気候変動、自然災害、貿易摩擦や地政学リスクの高まり、そして新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響により、世の中の不確実性はますます高まっています。このような、より予測が困難な環境の変化に対し、いかに迅速かつ柔軟に対応できるのかが、製造業にとっての大きな課題です。製造業では今、経営と現場の両面で迅速な判断が行える環境づくりが求められています。そこでは、デジタル技術の活用が重要な要素となります。ものづくりに関わるさまざまなデータを収集して蓄積し、そのデータを可視化したり活用したりする仕組みが不可欠です。
ここでは、現場と経営、サプライチェーンをつなぐことで、強靭(きょうじん・レジリエント)なものづくり企業への変革に貢献する、東芝デジタルソリューションズのものづくりIoTソリューション「Meister Factoryシリーズ」について、ご紹介します。


不確実性の時代に重要な「経営と現場」、DXは段階的に実現


不確実性の高まりに伴い、製造業を取り巻く環境はかつてない規模とスピードで変化しています。この予測が困難な時代には、さまざまな環境の変化に柔軟に対応できる企業への変革が求められます。そこでは、ものづくり全体の状況をリアルタイムに把握してスピーディーに経営判断できること、また、生産に関わる情報が見える化されて生産に影響をもたらす事象に現場が即座に対応できることなど、経営と現場という2つの観点での環境づくりが重要です。

このように、製造業で企業変革が求められている今、注目されているのが、データをAIにより分析するようなデジタル技術の活用です。これに伴い、膨大に発生するデータを駆使して顧客のニーズや各現場の状況などを捉え、サービスやビジネスモデルを変革して変化に強い企業に変えていこうとしています。いわゆる、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現です。

ところが、2020年12月に経済産業省により公表された「DXレポート2(中間とりまとめ)」によると、DXはなかなか進んでいないという現実があります。レポートでは、「先般のDXレポートによるメッセージは正しく伝わっておらず、『DX=レガシーシステム刷新』、あるいは、現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要である、等の本質ではない解釈が是となっていたとも言える。」や、「全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っていない」といった報告がなされています。

東芝デジタルソリューションズでは、DXは、一足飛びに実現できるものではなく、段階を追って実現していくものであると考えています。

まず、デジタル技術を活用し、バリューチェーンの効率化や、既存のものづくりの高度化を行います。これを当社では、「デジタルエボリューション(DE)」と呼び、このDEも、段階的に実現していきます。

DXは、DEによって作られたデジタル環境や得られた資源を活用し、実現していきます。

このDE、そしてDXの段階的な実現により、着実に効果を生み出しながら変化に強い企業に変革していくという考え方です。


製造現場が抱える課題は、ものづくりプロセス全体へと変化


DEを実現するためには、製造現場にある設備などからデータを集め、そのデータの活用範囲を、単一の設備や工程から、製造ライン、工場全体、工場と工場の間、さらにはサプライチェーンへと広げていくことが欠かせません。

このような中、日本の製造現場の多くでは、早くから「カイゼン」活動に取り組み、現場ごとに高い生産性や品質を確保している、つまり個別に最適化できている現状がありました。

しかし最近では、「予定通りに部材が届かないときや品質に問題が生じたときに、人手で確認や調整を行っている」「前の工程で発生した異常事態をすぐに把握できず、それを人手で確認している」「工場内の生産性をあげて次の工程を担う工場に出荷しても、次の工場での在庫が増えてしまい全体の生産性向上につながっていない(全体最適化できない)」など、実際の現場からの声として、ものづくりプロセスの全体に関わるような、課題が聞こえてきています。

当社でこのような一つひとつの声を読み解き、大きく分類したところ、工場内における異なるシステム間での情報の連携と、工場間にまたがった情報の連携という2つの連携を強化する必要性が見えてきました。それらの連携とともに情報の一元化を行い、全体最適を支援します。

こうして製造現場の改善だけでなく、ものづくりプロセス全体のマネージメント強化を支えることを目的に、ものづくりIoTソリューション「Meister Factoryシリーズ」の大幅な機能強化を行いました。


東芝グループの知見を凝縮した「Meister Factoryシリーズ」


Meister Factoryシリーズは、ものづくりに関わるさまざまなデータを収集・蓄積・活用するためのプラットフォームソリューションです。ものづくりの現場で過去に起きたことや今起きていることを、サイバー空間上に精緻に再現し、先進のデジタル技術を使って分析や可視化を行います。自動車メーカーや電子部品メーカー、半導体メーカーなど、工程や部品の数が多い組み立て加工を行う企業を中心に、多くの製造業のお客さまにご利用いただいているソリューションです。

このソリューションには、「Meister DigitalTwin」という製造業向けの統合データモデルを搭載しています。

このデータモデルは、製造業として「ものづくり」に携わってきた東芝グループならではの知見を生かし、開発したものです。東芝グループでは、長い間、多種多様なものづくりを続けてきました。それらすべてのものづくりのパターン(生産技術)を熟知し、その知見を基に限りなく共通化したことから、ものづくりの違いを吸収しつつ、さまざまなデータを格納できるようになっています。IoTデータはもちろん、サイロ化されたシステムのデータなども集約し、統合的に管理することができます。さらに、データの活用範囲を広げていくことを想定したつくりになっているため、設備や工程から工場間などへと段階を経て活用範囲を拡大する場合でも、データモデルの改造は必要ありません。

また、使用するデータベースは、当社が独自に開発したビッグデータ・IoT向けデータベース「GridDB」です。時々刻々と発生する多種大量なミリ秒単位のデータを、高速に取り扱える処理能力の高さに特長があります。

