

 Meister AR SuiteのARコンテンツ作成ツール「ストーリーデザイナー」は、「特別なITの知識がなくても負担なく使えます」と、陳氏はその使い勝手の良さを認める。「画像をはめ込んでいくだけでARコンテンツが簡単に作れます。そのため、東芝に使い方を問い合わせたことは一度もありません。他のメンバーも、私が最初に数分説明しただけで、ARコンテンツを作ることができました」。柿原氏も、「ITは私たちの専門外ですが、DX推進も含めて働き方を変えていくためには、IT活用は避けて通れません。その意味でも、手軽に扱えるのは大きな魅力です」と評価する。

ARマニュアルの拡充とともに、原位置試験や遠隔臨場時のツールとしても期待


 今後は他の試験装置についてもマニュアルのAR化を進め、技能の拡張を図っていきたいという。また、測定結果などもARコンテンツ上でリアルタイムに見られるようにできればと考えている。

 現在はコアラボ試験センターでの室内試験装置のマニュアルのAR化が中心だが、いずれは屋外の原位置試験装置についても取り組む予定だ。「在宅勤務等もあり、熟練者がフィールドに行かなくても現場の作業者に適切なコンテンツを提供できるなど、新たな働き方のかたちを支援してきたい」と中西氏。原位置試験への展開時には、両手を自由にするためにもスマートグラスなどをフル活用し、試験装置のマニュアルだけでなく、その結果をネットワークやクラウド解析を通じて現実世界に投影できるような環境づくりをしていきたいという。

 DX推進に取り組んでいる同社では、AR技術を、コアラボ試験センターを起点とした“コアラボDX”の主戦力と位置付け、この流れを全社に広げていこうとしている。今後も東芝のMeister AR Suiteが、現場のDX化に大きく貢献していくことだろう。

SOLUTION FOCUS

Meister AR Suite

AR(拡張現実)を『自分で作れる』・『どこでも使える』・『すぐ始められる』をコンセプトに、現場の課題解決をAR技術でサポートするソリューションです。
AR技術を使ったマニュアルや教育資料などのデジタルコンテンツを、どなたでもかんたんにノンプログラミングで作成・編集でき、作り方次第で様々なシーンで活用できます。
設備のオペレーションやメンテナンスでの現場業務の効率化や、熟練者からの技術継承などの課題を、ARを活用したデジタルコンテンツで解決します。

この記事の内容は2021年7月に取材した内容を元に構成しています。
記事内における数値データ、社名、組織名、役職などは取材時のものです。

COMPANY PROFILE

会社名
応用地質株式会社

設立
1957年5月

代表者
代表取締役社長 成田賢

本社所在地
東京都千代田区神田美土代町7番地

事業概要
インフラ・メンテナンス事業、防災・減災事業、環境事業、資源・エネルギー事業等

URL
https://www.oyo.co.jp/