前編では、工場やプラントのスマート化における課題と、「アセット管理シェル(Asset Administration Shell)」の活用による効果を解説しました。後編では、このアセット管理シェルの特徴を詳しく解説し、さらに東芝デジタルソリューションズにおける取り組みについて説明します。


IoTを活用したスマート化を阻害する要因を取り除く


ここからは、アセット管理シェルについて、詳しく解説します。

アセットの定義は、「組織や企業、業界にとって価値のあるもの」です。組織が所有する設備や機器、材料はもちろん、そこで働く社員や作業者、システム、また工場そのものもアセットとなります。
これらアセットをネットワーク上でつなぎ、あらゆる情報を管理するアセット管理シェルには、大きく4つの特徴があります。

1つ目は、「包括的に情報を管理できる」ことです。これは、対象となるアセットに関連するさまざまな情報をカテゴライズし、アセット管理シェルの中で階層化して管理できる構造になっているというものです。各アセットのあらゆる情報は、対応するアセット管理シェルにアクセスすることで入手が可能であり、この管理性の高さから、業務の効率化にも貢献すると考えています。

また2つ目は、「異なるメーカーの機器同士がつながる」ことです。例えば、多くの工場やプラントでは、複数のメーカーから導入した設備や機器が並び、また時には、自社製品や特注品といったものもあると思います。アセット管理シェルには、設備に関わる項目のような会社ごとの表現の違いを吸収する仕組みが備わっています。具体的には、アセットに関わる各項目の名前とは別にその意味や解釈を持たせることができ、この意味や解釈が辞書という形で国際標準化が進められています。これによって、簡単に異なるメーカーの設備や機器をつなげることができるのです。

そして3つ目は、アセットの「ライフサイクルを通じた管理」ができることです。例えば設備というアセットの場合、「企画・設計」を経て必要な部材を「調達」し、「製造」することで設備が完成します。その後、工場やプラントに搬送して「設置」され、稼働した後は「運用」と「保守」が続きます。これら設備のライフサイクルにおけるさまざまなシーンで生成された情報は全て、アセット管理シェルの中で一元的に格納できるようになっており、アセットのライフサイクルに関わるさまざまな関係者や関係部門がアセット管理シェルを成長させていくことができるわけです。(図2)。

これによって、ライフサイクルを横断したデータの活用が容易になります。例えば、設備の運用や保守の情報を次世代の製品の企画や設計にフィードバックしたり、新しいサービスを創出したりするなど、顧客経験価値を向上する活動にもつなげられるのではないかと期待しています。

最後の4つ目は、「拡張や拡大が可能」なことです。アセットの長いライフサイクルや、時代とともに進歩する業界の変化、新しい製品やサービスの創出などに応じて独自の管理項目を拡張したり、既存のアセットを参照して新しいアセット管理シェルを構築したりすることができます。


アセット管理シェルを手軽に使えるMeisterシリーズ


東芝デジタルソリューションズは、製造業のお客さまにおけるものづくりの進化を支え続ける、製造業向けソリューション「Meisterシリーズ」を提供しています。2021年6月、数多くのラインアップをそろえるこのMeisterシリーズのうち、設備・機器メーカー向けアセットIoTクラウドサービス「Meister RemoteX」および、工場・プラント向けアセットIoTクラウドサービス「Meister OperateX」の2つのサービスが、アセット管理シェルに対応しました(プレスリリースはこちら)。 

Meister RemoteXは、設備・機器メーカー向けに提供する、お客さまのサイトに設置した設備や機器のデータをリモートで収集し、見える化や遠隔モニタリングに加えて、設備や機器のデータ活用を狙ったサービスです。世界中に点在する設備・機器メーカーの製品の稼働状況を把握し、保守業務の効率化など新たなビジネス変革に貢献します。
一方のMeister OperateXは、工場やプラントのオーナーに提供する、工場などに設置したさまざまな設備や機器の稼働状況を把握し、データを活用した運用や保守の最適化につなげるサービスです。例えば、生産する際に必要な動力の使用計画と供給能力をバランスよく管理することで、エネルギー効率を向上させるなどの効果が期待できます。

この2つのサービスには、当社の「アセット統合データ基盤(以下、データ基盤)」を搭載しています。データ基盤は、設備や機器のデータはもちろん、O&M(Operation & Maintenance:運用・メンテナンス)業務に必要とされるさまざまなデータを格納して連携でき、高度なデータ活用を素早く簡単に実現するものです。
東芝グループは、約40年にわたりインフラ領域の運転・保守業務に携わってきました。そこで培った運用や保守サービスに必要な情報や情報同士の関連性、情報の整理の仕方などのノウハウを、このデータ基盤に凝縮しています。

当社は、このデータ基盤とアセット管理シェルを自動でつなぐ機能を開発しました。設備や機器、センサーなどが発する各種アセットデータを、アセット管理シェルを介してデータ基盤に自動的にマッピングして取り込めるというものです。一般的なマッピング技術では、データ項目ごとにデータ基盤のどこに格納するのかを定義する必要があります。しかし、このマッピング技術では、アセット管理シェルと当社のデータ基盤の間で、それぞれのデータに付加された「意味」の情報を基にマッチングを行い、自動的に整理してデータ基盤に格納します。もちろん各設備メーカーやユーザー独自の拡張、あるいは将来の管理項目の拡張に伴ってこのマッピングをカスタマイズすることもでき、長く運用していくことも可能です(図3)。

このデータ基盤の機能強化により、当社のMeister RemoteXやMeister OperateXを活用する際には、異なるメーカーのさまざまな設備や機器を、お客さまご自身で簡単にシステムにつなぐことが可能になり、設備や機器の稼働状況の把握や、業務の効率化や最適化などの実現を加速します。
お客さまは、データの収集に向けて設備や機器とシステムとを「つなぐ」ところにではなく、収集した後のデータを「活用する」ところに力を注げるようになります。

東芝デジタルソリューションズは、各種IoTソリューションにおいてもこのアセット管理シェルへの対応と機能強化を進め、お客さまのさらなるデータ活用やスマート化の実現に貢献していくとともに、オープンでシームレスにアセットデータを活用できる世界を目指していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2021年10月現在のものです。

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