2024年4月22日
株式会社東芝

量子インスパイアード計算機「シミュレーテッド分岐マシン」を用いた5G基地局におけるリソース制御技術を開発

-世界で初めて5Gの低遅延達成に必要な0.5ミリ秒以下での、複数端末のリソース割当の最適化に成功。5Gの普及による社会のDX推進に貢献-

概要

当社は、当社の量子インスパイアード最適化計算機「シミュレーテッド分岐マシン(Simulated Bifurcation Machine(SBM))」(*1-4)を用いて、5G通信の最適な時間と周波数の割り当て(以下、リソース割当)を行うリソース制御アルゴリズムを開発し、5Gの規格で期待される最小伝送遅延(1.0ミリ秒)を達成するために必要な0.5ミリ秒以下で20端末のリソース割当を行うことに世界で初めて成功しました(*5)。
5Gは高速・低遅延・多数同時接続という特徴を有しますが、5Gの規格内に低遅延で複数端末を同時通信するためのリソース割当を行うのは困難でした。本技術により、同時に低遅延で複数台の端末と通信できる効率的な通信環境を実現し、工場や倉庫といった産業や物流の現場における産業機器のリモート制御や自動化の加速に貢献します(図1)。また当社は、携帯電話基地局や5Gの導入を進めるさまざまな現場で本アルゴリズムの活用を想定しており、今後これらの事業者に広く提案し、社会のDX推進に貢献していきます。
当社は、本技術の成果を、2024年4月21日~24日に、アラブ首長国連邦ドバイで開催される国際会議 IEEE WCNC 2024(*6)で発表します。

開発の背景

労働人口の減少により、工場や倉庫では知識・技術の継承や人手不足が深刻な課題となっています。課題解決のためにIoT化を通じて、ロボットを活用した荷物の運搬の自動化や、業務プロセスの改善が進められています。複数台のロボットが相互干渉することなく効率よく稼働するためには、同時に複数のロボットと通信しリアルタイムに制御することが必要で、高速・低遅延・多数同時接続の特長を持つ5Gへの期待が高まっています。また、通信キャリア以外も自営網として建物や土地など限定した範囲で5Gを運用する「ローカル5G」も登場し、今後普及が見込まれています。
一方、高速・低遅延・多数同時接続である5Gを達成するためには、複数端末に対し、通信品質などのさまざまな要件を考慮して、どのリソースを割当てるかを瞬時に判断する必要があります。しかし、期待される最小伝送遅延である1.0ミリ秒を達成しつつ柔軟なリソース割当を実現することは難しく、特に、時間内に複数端末の要件を扱いリソース割当の最適解を網羅的に探索することが非常に困難でした。

本技術の特徴

そこで当社は、リソース割当に、膨大な選択肢から最適なものを選び出す組合せ最適化問題を超高速に解くことが可能で、金融、創薬、AI、無線などさまざまな領域への適用が期待されているSBMを応用し、低遅延を実現しました。一度5Gの規格によるリソース割当の制約を緩和した条件でリソース割当の最適化問題をSBMで解き、その解と統計情報を用いてさらに5Gの制約を満たすようにリソース割当の最適化を行う、2段階の最適化を行うリソース制御アルゴリズムを開発しました(図2)。
当社は今般、本アルゴリズムを用いて実証を行いました。シミュレータで20端末をランダムに配置してそのチャネルを計算し、その結果をSBMに渡して解くことを1000回繰り返しました。1000個のサンプル問題に対して、SBMを応用したリソース制御アルゴリズムの検証を行い、従来から知られているGreedyアルゴリズム(*7)を10万回繰返して探索した割当よりも質の良い割当が可能になることを確認しました(図3)。これは、従来手法では局所的な最適を行うのに対し、SBMでは全体最適を行うことができるためです。さらに、SBMではすべてのサンプル問題に対して、0.5ミリ秒以内に割当可能であることを世界で初めて確認しました。
これにより、産業現場で自動化のために導入されるロボットを数ミリ秒の高速で動作させることが可能となるなど、さらなる効率化が期待できます。

今後の展望

高品質な5Gが実現すると、複数台のロボットの高速で精密な制御が可能になるなど、さまざまな産業領域で5Gの活用が進むことが期待されます。また、SBMは超高速に膨大な数のパラメータを最適化できるため、リソース割当に限らず、無線通信分野のさまざまなアプリケーションへの適用が期待されます。当社は、SBMを広く活用することで、“高速・低遅延・多数同時接続”な5Gを実現し、DXの推進による労働力不足の解消をはじめとする生産性向上やサービス向上といった社会課題への解決に貢献してまいります。

図1: 最適リソース制御技術を適用することで複数台ロボットの同時低遅延制御が可能
図2: 2段階の最適化を行うリソース制御アルゴリズムの模式図
図3: 10万回繰り返して探索した従来の割当よりも良い割当が可能

*1 東芝ニュースリリース
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/19/1904-01.html
H. Goto et al., “Combinatorial optimization by simulating adiabatic bifurcations in nonlinear Hamiltonian systems,” Science Advances 5, eaav2372, 2019.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aav2372

*2 東芝ニュースリリース
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/21/2102-02.html
H. Goto et al., “High-performance combinatorial optimization based on classical mechanics,” Science Advances 7, eabe7953, 2021.
https://doi.org/10.1126/sciadv.abe7953

*3 東芝ニュースリリース
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/21/2103-01.html
K. Tatsumura et al., “Scaling out Ising machines using a multi-chip architecture for simulated bifurcation,” Nature Electronics 4, pp. 208-217, 2021.
https://doi.org/10.1038/s41928-021-00546-4

*4 東芝デジタルソリューションズ, “SQBM+TM(東芝が開発したシミュレーテッド分岐マシンを核とする量子インスパイアード最適化ソリューション),”
https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/ai-iot/sbm.html

*5 5G仕様の最小伝送遅延を達成するために必要な0.5ミリ秒以下での、複数端末のリソース割当最適化は世界初(当社調べ)

*6 H. Obataet al., “Ultra-High-Speed Optimization for 5G Wireless Resource Allocation by Simulated Bifurcation Machine,” IEEE Wireless Communications and Networking Conference (WCNC), Apr. 23, 2024, Dubai, https://wcnc2024.ieee-wcnc.org/

*7 端末の順番を決めて、順番に品質の良いチャネルから詰めていくアルゴリズム