統合データモデルに蓄積されたデータは、ものづくりIoTデータ活用ソリューション「Meister Apps」を使うことで、さまざまなユースケースにて迅速かつ柔軟に活用できます。標準画面やダッシュボード群など、用途に応じて見える化する機能も準備しています。

今回、このMeister DigitalTwinを中心に、工場内におけるシステム間の連携、そして工場間の連携を強化する機能を開発し、Meister Factoryシリーズの新バージョンとして提供をはじめました。その仕組みについて、強化ポイントと共にご紹介します。


新バージョンにおける2つの連携強化


まず、工場内におけるシステム間の連携強化について説明します。

ものづくりの現場は、製品の生産計画を立てるERP(Enterprise Resource Planning)や、その生産を支援するMES(Manufacturing Execution System)など、さまざまな基幹システムにより支えられています。それら各システムでは、それぞれの用途や目的に応じた種類や粒度のデータを取り扱っており、例えば、ERPでは日単位で生産計画を立てる一方で、MESでは秒単位で生産実績を管理します。

このように、扱うデータの単位(粒度)が異なるシステム間でデータを連携させるためには、データを変換して、粒度の違いを合わせる必要があります。MESの実績データを月次計画に生かす際には、秒単位のデータを月単位に変換するなど、それぞれの用途により対応が異なります。

また、同じMESというシステムだとしても、世の中にはさまざまなMESがあり、製品や工程などの違いで異なるMESを活用するケースもあります。この場合も、扱うデータの種類や粒度が一致しなくなることが多く、やはりシステム間でのデータ連携は難しくなります。

このような、システム間でのデータの違いに対応するため、Meister Factoryシリーズでは、例えば、取り込んだミリ秒単位の時系列データを、日単位や月単位などで集計した期間データとしてもため込むなど、データ連携に必要となる機能の強化を行いました。

これにより、ものづくりの現場のさまざまなシステム内にある、生産計画や、部材の入荷計画と在庫数、製品の出荷数などのデータをスムーズに連携でき、計画と実績の差異や生産状況などを、現場でリアルタイムに把握できるようになります。

次に、工場間の連携強化について説明します。

製品は、数多くの部品で構成され、またそれぞれの部品はさまざまな工場や企業で分散して生産されることが多いことから、各生産拠点での生産状況をいかに把握して、製品の生産性をあげたり経営に役立てたりできるのかが、製造業における課題のひとつです。

そこで当社は、「Meister DigitalTwin Connector」を開発し、Meister Factoryシリーズの新バージョンで提供をはじめました。これは、各拠点に分散している生産に関連するデータをオンラインで収集して結合し、工場を横断した統合的なデータ管理を実現するものです(図1)。

この「つながる工場」の実現により、複数の工場や企業で部品を生産している場合でも、組み立て工場では、各部品の生産計画やその実績をリアルタイムに確認できるため、必要なアクションが早急に取れるようになります。

また、各生産拠点から収集した情報と、新たに提供するダッシュボードを組み合わせることで、例えば、前の工程を担う工場での生産計画やその準備、進捗の状況など、いま確認したい工場やそこで見たい情報を選んで確認できるようになります(図2)。

例えば、前工程から部材が届く時期の見込みが立ち、部材の在庫を多めに抱えておく必要がなくなったり、前工程の情報を基に早めに危険を察知して対処できたりするといった効果が生まれるのです。

また、ダッシュボードでの確認により、これまで手間と時間がかかっていた人手によるさまざまな状況の把握や調整などが不要となり、作業負荷の軽減や人材の有効活用にもつながります。

これらの価値は、システム間、そして工場間の連携強化によって、IoTデータだけでなく、さまざまな基幹システムのデータや分散された生産拠点のデータといった、ものづくりプロセスの全体にわたる情報が収集できたことにより生まれたものです。

もちろん、点在する各現場のリアルタイムな状況を反映した全体最適なものづくり計画を立案するなど、経営の観点での効果も期待できます。

さらに、複数の工場にある各MESのデータなどを生かし、製品の生産情報を統合することで、製品のトレーサビリティーの確保にもつながります。

このような効果をもたらすMeister Factoryシリーズは、各工程や工場のそれぞれで利用されている各種システムを意識することなく、ものづくりプロセスの全体に関わる状況をリアルタイムに把握できるようになるソリューションです。


東芝グループの知見やノウハウを取り込みさらなる進化へ


経営と現場の迅速な判断を支援するMeister Factoryシリーズは、汎用性の高いソリューションです。最近では、工業製品だけでなく、食品を製造するようなプロセス製造業からの問い合わせも増えています。小さく始めて、状況にあわせてステップアップしていけるという、初期の導入とその後の拡大がしやすい点も魅力となっているようです。

東芝グループでは現在、グループのものづくりの高度化に向けた活動に取り組み、このMeister Factoryシリーズを標準的なIoTツールと位置づけ、活用しています。ここで得た知見やノウハウも取り込みながら、Meister Factoryシリーズはさらなる進化を続けます。

高まる不確実性に対応するため、システム間と工場間の連携強化で、ものづくり企業の経営と現場の迅速な判断、そしてスマートマニファクチャリングのさらなる進化を実現する「Meister Factoryシリーズ」。東芝デジタルソリューションズは、このものづくりの高度化を支援するソリューションを、継続的に強化し、これからも製造業のDXの実現に貢献していきます。

  • この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2022年4月現在のものです。

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